四百三十五生目 来夜
「なるほど、私達を呼び止めた本当の理由は……」
「本当というよりかは、本命だな。勇者がこの時代に生誕していたとは驚いたよ」
ウォンレイ王がグレンくんと目線を合わせるために屈む。
思わず護衛がやめてくれと言わんばかりに動き出すが王が手で制止した。
「勇者君、まだこれほど小さいのに外国の危険な地まで良く来てくれた。そしてそれと同時に残酷なことも告げなくてはならない」
「残酷な、こと……?」
グレンくんが息を呑む。
ウォンレイ王は真剣な眼差しへと変わった。
「勇者が生まれたということは、魔王は遠からず必ず復活してしまう、ということだ」
「えっ!」
「やはり……」
グレンくんが驚きゴウが考えにひたる。
勇者と魔王は常に同じ時代にいるみたいな話なのかな。
正直かなりよろしくない話だ。
「もはやカエリラスの魔王復活の野望が叶う時は近いだろう。もはや私はとやかくは言わない。その重荷、すこしでも大人たちにも背負わせてほしい」
「……俺、勇者として以上に自分が何をしたいか見極めるために、この旅に加わっています。だから、大丈夫です!」
真剣な眼差しを受けた王様は立ち上がり笑顔を見せた。
「良し! 良い答えが聞けた! 我々大人がまず頑張るとしよう!」
そして翌朝。
私達は任された依頼を優先しつつもかなり自由に動いていいお墨付きを貰えた。
戦力としては期待されているが外国人をそう縛るのも難しいといったところか。
それに『冒険者なら自由にやらせたほうが良いかもな』とのこと。
なおちゃんとやればお給金もでる。
がんばろう。
街の外に出てしばらく行き魔物避けの結界を抜ける。
誰も私達の他に見えなくなったあたりで……よし。
「うん、そろそろみんなを呼び出そうかな。あの丘の向こう側ならニンゲンも通らないだろうし」
「あ、ついに魔物の仲間を呼び出すの!?」
「うん」
移動して"以心伝心"で呼びかける。
みな事前に言ってあったから大丈夫そうだ。
都度用事をしに帰ったりまた戻ってきたりはするだろうがまずは全員召喚だ。
[サモンアーリー 承認を得た相手を近くにワープさせる]
空魔法だ。
コレ1回につき1体しか呼び出せないので使いづらい。
ホリハリーの精霊指示能力で3つ同時に唱えていく。
最初に承認がおりるのは……きたきた。
「出るよー」
「出るって、どこから……うわあ!」
地面が輝き青い光がのぼり消えるとそこからは見知った顔。
戦闘脳な熊の……
「おう! 到着か! あの世じゃないな?」
「ただの転送魔法だから大丈夫だって……」
「おっと、知らない顔もいるな。俺はジャグナーって呼ばれている! よろしくな!」
みな挨拶を返す。
グレンくんも驚きはしたがなんとか挨拶を返した。
次々召喚していこう。
「ようし1番乗りか!?」
「イタ吉は2番目」
「なっ!?」
「俺がナンバーワンだ!」
尾に巨大な刃を持つイタチのイタ吉。
「こんにちはローズさん」「きましたよー」「他の者もすぐきますよね」
「うわっ、たくさん!」
「順番に呼び出しているけれど、彼らは私の直属部下だよ」
10匹いる部下の内5匹を召喚。
残り半分は現在皇国を南下させて調べさせている。
「こっちでの食糧集めも捗りそうだ」
「香辛料がたくさんあるらしいよ」
「ええと……においの強いやつだっけ?」
普段は狩りと農業を担当する兄のインカだ。
新しい食材集めには新しい土地が1番だからね。
もちろん手も貸してもらうが。
「お、大きい……!」
「お! 久しぶりだな!」
「すごいな……俺が知っている限りはかなり高度な魔法のはずなんだが、こうもあっさり来られるとは」
「魔法得意な姿だしね今」
巨大な黒いたてがみの無いライオン姿だが元ニンゲンのダカシ。
現在鍛え直し中でこの姿でも戦えるように努力しているが復讐を成し遂げるためにきた。
復讐心は今も抱え続けているが1度悪魔にのまれたのに再取得し悲しみだけにとらわれなくなったようだ。
そして最後。
「はーい、近くにいるひとと魔物たちみんな離れてー」
「え? また大きいのが来るの?」
「おいおい、コレ以上のサイズ本当に大丈夫かい……?」
グレンくんやオウカの心配はわかるがとりあえず離れてもらう。
むむむ……サイズが大きいからまるで引っかかる感じが……それ!
丘の上に相手を召喚!
その姿は光を飲み込む黒。
見ているはずなのにそこの光を視認できないことで輪郭を見ている。
唯一目だけは影に浮かぶ。
家よりも大きな肉体は今のダカシすらも凌駕するサイズで翼は3対もある。
広げれば天を覆い尽くすその姿はもはや夜。
思わずニンゲンたちは武器を取りかけて……
「あ、みなさんこんにちは。ドラーグって言います」
続いたなんとも気の抜けたやさしげな声にみな我に返った。
敵じゃあないんだよね敵じゃあ。
むしろ味方。




