四百四十三生目 土竜
イタ吉に『聞きたいことがあるんだよな』と話を振られてうなずく。
この部屋の感じといい厳重な隠され方と言いココは……
「単刀直入に聞くけれど、キミはこの迷宮の管理者?」
「迷宮の管理者!」
「どうやら当たりの――」
「なんだか聞いたことがある!」
「ああ……当たり、かな……?」
イタ吉がうれしそうに言おうとしたところを見事キャンセル喰らっていた。
反応が微妙だ……
なんなのだろうか。
「なんだっかなあ……何かで聞いたなあ……」
「うーん……もしかして、この部屋を見つけた時、とか?」
私の体験を踏まえてあまり当てる気がなくつぶやく。
モグラの顔がパッと輝いた。
「ああ! それだ!」
「もしかして……自分が迷宮の管理者だって自覚がない?」
「その迷宮の管理者というものが、まずよくわかってない……」
「大丈夫かコイツ」
そうか。
特に基礎的な知識のない魔物が偶然迷宮世界を開いてしまうこともあるのか。
この迷宮が狭い理由もうすうすわかってきた。
「……もしかして、ここの地下ひととおり、手掘り?」
「そうだよ。オレ自慢の洞窟! まあ結構ニンゲンたちも手伝ってくれたけどね」
多分それ手伝ってない。
ただ利害の一致で鉄鉱石ほってただけだと思う。
まあそれは言わないでおこう。
「んじゃあ、アレか。ここ全体がお前の巣なのか。悪いな勝手に入って」
「いや、もうこの中にはなぜかたくさん魔物たちがいるから気にしてないって。さっきはオレの部屋に入り込まれてびっくりしたけどね」
イタ吉の謝罪を受け入れるモグラ人。
大きく伸びをして立ち上がり爪を爪で研ぐ。
「オレ、掘ってキレイにととのえるなら負けないけれど、戦いはそんなに得意じゃないから、びっくりしたよ」
「確かに迷宮の機能に頼らずここまで掘るのはすごいなあ……」
ふつうに迷宮の力だと思っていた。
確かモグラは掘るのは重労働だから基本は補修をしていると前世では聞いた。
だから坑道内はわりかししっかりしているのだろう。
「そのメイキュウ……の機能? って?」
「うーん……説明するより、とりあえずここへ」
モグラを魔力が強く感じられる机の前に移動させる。
「ご飯食べる机?」
つぶやきが聴こえたがつとめてスルー。
イタ吉は大笑いしているが。
両手を置いてもらい行動力を流し込んでもらうと……
「うわわっ!? オレの部屋にこんな力が!?」
「おお、起動した」
机とそこに繋がる壁から多数の表記が出てきた。
まさに手付かずって感じだ。
普段はログでみる不思議と誰が見ても理解できる魔法の文字が多数で独自のいじりをした形跡がない。
モグラ人が驚いたのは魔力の拡がりと展開それに音だろう。
モグラ人の言語がさらに後から響いて2度びっくりしている。
これは……簡単な解説か。
「おおお……これどうすれば良いんだろう」
「キミは、改めてこの坑道の管理者になったってことだね。自由にやってもらっていいけれど……このままだとわかりにくいだろうし、色々教えてあげるよ」
「おう、俺の冒険しがいがあるようにしといてくれよ。先に探索再開しておくぜ」
「あいよ」
イタ吉は散々笑った後先に未探索の場所に向かってしまった。
私はとりあえず軽く錯乱しているモグラ人に手ほどきをした……
「で、できた、か?」
軽くやるつもりが結構ノリノリで組んでしまった。
モグラ人くん何も知らないけれど吸収率が良かったから……
もはやモグラくんが直感的かつ繊細に操れるようにチューニングしてある。
掘る能力が得意みたいだから爪先の僅かな違いで変化を起こせるように。
逆に視界情報は全て消してあらゆる情報を彼のログと視覚以外の感覚……音やにおいそして触覚に置き換えた。
さらに迷宮機能をフル活用しこれから時間をかけて彼の巣穴は大きく深くそして魔力濃く育っていくはずだ。
それが後々この集落の。さらには冒険者ギルドの再興にもつながるかもしれない。
ただ軍隊が強いらしく冒険者稼業みたいなことも代行してしまうかもしれないが……ギルドの受付の腕次第だ。
「うん、今の所これで完璧だと思うよ」
「ふぅ〜、楽しいが疲れたぁ〜、オレはやっぱりただ土をいじっているのが合っているよ」
「まあ今後も点検とかしつつ、自分で掘り進めても大丈夫だからね」
それじゃあそろそろ帰ろう。
1時間以上ここにいる気がする――
「っ!?」
「えっ!? 今の!?」
唐突だった。
今までいなかったはずのあまりに強大な気配が突然現れた。
身の毛もよだつような『嫌な気配』だ。
モグラ人が迷宮をいじったせいじゃない。
そんなことで急にここまで戦意を放つ存在がポンと現れない。
カエリラスの一員がワープしてきたか!?
「キミはここに隠れていて! 絶対入れられないように!」
「あ、え、わかったよ!?」
急がねば!