四百十七生目 船旅
おはよーございます。
むしろ夜明け前だからこんばんはかもしれない。
私はニンゲンたちの船に乗り込んでいます。
「うーん、理屈上はわかるんだが……」
「普通転移系の魔法をそんな贅沢な使い方はしませんからね」
「ひとりで来るのそこまで変でした?」
みんなの準備もあるだろうし勝手を知らぬ魔物たちがニンゲンたちの港にぞろぞろ集まりしかも船に乗り込むのはまずいかなと思って。
あとで空魔法"ファストトラベル"で送ることにしたのだ。
そのために私単身でホリハリーでニンゲンに扮しつつきたのだが。
さっきから聞かれるたびに本当に大丈夫かと尋ねられた。
ゴウとダンで10人目である。
少なくとも"森の魔女"での魔法計算結果では平気だ。
"無尽蔵の活力"がすごく便利というのもあるけどね。
やはり行動力の節約と回復がとても出来るのは良いね。
本来燃費の良くない魔法の短所を消せる。
それと"森の魔女"もある。
より魔法を賢く強力に効率的につかう方法を常に模索できる。
スキルで覚えたものをそのまま振り回すのはかなり効率が悪いなと何度かチェックしての結果だ。
「さあ、もう出るらしいけど積荷は大丈夫かい?」
「ええ。行きましょう」
オウカに肯定して海の方を見る。
ここからしばらくは近いようで遠い大陸までの航海となる。
そのために割りと船は大きく船員含めるとかなりの大所帯だ。
それなのに誰にも見送られることのない船がひっそりと静かに出港した。
荒々しい海のかおりがする。
風を切って船が進んでいく。
「さて、改めてざっくり説明しておこう。まず先日の暗殺者はここ最近の動きは判明した。街に入ったのは裏カジノで市長が逮捕された前後。旅人を装い布を巻きつけた格好で潜入。中に入った後にその装いを破棄してしばらく住民かのように暮らしていたらしい」
昔ドラーグを街に連れてきた時に捨てられていた布を拾ったと言うのは実はこの暗殺者が着ていたものだったんじゃないかと思っている。
サイズはだいぶドラーグのが大きいが何重にも重ねて全身を覆っていたそうだから元々かなり大きかったのだろう。
こんなところかはひょっこりとドラーグの激運が垣間見える。
「そしてこれからの航路。まっすぐいければ良いけれど、隣の大陸との間は有名な危険な海。まず多くの暗礁と海中から飛び出ている岩山があり潮の流れも乱れやすい。天候の様子でも変わるけれど近くの大陸に行くためにかなりウロウロするハメになるみたい」
「普段はそれで侵略されずに済んでいたのもあるんですけれどね」
「いざ行くとなるとかなり大変と」
他にもいくらか理由があるものの帝国がこっちの島国である皇国を占領していない理由のひとつがコレのせいらしい。
今はだいぶ商人たちの間でも安全な海路が共有されているがそれでも面倒な道のり。
いざ兵を積んだ軍船が乗り込むぞとなると難しい。
今回の船も大きめではあるが軍船のようなゴツさからはほど遠い。
商人たちも利用する程度のサイズにおさめてある。
逆に小さすぎると潮の難しい流れにさらわれて別の方向に行ってしまうとか。
「さらに、領海に侵入してきたとして海の魔物たちが抵抗することはかなり多い地域になる。たいていのは私達で追い払えるはずだ」
「ただ、最近巨大タコの報告があるんだよな……」
ダンが腕を組んで唸る。
あれかなクラーケンってやつかな。
船を掴むような化物タコとか?
「ええ。本来はこの海域にいないらしいのですが……」
「たまに流れてくるってことはあるからな」
「何もこのタイミングで出て来なくても……」
そう言わざるをえなかった。
全員がその言葉に深く同意する。
船ではその後もしばらくゆったりとした時間が流れ続けた。
「そうれっ!」
剣ゼロエネミーに光が宿り念力のように魔法で動かして魚型の魔物へシュート!
大きく空中を薙いで胴体にヒット!
土魔力が爆発してそのまま空へと吹き飛んでいった!
……そして海へポチャンと落下。
「今のが最後だな」
「おつかれさまー」
「良い戦いっぷりだねぇ姉ちゃん!」
「やはり今年は魔物が多いなぁ」
海から飛び出てきたり船体を攻撃する魔物たちをちまちま退治中だ。
船員たちの賞賛に軽く手をふって答えつつ剣を手元に戻し鞘に収めた。
オウカたちも各々の休憩に戻る。
今のところあまり強い敵は出ていない。
節約しつつ進んでいるがみんなの行動力はそう無尽蔵ではない。
回復が追いつかねばいつか私だけしか戦えなくなる。
2日目の航海になったが天候そのものは晴天で風も荒れていない。
この調子で行ってくれ……!
「うわっ! イカの魔物たちが水弾放ってきおった!」
「「ハァ……」」
さあガンバろ。




