四百四十一生目 過去
集落の長に言われるがまま中に入り階段をくだっていく。
この中でもしかしたらカエリラスが魔王復活に必要な狩りをしているかもしれないと思うと行く必要性は高いからね。
入れないダカシは置いてゆきジャグナーももしものために待機してもらった。
「ふたりだけで迷宮探索だなんて、凄く珍しいよな」
「そういえばイタ吉とふたりっきりで組むのはそうないか」
そうこう話している間に階段下までたどり着いた。
中は暗く設置された松明のみが狭く乾いた地下洞窟の様子を照らす。
中は静寂に包まれ私達の声の響きだけが良く通る。
音の感じを光魔法"ディテクション"で脳内にマッピングしていくがあまり複雑な分岐はなく突き当りか1本道になっているようだ。
いくつも掘られた後やまだ掘れそうな鉱脈もある。
私達にとってはそこまで躍起になって掘るような品は転がっていないかな。
生物の気配はあるにはあるようだが私達がきたとわかると引っ込む程度だ。
「うーん、しっかし、張り合いがねえなあ。魔物も全然いねえし魔力のこもったモンもそうないし……」
「迷宮なのに、静かだね」
もちろんイタ吉のせいというのもある。
イタ吉はわざわざ自身の力を隠蔽しない。
自身の気配をゼロに寄せてハントするのはやるが力の誇示は垂れ流しだ。
そのためこの迷宮にいる魔物たちはたいてい巣穴か土の下に逃げてしまう。
まあ平和ではあるがそのままでは収穫がない。
「まったく、ふたりでこうして歩いていると、森で出会った当初を思い出すね」
「だいぶ昔だな……なんとなくは覚えているが懐かしいな」
ふたりで8つの足が鳴らす音だけ響く洞窟内。
なんとなく恥ずかしくなってくる。
「あの頃は……大変だったけれど、今から考えると、ちょっと楽しかったし、あの選択は良かったと思うよ」
「うん? まあなんとも大変だったけれど、何かあったっけ」
「あれだけのことあったのに忘れないでよ……!」
笑ってしまった。
まったく殺し合いもしたのに。
だからこそあえてそう言ったのかもしれないけれど。
「イタ吉、私に負けて、でもイタ吉を治して今がある……あの時そうしたのは、今でも間違ってないと思っているし、現在のみんなとのアノニマルースに繋がっていると思うんだ」
「あー、そんなことも、あったなあ。俺が言うのもなんだが、なんであの時生かしたんだ?」
「なんとなく、そっちのほうが良いと思ったんだよ」
どこか遠いところの話のようにイタ吉は言ったが私は見逃さないとも。
耳の動きにわずかに恐怖が見えた。
しっかり覚えてるじゃないか。
「なんだそりゃ! ……おっ」
「それから時がたってこうして並んで歩いていると、デートだと思われちゃうかもねぇ……あれ?」
からかい冗談をいっていたらイタ吉がいつの間にやら加速していた。
助走した後に一気に行動力を纏った加速!
まさに音速のような速度で洞窟の奥行き止まりのひとつに突っ込んでいった。
何をそんなに急いでと思ったらイタ吉が前脚で何かをがっちり掴んでいた。
ものすごいキーキーと鳴いている。
私も近づいてよく見ると……コウモリの魔物だった。
「やっとまともに魔物がいたぜ。話、聞くんだろう?」
「うん、まあそうなんだけど……」
これ話してくれるかな……?
"観察"して"言語学者"との組み合わせで言語を学ぶ。
コウモリの言葉を理解している間に暴れ疲れおとなしくなっていた。
あと捕まえただけで何もしないので混乱しているっぽい。
「うん、イタ吉そろそろ大丈夫そう」
「あー、あー、どうだ、俺の言葉翻訳されているか?」
「な、なんだ!? 話せるのかな!? だったら離してくれよ!!」
「今離すと逃げるだろうからダメだ」
キーキーと抗議の声を上げるコウモリが再び暴れだした。
イタ吉が私を見てきたのでやれということだろう。
"無敵""ヒーリング"組み合わせ。
最初は私が前脚伸ばして光っているのにビビっていたが次第に落ち着きそのうち緩んできた。
「ほああ……なんやこれ……気持ちいい……」
"ヒーリング"は生命力の活性化。
つまりは血行も促進するから自然にポカポカするだろう。
相手の限度は越えないしね。
"無敵"を好感化しやすくする力をオンにしておく。
精神的にも緩み戦意と逃走の気をなくしておく。
すっごく簡単に言えば落ち着かせているだけだなコレ。
"無敵"も通りすっかりおとなしくなったコウモリ。
イタ吉に頼んで離してもらうとゆったりと空を飛びそのまま天井に逆さまにくっついた。
むしろ飛んでいる時が逆さまなのかな。
「ふうう、食べる気がないなら捕まえないでおくれよ。そんなに強そうなアンタに捕まって、生きた心地がしなかったぜ」
イタ吉をにらんでいたがイタ吉自体はどこ吹く風だ。