四百二十九生目 繁華
「いてて……」
「決まった! って思ってから結構長くやったねぇ……」
結局戦闘はグダグダと続き最後のひと刺しで犬の魔物はキャンキャンと逃げていった。
しかも肩を切る程度のひと押しで刺さったわけではない。
生命力が危なくなったから逃げただけだ。
光魔法"ヒーリング"の他に"トリートメント"で傷跡を残さないように塞いでいく。
小さい子の怪我は将来に響くといけないからね。
噛み傷なんかは光魔法"アンチポイズン"あたりで感染症を予防。
基本的な治療と血や泥をぬぐいグレンくんはダガーを手入れ。
血と脂と毛がからみつくと普通の武器はあっというまに切れなくなるからね。
黙々とみがく。
「なんだか……いまさら、本当に相手を斬ったんだなって、こわくなって……」
「血、結構ついたもんね」
「それに声もわかるようになってからなんだかグルグルしてきて……」
ああ受信機による翻訳だね。
最後に鞘にしまいこんで手入れを終わる。
わずかに手が震えていたのはしびれかはたまた。
「でも、思いっきり戦うデビュー戦だと思うと楽しくもあって……それがどこか怖くもあって」
「その事を客観視出来るなら大丈夫。まだ小さいのにすごいね」
メタ的な視点で自らの凶暴さを見られるのなら自覚してコントロールが可能だ。
本来はその過程は大人になっていくことで経験を積んでやるのだろけれど……
既に何か達観するほどのものを積んだかのようだ。
「いや、すごくはないんです。ただ……そう、運が良いだけです」
「なんだかすごくじじいくさいこと言うじゃねえか坊主!」
「だ、ダンさん!? いつの間に!」
驚いて思わずダガーを鞘ごと落とすグレンくん。
ダンは答えの代わりにニカッと歯をむいて笑った。
「なあに! ビビって落ち込んでないかって見に来てやったんだよ! 元気そうで何よりだ! ガハハ!!」
「も、もちろんまだ戦える! そのために来たんだし、見極めるってやつも、やらなきゃダメだから」
「よくわかっているじゃねえか! この後もたくさん魔物はやってくるだろうよ!」
そう笑いながらまた去ってゴウと雑談しにいった。
賑やかなニンゲンだなぁ。
あとだんだんとグレンくんが無理な敬語を使わなくなってきた気がする。
打ち解けて来たのならこれ以上のことはない。
それはそれとして。
このあと街まで散々グレンくんは戦わされた。
「ああ……街だ……!」
「おつかれさま。結構魔物が落としたものもたまったね」
「全部坊主のでいいからな! 換金の仕方も教えておこう!」
グレンくんがもはやボロ雑巾のような気持ちになっていそうだ。
もちろん治しているから精神的な面での疲労だ。
ゴウは倒れそうなグレンくんに大きな手で背中をたたく。
「まったく、ダンはいつもあまりうまく出来ないじゃないですか。自分もついていきますよ」
「私とローズは冒険者ギルドに先に行こうか」
「はい」
男子組と女子組で別れ街へ入る。
港からもっとも近い大きな街で活気が凄くあるのが見て取れる。
地震が少ない地域なのか単純な石レンガによる灰色の街が並んでいた。
背丈は低めながら重厚さを感じて気圧されるような雰囲気もどことなくある。
しばらく歩くと赤い建物が目に入った。
商品の取引があちらこちらで見かける。
赤い建物は木造なのか。
なんだか目を引く。
「ここは、いわゆる繁華街かな?」
「賑やかでお祭りみたいですね」
田舎丸出しな発言してしまったが仕方ない。
人々が肩をぶつけそうになりながら行き交うだなんてそんな感想しか浮かばないもの。
私達もスリなんかに気をつけつつ人混みに紛れていく。
さすがにニンゲンくさい。
それ以上に幸福のにおい。
実においしそうなかおりがあちこちからするなあ。
「お兄さん、このよくわからんうまそうなの2つ!」
「あいよー!」
「はやい」
オウカは早速購入していた。
1つは私にと渡してきたので食べる。
うん何かの肉を揚げてふんだんに香辛料使っているのはわかるがそれしかわからん!
香辛料は地域によってかなり価格差が出ているのはこの時代背景からするとなんとなくわかるが私たちが来た皇国ではそこそこお高いものがこっちでは溢れかえっている。
国の力もあるが大量に取れる土地なのかも。
あとで買い集めてアヅキに送るか……
モグモグとしつつ繁華街を抜ければ少しはニンゲンの数が落ち着く。
衛兵たちに教えてもらったこの街での国運営冒険者ギルドはこの先か。
到着すると……なんというかさっきの繁華街なんかと比べると閑散としたそしてくたびれた建物だった。
木造ではあるが塗装もはげている。
蜘蛛の巣もはっている。
目線をオウカに送ると肩をすくめられた。
なんか小さいのも気になる。
入ればわかるということで早速扉を開いた。