四百二十三生目 発覚
雨に濡れないように加工した臼砲弾を空魔法"フィクゼイション"を唱えて空間ごと固定。
念力のように操って持つ。
ドライよろしく。
(よし、タイミングが大事だな)
ドライに"フィクゼイション"での操作権を渡して私は"見透す眼"で天を見上げる。
ゴウが弓を放てば金の輝きを纏って触腕を打ち砕いている。
あんなに高い威力は前はなかったから勇者の力だろう。
それでもなんとか善戦といった感じで勇者グレンくんを影に隠しながらの戦いは厳しそうだ。
まだそんなに時間がたっていないせいかグレンくんまだ私が潰されていない事に気づいてなさそうな顔をしている。
なんというか痛ましげというか涙を浮かべていた。
スライム本体の方は……さすがにあの2人でも無酸素状態が苦しくなっているらしい。
暴れる元気がなくなっている。
よしチェックと詠唱完了。
空魔法"ミニワープ"!
船上に臼砲弾ごと復活!
「うう……お姉さん……!」
「おまたせ!」
「……え!? お……お姉さん!? 生きていたの!?」
「キツイから早く手伝ってください!」
グレンくんに顔見せして軽く手を振っていたらゴウに怒られた。
まあわずかな間に傷が結構増えているし状況はよろしくないよね。
まずは駆ける!
「仕掛けるから合わせて!」
「その玉は……なるほど、合わせます」
ゴウが臼砲を見て理解した。
ゴウに破壊された箇所を再生しながら触腕がもちろん私に向かって向かってくる。
正面から来たのは避けて横から来るのはゴウが撃ち抜き黄金の輝きと共にスライムが砕ける。
水の中にいる存在のような震える悲鳴が響く。
どうやらかなり『痛い』らしい。
たしかに撃ち抜かれた後にどんどん黄金の輝きが触腕を侵食して再生を少しの間妨害しているあたり悪魔の力との相性がとても厳しそうだ。
それとその触腕の動きが麻痺したかのように少し止まるしね
私も今纏っている勇者の力を臼砲弾に移せないかな?
触れてその様子をイメージ。
おっ。案外簡単に出来た。
黄金の光を放つ臼砲弾の出来上がり。
最後の触腕を正面から来ていた物をなんとか横っ飛びして避ける!
船頭にくれば相手は目と鼻の先!
火魔法"フレイムボール"!
相手に撃ち込むとまた同じ手をされると錯覚したのかスライムが水魔法で太い水流を放ってきた!
うねり唸る水の塊。
当然ただの小さい"フレイムボール"は簡単に消される。
頼んだドライ!
(ようし! 導火線に着火した! このまま遅い水流を避けてスライム本体へぶつける!)
あとは私の方!
うまく臼砲弾が飛んでいくのを見届けつつもここでこれを喰らうとさすがに痛いってもんじゃない。
船がオシャカになりかねない。
精霊に用意させていた空魔法"ベンド"を思いっきり強くして発動!
飛来する大きな水の流れを無理矢理……あちこちへ曲げる!
「曲がれえええっ!!」
水流が私の直前まで迫るとついには5方向に分散し船に直撃を避けるように曲がっていく。
ってまだ少しある!
「うわっぷ!?」
水魔力のこもった水は普通の水でもコンクリートを砕く。
そのような力をより殺意高く威力を上げる。
ある程度この姿に魔法の耐性はあるが思いっきり船の上を転がされるくらいの力はある!
上下左右がわからんほど転げ回さられ水まみれで船上に寝転がされた。
「いったぁ……!」
あと今のですごい疲れた。
水の流れに逆らって泳いだ後の強い疲労感に似ているね。
耳に水入った。
視界の端に黄金の輝きが瞬くとスライムの悲鳴が大きく響く。
うーん大爆発が良く効いたらしい。
上体を起こして見ればグレンくんから追加の勇者オーラを貰ってオウカとダンが肩で息しながら悪魔の目をボコボコにしていた。
よしよしいい感じにスライムが壊れたらしい。
さらに本体にあたったことで全身が麻痺のように動いていない。
悪魔の目が壊されるのはそう時間がかからなかった。
ふつうの臼砲ならばこんなに威力はない。
勇者オーラのなせるわざだろう。
「よし、勝負アリだな!」
「ぜぇー、ぜぇー、老体に酸欠は応えるよ……」
船上にゴウとオウカは降り立ち悪魔の目を失ったオオダコスライムの悲鳴と全身から溢れ出す暗い光を共に見る。
やがて全身が急速に縮んだと思うと船上にそのまま落ちるように乗る。
……悪魔の力の他に水分やら多くのスライムをおっことしてしまったらしくさきほどの面影はまるでなくなっていた。
最後にプッと剣ゼロエネミーを吐き出す。
良かっためっちゃヌルヌルだけど無事だった!
それにしても。
なんというかすごく現実的なサイズのオオダコに……
あっ全力で船上から逃げ出した。
ぽちゃんと落下音。
それで気づいた。
あれだけ荒れていた海が今では非常に穏やかなものへと変化している。
静寂だ。
「ぷっ、ハハハ!! 最後はずいぶんかわいらしくなって!」
オウカにつられダンも大笑い。
やがて戦闘の緊張した空気も笑い声とともに緩んでいった。