四百三十三生目 立場
「なあっ!?」
大きくのけぞり剣も折れて吹き飛んだ。
勝負ありだ。
なんか思っていたよりもかなりうまく出来ちゃったけれど……
私の剣だけ研がれていない?
大丈夫?
ニンゲン相手にやっていたら致命傷だよ?
「そ、そこま――」
「まだだあっ!!」
兵士の制止すらさえぎり怒声と共に男は動く。
のけぞりの勢いを利用してそのまま跳び上がりバク宙。
奇怪な動きに見せかけてそのまま突撃してきて低姿勢からの蹴り上げ!?
「わあっ!?」
「これで!」
(よし"私"がやる!)
胴体を蹴られかけた私に変わってドライが肉体操作に移る。
左腹狙いなので右手の剣では間に合わない。
だがドライはあえてここで前へと踏み込んだ。
左腕を固め腹への攻撃を何とか防ぐ。
1番インパクトが炸裂する靴部分を避けて内側に入り込んだのか。
そのまま剣から手を離し拳を握りしめる。
まだ「やったか!?」と思っている段階だろう相手の顎を思いっきり殴り飛ばした!
きれいに入った拳はそのまま相手を空へ打ち上げて数メートル吹き飛ばしてから地面に落ちる。
ありがとうドライ。
(本当は刺しても良かったんだが、死人が出るのは厄介だからな)
ドライの配慮に感謝しつつも肉体の操作権を戻す。
相手はピクピクするだけでもはや動かなかった。
「そこまで、そこまで! 勝者、ローズオーラ! 救護班! 気絶者が出たぞ!」
「な、なんとか勝った……」
蹴られた左腕は服の力で防げたのでともかく殴った右拳が痛い。
後でこっそり治しておこう……
……ん? "影の瞼"が発動した。
なんとなくちらりと王様の方を見るとなんだか軽く手を振られたので振り返した。
……"観察"みたいなのを使ったかな?
とりあえず見学しているみんなのところへ戻った。
「おつかれさん!」
「快勝だったな!」
「最後はどうなるかと思いましたよ」
「ローズさん、格闘戦もあんなに強いんだ!」
「ありがとうみんな」
全員の感想を受けつつ自身に向けてこっそりヒーリング。
格闘戦は改めて苦手だなと実感。
まだ爪と牙の方がやりやすい。
一通りの戦闘が終わったら移動することとなった。
勝者と敗者は特にわけられずまた広間へ。
ふたたび王様が玉座につく。
「ひとまず! みなご苦労だった! 勝敗そのものではなく力量を見定めさせてもらっている! ただ今回の戦いで自信が無くなった者は参加しないほうが良い。現地ではこの何倍もの戦いが地獄のように繰り広げられるからだ!」
あの王様が"観察"系のスキルで能力を見極めて……
臣下たちに伝え記録していたという仕組みかな。
ちなみに現在既にすこしだけ数が減っているのは残りのニンゲンは医務室にいるからだ。
「この後、兵から詳しい説明がある! 各々指示に従うか、参加をやめて帰宅してくれ! 私は臣下と共にこの戦力をどう活かすかを考えるため、ここで失礼する!」
「「ウォンレイ様、バンザイ!!」」
兵たちの熱烈な送り出しの中王様と臣下が去っていった。
そのあと各々兵士たちが動き自身の担当名簿リストを手に人を集めだした。
私たちは……なかなか名前を呼ばれない。
「おお、いたいた。ダン、ゴウ、オウカ、ローズオーラだな?」
そう思っていたら背後から別の兵士が声をかけてきた。
向こう側で集めるように呼んでいるのとは別に呼ばれた……ということは?
「おう、そうだぜ」
「はい」
「うん、お呼びかな?」
「ええ、はい」
「お前たちはこちらだ。後ろについてきくれ」
言われるがままについて行き階段をのぼってぐねぐねとした廊下の先。
王様や臣下が地図を広げながら机を挟んで話し合っていた。
おおついに王様の前に。
「やはり、今の戦力だけでは難しいな……」
「道中の街で補給と人員確保を繰り返さないと、とてもじゃないけれど立ち向かえそうにはないですね」
「お連れしました」
「おっと、ごくろう」
兵士は去り私達は残される。
王様は私達の前に歩んできた。
「改めて、この地方の王、ウォンレイだ。とは言ってもその王という立場がどれだけ持つかわからないがな」
王様に各々挨拶を返しひと息をつく。
わりと気さくなようだ。
「さきほど、どれだけ王の立場を維持できるかと言われていましたが……?」
「ああ。一気に国の首都を落とす奴らだ。いつこちらに魔の手が降りかかるかわからん。というよりも、もうそれに近いものは来ている」
そう言うと臣下に命じひとつの手紙を私達に見せてくれた。
内容は……魔王復活秘密結社のカエリラスに降伏か死を選べというもの。
なるほどこんなのが来たらいてもたってもいられないわけか。
「なるほどね……それで単刀直入に言っちゃうと、私達もやつら、カエリラスの情報を集めにこの地にやってきたんだ」
「ふむ……他方、いやその雰囲気。むしろ、他国の者か?」
オウカがバラしちゃったので仕方なく合わせて滞在許可証を出す。
王様はそれでいても笑顔になってくれた。
「なるほど、今はすこしでも戦力が欲しかった。こんな時だが歓迎しよう」




