四百三十生目 受付
「いらっしゃーい……」
「おじゃまさせてもらうよ」
やる気のない歓迎の挨拶にオウカが返す。
薄暗い店内だが明かりはついている。
原因は……この活気のなさか。
誰もおらず受付ひとりのみ。
その受付も本を読んでてこちらのこと見てすらいない。
ある意味すごい環境だ。
「つかぬことをお聞きしたいが、ここは国の冒険者ギルドで間違いないね?」
「はいー」
うんまったく視線がこちらに向かないな。
ここまで肝が座っているとは。
「……営業、しているんだよね?」
「ええー、依頼受けはあちらー、提出はこちらー」
依頼掲示板の方を指されて見てみればずいぶんと少ない。
ひとつふたつ……で終わりか。
どういったことか。
「ふむ……まあなんだかさみしくはあるが機能はしていそうだね。それじゃあ依頼ではなく仕事を頼むよ」
「うー、一体この冒険者ギルドになんの用が――」
初めて受付がこちらを見た。
オウカは彼女の目の前に冒険者証明書を出す。
「おうか・ろく……ランクが……Q!?」
あら前聞いた時はQマイナスだったから1つ昇格している。
受付はそのランクと名前を見て急に本を閉じて投げるようにしまいこみ立ち上がろうとして椅子につまずく。
「あ、おお、おおお!!」
慌てすぎて痛みでもだえている……
オウカも鎧の中から苦笑いが漏れていた。
やっとなんとか立ち上がる。
「はあ、はあ、た、大変失礼しました!! クビにしないで!!」
「そんな権利もあるんですか?」
「らしいけど……使ったことはないなあ」
もはや机に頭をぶつける勢いで頭を下げる受付。
誰かをクビにする権限とは……なんとも大きいなあ。
「なるほど、この地域はあまりメインじゃないのか」
「迷宮もありませんし、我が帝国の軍がかなり権力強いですから〜!」
「軍かぁ」
オウカと受付の話を聞いていたがようするに。
まず迷宮がこの付近にない。
さらにたいていのことは屈強な軍がどうにかする。
しかも軍部が人気すぎて冒険者よりも軍をみんな選んでしまう。
結果がこの寂れっぷりだ。
数少ない冒険者たちはその中でほそぼそと暮らしているのでより辞めていくものが出ると。
「Qランク、しかも伝説のオウカ様にお会いできるだなんて、こんな状況だから夢にも思わなくて……!」
「伝説?」
私が頭の上にはてなマーク浮かべていると受付が食いついてきた。
めっちゃ目を輝かせている。
「ええ!? 共にいらっしゃるのに知らないんですか!? 隣国にも轟く生ける伝説を!」
「ま、まあ……」
「年齢すら不明の秘密多き女性冒険者! 残した功績は数しれず、特に吟遊詩人の歌となるほど有名なのが『闇を薙ぎ払う光の剣』話!」
「うわ、あれ他国にもあるんだ……」
吟遊詩人は夜の酒場で歌うことが多いらしい。
私はあんまり行かないからなあ酒場。
オウカが露骨に嫌そうなそして恥ずかしそうな声を出している。
「かいつまんで言いますと、とある一族が闇の魔法でこの世に悪魔の住まう大地を無理矢理呼び出そうとしたんです。
迷宮深く隠れた彼ら。見つけ出し光の剣で一閃! 召喚魔法陣ごと一刀の元に全て破壊し倒して平和を取り戻したのです! 光と闇の対決という王道の話を成し遂げた話は誰が聞いてもワクワクするものです!」
「そりゃすごい!」
「いや、まあだいぶ盛ってるよなあっていつも思うよ……」
テンションが大幅に増した受付に比べ下がっているオウカ。
軽くため息をつく。
「まずその迷宮は私が行ったことがある場所だったから、そして国をあげて力を注いで解明し道を確保して乗り込み、一刀で薙ぎふせたどころか泥臭い戦いの後に、やっと取り押さえて魔法陣を壊したんだ。
いち個人の力じゃない。それに未完成の魔法陣だったんだ」
「つまり、どちらにせよ悪魔界の大地召喚は失敗していた?」
「まあね。ただ時間をかけらたら完成していたかもしれないけれど、たらればだね」
すごくないと言いたげなオウカだが十分大きな陰謀の阻止ではないだろうか。
それは受付も同じ感想らしい。
「いや、だとしても! むしろだからこそすごいものですよ! とても私には出来ない本の中の世界! 憧れです!」
「うう、直球の褒めがまぶしい……」
オウカは普段ゴウに怒られてばかりだものね。
それはともかく手続きを済ませてもらう。
この国でも正式に冒険者と振る舞えるように……と。
「私の冒険者証明書はこれです」
「どれどれ……? ええ!? Nプラス!? さすがオウカ様のお付きなだけあって、格が違いますね……!」
「ここらへんの冒険者は本当にみんなそんなにランク高くないのか……」
「はい。BとかCとか。やる気ある人は軍に行きますから」
受付が落胆のため息をはいた。
世知辛い。
それはともかくゴウたち含めなんとか許可を貰えた。