四百二十六生目 自考
「どうするよ? 一旦平和なのはわかったが逆にいやあ情報が少ねえ」
「とりあえず外国人は滞在認可をもらう必要があるらしい。港町の役所ならどこでもやっているらしいから、早速明日行こう」
ダンとオウカの言葉により明日の動きはきまった。
本日とれたて焼き魚たちのおいしい料理を食べ就寝。
……に見せかけて私は"進化"酔いを避けるために空魔法"ファストトラベル"で群れに帰ってから休む。
やはり"進化"状態は落ち着かないからね。
オウカはひとりで部屋を独占できるのでうれしそうだった。
鎧……脱いで寝るよね?
翌日。
朝食はものすごい出てきた。
これでもかと豪華に蒸し饅のようなものから餃子に近い包みそれと惣菜クレープみたいなもの。
どれもニンゲン向けの味付けながらわりとおいしい。
とても賑やかな朝を終えて……
港町の役所にたどり着き手続きを行う。
いざ後は滞在許可証をもらうだけとなったら……
「止めておいた方が良いですネ、あんまり言いふらすものでもありませんがネ、トップが変わったという話聞いているでしょう?」
「いや、まあそうなんですが」
ちなみに私達の滞在理由は冒険である。
冒険者は他国であろうと探検するもの。
横の繋がりが大きい各国の冒険者ギルドの力でわりかし楽に出入り出来るとか。
「どうもうさんくさい連中がトップになったみたいでネ、あちこちでじわじわ揉め事が起きているって聞くネ。はっきりいって冒険日和ではないよネ? 命の保証もしにくいよネ。やはり国またいで死なれるのはこちらとしても困るからネ、普段ならなんとかなるけれど今国際問題起きると致命傷になりかねないからネ」
「……つまり、何かで実力を示して欲しいと?」
受付人の眼鏡が光る。
なんというか……実力を示せという体で厄介事押し付けられそうな雰囲気が……
「話が早くて助かるネ! 大陸の魔物たちは手強いのが多いネ。特に竜害にはよく苦しめられるネ。あ、外国の方に説明しておくと竜があたりを焼き払ったりして起こる自然災害ネ」
「蒼竜の加護があるのに、そんなに竜たちに攻撃されるんですか?」
「逆ネ、オオカミ君。蒼竜様がいるからこそ他の雑多な竜たちも活発ネ。蒼竜様や他の4大竜様たち以外の竜は加護のおこぼれを貰って暴れる危険な奴らネ。蒼竜様の名のもとに鎮めてほしいやつがいるのネ」
ああ、やはりそうなるか……
全員がなんとなく察して微妙な空気になる。
「大丈夫、すぐ近くだから本当に実力があるならすぐ済むからネ。アレも倒せないようならすぐに帰った方が良いからネ。大マジな話、死者は出ないほうがそりゃあ良いのよネ」
「はあ、まあやらせていただきます」
「ええ、無理しないでネ!」
右も左もわからぬ土地でいきなりの依頼。
やはり体よく仕事を押し付けられたか……
まあでも近隣のざっくりとした地図はもらえたから良し。
「勇者くんを鍛えるのにもちょうど良いだろうし、良いと思ったら声をかけるからそれまでは控えていてね」
「はいオウカさん」
グレンくんは鞘ごと手に持って少しだけその刃を出す。
港町で購入したダガーだ。
いわゆる小型剣。
鋼のキラメキがグレンくんの瞳を映す。
危ないものとわかってはいるがワクワクが隠せないようだ。
「坊主、武器は好きか?」
「うーん、武器自体はあんまり……でも誰かを護ることに使えたり、冒険の始まりって感じでワクワクしている!」
ダンがそうかそうかとうなずいている。
何を納得したのだろう。
「いいか坊主、その武器は、そして俺の拳も結局は誰かを傷つけるんだ。そこに大義名分を掲げていてもな。それに大義名分自体が相手からすれば知ったこっちゃないことだ。それでも使わなきゃならん時はある」
「うわ、ダンが真面目な事言ってる」
「うるせえ悪いか!」
オウカにからかわれ話の腰を折られたダンが一瞬しかめ面をするがすぐに真面目に戻る。
グレンくんも鞘にダガーをおさめた。
「振るわなきゃ何一つ守れない、振るってもひとつの勝利も得られないそんな時が山ほどある。
だからこの先自分で見聞きして考えてやりたいことをやるのに使え。
勇者だからって考えで今回みたいに船に乗り込んで来るのもかなり危険だ。
ま、自分で考えてなんてできない大人も多いし俺もまだまだだがな」
「だね」
「ダン、あの時の……」
ゴウが何か小さくつぶやいたがすぐに口ごもる。
やはり何かあったのだろうか?
「ダンさん……」
「ま、ともかくだ。でたらめに振り回すと危ないぞってことだな」
「それに、自分がただしいと思い込んでいることこそ疑わなきゃならないからね。常に誰かのただしいは誰かのただしくないになるんだから」
「ダンさん、お姉さん、わかりました」
……ん?
あれそういえばだ。
「もしかして私、名前伝えてなかった?」
「あ、聞き逃していました。周りの人も言っていたのでなんとなくは知っていたのですが……直接聞いたわけではないんで」
やはりそうだったか。
そういえばずっとお姉さんと言われてた。
「私はローズオーラ。気軽にローズと呼んでねグレンくん」
「はい、ローズさん」