四百四十生目 玉岩
「なるほど、お前さんも例の事件の被害者というわけか」
「広くとればそうなるな。帝都で襲われたわけではないが」
ところどころ伏せつつも比較的経緯は本当の事を話した。
実際この帝国でまずカエリラスの事をしらないニンゲンはいないからね。
とんでもないことをしでかしたやつらのとんでもない実験結果と言う点を強調して伝えれば警戒心はほぐれていった。
「俺やローズ、それにジャグナーは、まあこいつ絡みでいろいろあってな」
「なるほど厄介そうな……」
「私は冒険者で、ダカシをこうした悪魔を退治したさいのメンバーなんです」
「俺とそこのイタ吉は魔物なんだがな」
さらっと私をニンゲン側カウントするジャグナーの即興がありがたい。
周囲で集落の人々が覗き見し衛兵たちがソワソワしまくってこちらも落ち着かないのはなかば仕方ないか。
「ところで、さっきの王の話なんだが……」
「ああ、そうだな! 順にはなすとしよう」
ダカシに話を振られて集落の長が手を叩き解説してくれた。
「王たちはこの帝国に多く散らばっている。地方ごとに王がいてみな偉大だ。たださらにその王たちを束ねる上級王がいる。大都市に所属していて、帝国だと3人いるな」
なるほど……県庁トップが地方王で上級王はさらに都庁トップか。
役割は少し違うみたいだがだいたいあっているはずだ。
みなが理解したのを見てから集落の長は話を続ける。
「そして全ての王、いや帝国全てを束ねるのが皇帝だ。今は生死が不明だが……生きておられると信じているよ」
「なるほど……だいたいわかった」
「それと王の紋章だな。銅より銀、銀より金がそれを持つ者の権威が高いのを指す。まあ金を持つ者など王の一家ぐらいだろう。それと紙面だとどこの所属か表す程度の意味合いらしい。まあ銅指輪すら見たのは初めてで、こちらとしては恐縮するしかないがな」
「なるほどな。ありがとう」
ダカシのお礼に集落の長が軽く返す。
いやあなかなか良い人のようでよかった。
「それにしても……そうしていると魔物にしか見えないね、ローズオーラさんとやら」
「いやあ、よく言われます」
キノセイダヨー。
笑ってごまかした。
その日は陽が暮れだしたのでその場で休むことに。
村人たちも次第に打ち解けて周りで酒も飲みだした。
過度な接触があるたびに衛兵たちがヒヤヒヤしていたがダカシはおとなしくしていた。
「俺の大きさのせいか、みんな小さい子みたいに見えて、怒る気力もわかないな……」
そう話していたがダカシもまだ十分小さい子だった気がする。
最終的に子どもと酔っぱらいに背中で遊ばれていたがそれはそれで平和な光景だった。
食事はアヅキが用意したものをこっそりとみんなで食べる。
ダカシは巨体に見合わず食事量はニンゲン時とそう変わっていない。
ニンゲンの子としては良く食べるがダカシの身体からしたらひとのみだ。
それで満足しているのだからまああえて何か言うでもないが。
そして翌朝が訪れた。
さて私達がウォンレイ王から言われたことはいくつかあった。
1つめは使者としての仕事。戦いの準備に関する呼びかけだね。
2つめは問題解決。騒動のせいかはたまた別かそういうのをなんとか収めてもらう。
3つめは……ウォンレイ王にも届いた『降伏か死か』を迫る通告文。
これはウォンレイ王だけに配られている可能性は低いとのこと。
各地に配られているのなら……
降伏を選ぶ者も少なくないだろう。
そこの見極めだ。
解決は難しくとももしかしたらウォンレイ王が保護できるかもしれないからね。
また反抗を選ぶのなら合流して戦力になる。
この集落小さいから関係ないとは思うが……
パンダの言っていた『嫌な気配』はまだ顔を見せない。
昨日は楽しかった。
そのどんちゃん騒ぎに紛れてみんなを手癖のように"観察"をしていく。
"観察"を鍛えるためには新しい相手をどんどん調べるしかない。
その時に少し気になる相手がいたが……何もないならこちらから動くほどでもないか。
この集落は土作りの家が土色そのままに立ち並んでいる。
安価というのもあるがそもそも震災がないからこれで十分頑丈さに問題ないということだろう。
岩がそこらの山にゴロゴロしているのが面白い。
そのせいか丸い立派な岩にかざりつけがしてあって山の上に鎮座してある。
村人に聞いたら、
「あれは蒼竜様の使者、大地を豊かにする玉岩竜様を祀っているものなんだよ」
と聞いた。
ちなみに玉岩竜というのは現代ではいないドラゴンらしいが蒼竜の使者で必要な時にやってくると思われているとか。
八咫烏なんかの扱いと似ているね。
さらに集落の長がすぐ近くにあるという迷宮も紹介してくれた。
ダカシだと小さすぎるが私たちなら入れそうだ。
迷宮近くにやっぱりあるんじゃん。
「ここが坑道の迷宮なんだが……その、迷宮としては期待しないでくれよ?」
「それってどういう?」
「入ればわかるさ、すぐにな」