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その能力は無敵! ~けもっ娘異世界転生サバイバル~  作者: チル
そして迎えるは春か破滅か
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四百十九生目 大嵐

「ど、どうだったんだ!?」

「結果は?」


 ダンやオウカが尋ねられるがちょっと落ち着くまで待って欲しい。

 むせてしまった。

 少年……グレンくんの顔が明るくなっていく。


「ほ、本物の勇者みたいです……」

「でしょ! よかったあ、信じてもらえて」


 私の言葉に周囲が一斉にざわついた。 そりゃそうだわな。

 いきなりここで本物の勇者様ご登場だもの。


「なんで勇者!? しかもこんなに小さい子が!?」

「それは、なんか生まれつきみたいで……覚えている範囲では、勇者って自覚があったんだ」

「うーむ、カミサマの祝福ってやつか? ナンマイダー」

「ダン、色々間違っていますよ……」


 ダンの変な祈りにゴウは呆れ顔。

 グレンくんは勇者と言うのにずいぶん緊張したらしく肩をなでおろしていた。


「なんでそんなに勇者だって言うのに緊張を?」

「だって、そりゃあ勇者を自称するとか、だいぶ頭おかしいじゃないですか……」

「ニンゲン的にはそういうものなんですか?」


 グレンくんの答えから新たに周りの大人たちに私が話を振る。

 少しオウカが悩んだ。


「まあ……確かに大の大人が自分は勇者だって名乗るのはちょっと実力が伴っていないと恥ずかしいしあまり良くないことではあるけれど……そもそも子どもだよ?」

「俺も昔よくやったなあ、勇者ごっこ。まだ弱かったゴウをいじめるやつらを退治するために、俺はゆうしゃだーって――」

「ダン!? その話は恥ずかしいから蒸し返さないでください!?」


 ダンがガッハッハッと豪快に笑いゴウが責め立てている。

 それを裏で聞き流しつつグレンへと意識を戻す。

 なんというか大人びた子だなあ。


「まあ、それはそれこれはこれかな。危険だから帰ってもらわないと」

「え!?」

「うん、そうだね。勇者だとわかった以上、余計に手厚い保護が必要だよ。その時が来るまでに存分に鍛えないと」

「いや、俺の勇者としての勘が、ここで絶対に行かないとって……」


 グレンの主張は確かにわかる。

 勇者として何らかの力を帯びているのならばそういうスキルもあるかもしれない。

 だが危険なものは危険だ。

 さっきの"観察"結果からも感じる気配も直接的な強さは感じないしね。


「それに親御さんは何と?」

「うっ、『あなたは特別変わった子みたいだから、危なくないことなら自由にしていいよ』って……」

「じゃあアウトだな」

 

 ゴウの問いにグレンは自身でも無理があると思ったのか苦々しく語る。

 ダンのトドメにより消沈した。


「まあとりあえず私が一筆書いておくから、それを冒険者ギルドへ――」

「たたた、大変です!!」


 血相を変えて乱れた呼吸のままひとりの船乗りが飛び込んできた。

 何事かと聞く前に船内連絡用の金属管から声が響く。


「えー、緊急! 天候急速悪化! 天候急速悪化! 各自担当に行き手すきの者は揺れに備えよ!」

「天候が……? さっきまでは晴天だったじゃないか」


 オウカの言う通り雲ひとつないとまでは言わないが見渡す限りの晴れだった。

 いきなり天候が崩れやすい海とは言え普通は限度があるが。

 だがその事は飛び込んできた船員も重々承知らしく首を何度も縦に振っていた。


「ええ。ええ! おかしいんです。おそらく魔法かそのような魔力を持つ者の仕業です! 攻撃かもしれません!」

「魔法か魔力……まさか!」

「ゴウ、心当たりが?」

「巨大タコの噂は覚えていますか? やつの特徴はまず海を荒天化させると聞き及んでいます」


 もしや……クラーケンが!

 私以外もそれに思い当たったらしく全員の目つきが鋭いものに変わる。


「ちょっとキミはここにいて。安全を確かめてくる。船員さんは勇者クンの安全を確保して」

「はい!」

「あ、俺も行きま――」

「ダメに決まってるだろ!」


 グレンも動こうとしたがダンにより一蹴。

 さらにあっさりと屈強な船員たちに捕まり連れて行かれてしまった。

 やはり実際の戦闘では役にたたないだろうなあ……


「よし、行こう!」






 外に出るとまるで嵐の中を突っ切っているかのような大雨が船を打ち付けていた。

 船が大波に煽られて揺れる。

 なんとか踏みとどまって船の先を見る。


「ど、どうなってるこれは!?」

「身体が冷える……」

「くっ……だがこのぐらいの嵐だけならこの船なら越えられる……!」


 光魔法"ディテクション"で感知しようにも何もかも荒らされていて冷静に情報を集めるのが難しい。

 ……いや! この敵意は!


「来ます!」

「なっ!?」


 海の底から水で出来た何かが飛び出して船を拘束する。

 ひどい急ブレーキにみな何かに掴まりふきとばされないように耐える。


「ぐううっ」

「なんなんだアレは!?」

「触腕……? タコの?」


 誰かが叫ぶ声を聞きながら変化をさらに見る。

 マストに巻き付く水で出来た巨大な触腕は吸盤がついていてしっかりと固定していく。

 ついに船は止まってしまった。


 そして大きく海を割る音と共に飛び出す頭。

 スライムで出来たオオダコ。

 クラーケンそのもののようだった。

 スライムだけど!


 その頭に悪魔の目が覗いていなければ。

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