四百二十生目 奮戦
海から船を拘束してきたのはクラーケンだった!
しかも額に悪魔の目が。
暗殺者のものより大きい。
しかも水の瞼で覆っている。
滝のように流れる水量の向こう側だから厄介そうだ。
そして何より。
「オオダコってまさか、超巨大スライム!?」
「そうだよっ!」
「タコを模した化物です!」
そう。
オオダコの顔はスライムのとってつけたようなあの顔だった。
相変わらず簡略化されたかのような内臓も見えるが悪魔の目がそれより目立つ。
オウカとゴウが叫んで肯定する。
スライムによって固定されたことで船の揺れは止まった。
ただ波しぶきが船の上まで来て足元は危険。
なんとかスライムの前によろよろと集合して武器を構えた。
「くそっ! 横にこなきゃ大砲は撃てねえ!」
「この雨じゃあ予備の大砲を表に出して撃つのは無理だね……」
言ってしまえばこの相手を直接殴って倒すしか無いわけか……
"観察"!
[スラーケンLv.30 状態:悪魔憑き 異常化攻撃:拘束 比較:かなり強い]
[スラーケン 海に棲むスライムがトランスを繰り返してたどり着く恐ろしく巨大で強い形態。嵐を生んで大量の触腕を振り回しいくつもの船を沈めた]
おっそろしくクラーケンだー!?
スライムでクラーケンとはまた良い所取りみたいな組み合わせだ。
クラーケンの弱点でもあった結局斬られたりすれば痛む点もスライムならばコアの攻撃以外は生命力がほとんど減らない。
更にスライムの弱点であるけっきょくはプルプルボディでは攻め方が限られる点も解決している。
嵐を起こす魔法力に大きな触腕たち。
数えたところきっちり8本ある。
「しかも悪魔の目か……偶然ってこたないよなぁ」
「狙おうにも風が激しすぎますね……矢を効かすための魔法、ありますか?」
「あ、ええ、多分できます!」
聖魔法"クリアウェザー"を詠唱!
オウカが光の剣を両手で持ち背後上空へ掲げる。
力に呼応するかのように長さが伸びていった。
「よし、本体と触腕、それぞれ落とそう!」
「よっしゃ! 行くぜ!」
船を縛っている触腕はマスト2本船の手すり2本。
そして私達に掲げられ今振り下ろされるのが4本。
一斉に跳んで回避し戦いが始まった!
とりあえず私は魔法を完成させないと。
強化して範囲化させて……
それとこの後に空魔法"ストレージ"を使うように頭の片隅で思い描く。
転がるように触腕を回避しつつ発動!
スライム以外に天候無効化を付与。
ゴウが早速大弓でガンガンと弓を放っているが触腕で絡め取られそのまま叩きつけ。
スライムしぶきを浴びつつ直撃は避けたようだ。
痛そうだが生命力はまだ大丈夫。
質量が大きいので叩きつけの光が出たら大きく避けないと周囲も被害が出そうだ。
よし"ストレージ"詠唱完了。
剣ゼロエネミーを亜空間から取り出す。
鞘から引き抜いて空魔法"フィクゼイション"で唱える。
走り回って周囲の格闘の様子も見る。
ダンが早速マストの方へと走り込んでいた。
「遅い、遅いぜえ!」
触腕たちの殴打を引きつけながらも本気の回避は武技の効果もあるのか影を置き去りにするように横っ飛びに避ける。
軽々とマストまでたどり着くとロープやマスト自身を使って軽々登り始めた。
オウカは存分に伸ばした光の刃で正面本体とやりあっている。
大量の水場がある中での水魔法は強烈無慈悲。
押しつぶそうと迫りくる水塊を伸びた光が更に鋭く伸びるように振られ斬り裂かれ爆散し雨と化した!
「まだだ!」
体ごとひねって大きく周り光を斬り込んで行けばスライム本体まで届き――
触腕に防がれた!
しかしまた大きく爆発! 相手も無事ではない。
炸裂し砕けたスライムは意志を持たないから再集合は無理。
ただ触腕も本体もえぐれたスライムは回復させる。
巨大な分再構築に少し時間がかかるがそもそも全体からすれば微々たる損傷。
10秒にも満たない間に元に戻った。
悪魔の目まで攻撃が届かないと意味がない。
だが引きつけておく意味はあるためふたたび光の刃が何度も斬り込まれて爆散する。
私もやろう。
"フィクゼイション"発動し剣ゼロエネミーを空間ごと掴み念力のように動かす。
いつものように行けぇ!
空中を雨風気にせずビュンビュンと飛ばし船横の手すりに伸ばしている触腕を狙う。
土魔力解放。
鞭剣状に変化し思いっきり斬りつける!
斬りつけた箇所が爆発して土魔力が効果的にスライムを痛めつける。
大してダメージはないがそのうち嫌がって離すはずだ。
(そっちは"私"がコントロールする。他やれ!)
わかったドライ!
ドライに剣のコントロールは任せて本体のコントロールに集中。
薙ぎ払ってくる触腕を跳んでなんとか避ける。
よしホリハリーに進化だ!