四百二十八生目 鍛練
「いやー! 助かったネ! 話は聞いているよ! 大活躍だったネ!」
「ありがとうございます、それで……」
「もちろん、報酬と滞在許可証ネ!」
役所に行けばすでに噂となっていた。
観測塔の情報はすぐに各地の場所に届けられるように魔法技術で組んであるんだとか。
「地から伸びる光と空から伸びる光、見たよな」
「あれが本人たち……」
「現場はひどいことになっているらしい」
「竜よりもよっぽど危ない……」
「だけど1番ヤバイのって」
「ああ、ひとにらみするだけで竜が動けなくなった相手がいるとか」
「何か恐ろしい吠え声を放ったら竜が慌てて逃げ出したらしい」
「なんなんだあいつら……」
わりと情報は速度重視なのか尾ひれはヒレがついているが……まあいいや。
あちこちから聴こえてくる噂話は適当に流してもらうもんだけもらって役所を出た。
そのまま港町から出て農村部を抜け次の街を目指す。
「冒険者ギルドがある場所に寄っていこう」
「どうしてですかオウカさん?」
「まあ現地での情報交換で1番手っ取り早いからね」
グレンくんは納得したがそれだけではないだろう。
冒険の許可を得て滞在する以上はやはり現地冒険者ギルドに顔出しは必須なのだ。
ただ勝手にやってきて場を荒らす厄介者に思われてもイヤだしね。
人が集っているから困りはしないだろう。
みな情報を積極的に集めるタイプだろうしね。
道とは言えないような歩いて踏み固まったニンゲンたちによる獣道を行く。
まだこれがある場所はマシで街に向かう道でなければあっという間に道はなくなるだろうけれどそれはいつものことだ。
土質は元いた国である皇国と比べたらずいぶんとかたく岩のようだ。
そのためか寒いからか全体的に木の背丈は低く鬱蒼としげったりはしていない。
近いとは言え少しずつ違いがあるんだなあ。
カルクックが借りれればちゃっちゃと走り抜けられ長くない道のりだが残念ながら港町にはレンタル屋がなかった。
ただまあグレンくんを鍛えられるからセーフ。
普段は走って移動させて体力維持しながら走るやり方を覚えさせ鍛える。
私達と比べて歩幅からして狭いので注意がいる。
というより私達は歩いているのとだいたい同じ。
そしてそれだけのんびりしていれば魔物たちがふらっと襲いにやってくるわけで。
普通このメンバーなら襲わないだろうという弱い魔物1匹でやってくる。
理由は簡単。
全員がわざと気配を隠蔽しているからだ。
グレンくんがダガーを抜刀し私達は後ろへ下がる。
短毛の犬型魔物が来たが強さは五分五分程度か……
信頼して見守ろう。
「がんばれよー!」
「治して上げるから慎重にー」
「よし、行くぞ!」
互いにすごく真面目な攻撃。
グレンくんはダガーを大振りして犬は飛びかかる。
だがまあどちらもゆったりとしたもので小さいサイズの凶器同士がかちあうこともなく外れてしまう。
「あれ!?」
「よく狙っていけー」
「後ろは見せないようにー!」
「こ、今度こそ!」
昔はこんな感じだったのかな私も……
そんな想いにかられるゆったりとした時間。
いや本人たちはかなり真剣なんだけど子どもが子犬と戯れているように見える。
互いに息切れするまで何度か行き交い距離を取って酸素を取り込む。
「坊主ー! 急所や顔の防御がおろそかだと大変だぞ」
「指とか無くなったら治すのちょっと大変だから気をつけてね」
「いきなり怖いことを!?」
グレンくんがダンや私の声にビビるがやや勇み足になりがちな彼の場合はちょうどいい。
構えが変わり防御中心の姿勢。
刃を相手に向けず刃の腹を向ける。
「来い!」
「ガウッ!」
飛び込んできた犬の魔物にダガーの刃を合わせ必死に追いつく。
硬質な物同士がついにぶつかりあった。
「よし、目で追えている!」
「いけ! スキだらけだ!」
ダンの言葉に呼応するようにダガーに食いつかせている受け手はそのまま耐え代わりに膝が出る。
直前に回避しようとするが膝の方が早い!
「グッ!?」
「そこ!」
きれいにとはいかないがしっかり入った膝が蹴り上げる。
ダガーが獣の口から外れ今度こそ刃を相手に向けた。
心情的に今攻撃を喰らった犬の魔物は心がまずひるんでいるはずだ。
肉体としてはしょせんまあまあ当たりの膝で戦闘継続に問題はない。
すぐに立ち直せばいい。
ただまだ明らかに魔物も戦闘慣れしていない。
ほんのわずかな気後れ。
それが同等の相手には致命傷になる。
相手にダガーを構え走り込むグレンくんがあまりに大きく見えてしまうだろう。
「相手の動きが!」
「やあああ!!」
「鈍ったところに良い1撃!」
オウカの言う通りダガーの振りが入りざっくりと切れて血が刃につく。
グレンくんはそれでも止まっていないのに対して獣は明らかにしりすぼみ。
勝負はだいたい決まった。