四百三十二生目 対人
「そこまで! 勝者ダン!」
「よっしゃあ!」
瞬殺だった。
あのさっき難癖つけてきた兵士と力くらべということで模擬戦用のグローブで威力抑えめだったのに鎧の上からボコボコに叩いてノックアウト。
力こそパワーみたいな展開だった。
「すげえあの拳闘士、相手に何もさせなかったぜ」
「まるで1撃1撃に怒りがこもったような連打だ」
「見知らぬ相手に良くあそこまで感情こめて殴れるな……」
ギャラリーがざわついているがまあしらないわけではなかったんですよ……
ここは本来兵士たちが稽古をする広い空間で模擬戦用の武具といくつもの試合場所それにギャラリーが入れる空間程度ならそこそこある。
王様も遠くに立ってあちこちに目を向けて観戦し部下に指示を出している。
見るからに武闘派な王様だし多分かなり細かく見極めているんじゃないかな。
ふつう王様に剣闘のこと聞かないものね。
模擬戦闘は次々進んでいく。
「勝者! オウカ!」
「もう良いのかい? ほとんど、まだやっていないよ?」
「こ、降参だって! だから殺気やめてくれ……!」
光の鎧は特別につけたまま。
代わりに無手で挑んだオウカは相手が1歩も進むことなく尻もちついて勝利。
「勝者! ゴウ!」
「お、俺に一体何が……弓があの距離で間に合うはずは……」
「狭い場所の戦いには散々苦しめられましたからね、学んだんです」
ゴウは近距離から始まる戦いにまず矢を地に投げた。
影に矢が刺さると途端に相手が動かなくなってしまった。
そのままフルチャージした矢をきっちり放って鎧の上から身体を吹き飛ばした。
とりあえずみな戦いは終わった。
戦闘終了したみんなも私と同じように戦いの観戦場所に集まる。
「お疲れ様。それは?」
「ああ、終わった人は目印でつけておくようにだってさ」
オウカが見せてくれたのは腕に巻いた赤い布。
なるほど目立つようにね。
「楽勝だったぜ!」
「結構見どころのある試合もけっこうありますね」
もはや完全に観戦モードだ。
あとは終わるまで待って王様と話す機会さえあれば……
「次! そこの!」
「え? 私?」
「いってきなよ、グレンくんは見ておくから」
「いってらっしゃいー」
ううむいかないわけにもか。
とりあえず呼ばれた場所まで向かう。
そこには呼んだ兵士の他に集められたうちのひとりがいた。
「名は?」
「あ、ローズオーラです」
「俺はダンダラ」
「両者……記名した。そこにある得物で戦ってもらう。鎧は……双方使わなさそうだな」
相手は軽装の革鎧。
こっちに至っては服。
確かに鉄の鎧は使っていない。
まあかなりの力があって弱い攻撃は通さないんだけれどねこの服。
早速模擬用の剣をどちらも持った。
「ふむ……あんた、ローズオーラだっけか。実力が読めねえなあ……ま、ここに来るということは腕に自身はあるんだろう?」
「うーん、どうかなあ……」
対魔物と対ニンゲンは違う。
しかもニンゲンの剣同士の戦いだと多くのフェイントの中に強大な一撃を混ぜる戦法になるはずだ。
魔物との戦いは逆に互いに命を削る大きな力をぶつけ合うようなやり方だ。
すこしの油断が命取り……
"観察"するとやはり私よりトータル的に相手は弱い。
だがいろいろ慣れていない私が技能的には不利。
そもそもホリハリーは肉弾戦はあまり得意ではない。
剣の攻撃も普段だいたい剣に付呪した土の加護補正だより。
ドライ操作による念力のように魔法で操ることも多いし。
つまり性能的な面で優っていてもなんら有利じゃないはず。
剣を抜いて鞘を地面に起き相手に向かって構える。
見極められる前に全力で一気にいくしかない!
距離を取り向かい合う。
相手はニヤリと良い笑顔だ。
そうあれは……歯をむいた獣のようだ。
「双方、良いか? では……始め!」
「やるぜ!」
「やああ!」
いきなり相手は前傾姿勢で突っ込んできた!
迷いがない突進!
私も負けていられない。
遅れないように飛びかかり駆ける。
右手に持った剣に行動力を全力で注ぎ込む。
相手の剣がきらめきながらこちらに振られ私の剣は輝きながら横から振りかざす。
"止眼"!
どうだ?
どうくる? 剣の角度に持っていない手の下がり方。
腰のひねり。
腕の筋肉も合わせてどこで仕掛け何が本命の動きが見定める。
いくつもある可能性を捨てていき本命の動きを見て……
そこに合わせてレベル差で抜く!
"止眼"解除!
「らぁ!」
予想通り剣は下側からえぐると見せかけて素早く上から切り返し!
フェイントにつられずに合わせて下から上に跳び上がるように切り合わせる。
変な金属音が鳴り響いた。
かち合うのではなく私の剣が相手の剣を半分に切り落としていた。
その勢いで相手も剣を離してしまう。
宙を舞った剣は2つの身体とも地面に落ちた。