四百八生目 冷乳
結局熟成倉庫には問題なしということで翌日から工事の手が入った。
ひどい戦闘跡がこの通り。
キレイな場所に復活!
多数の加工があってまるで原型はないけどね!
ちなみに凍らせる力はユキモザメ含むここの魔物の中で仲良くなれた魔物たちでなんとかなった。
わりと会話さえできれば好物渡せば戦わなくてもなんとかなる魔物って多いんだよね。
普段なんとなく戦っていることが記憶に強く残っているけど。
凍らせたものを匠の力で加工。
なんということでしょう。
破損箇所が元通りではありませんか。
まあさらにあれこれ足してニンゲンの街から温度計と湿度計を調達。
肉を設置する場所の準備と穴を扉で塞ぐ。
扉なのである程度知っている生物なら開けられるかも。
それと看板も設置してこの場所にかんする説明。
その他モロモロ調整して……
最後湿度だけは高めに維持しにくいから九尾と共に開発して魔法加湿器を設置。
たくさんの水を得てたくさん蒸発させて高過ぎないが高い湿度を維持させるのが少し難しかったがわりと力技でやったので仕組みは簡易。
そして出来た熟成倉庫は今稼働し始める。
他の冷蔵庫と冷凍庫はやはり直ぐに出来て穀物も虫に食べられる心配もなく置いておけて良い。
腐らせないために何でもかんでも漬けたり干したりもしなくて済む。
兄のインカが張り切って狩ってくれた大物の牛型魔物を処理して解体しこの熟成倉庫に入れられた。
今私とインカそれにアヅキがその場面に立ち会っている。
「いやー! 楽しみだなあ、いつ食べられるのかなあ、明日かなあ」
「そんなに短くないよ……!」
「え? そうなの?」
すでにインカはお腹を空かしているらしく胃のこすれる音が響く。
今から待っていたら倒れるな……
「主の兄君、出来るのは忘れた頃になると思いますよ……」
「そんなに遠いの!?」
「まあねえ」
「まあその分ぐっと美味しいのだから、楽しみに待っていてよ」
インカが背の金槍を揺らしその場でヘタれる。
どうやら空腹が現界らしい。
「うう……そう聞くと余計にお腹空いた……」
「大丈夫です、そう言うと思ってアノニマルースに戻れば軽食を用意してありますから」
「本当!?」
「あんまりインカ兄さん甘やかさなくて良いからね、アヅキ……」
さすがに食べ過ぎれば、太るぞ!
とは言え。
私もちょっと用意しているんだけれどね。
とある日。
私はなんとかもろもろの都合がついてアノニマルースの青空食堂付近で機材を設置していた。
金属の歯車とペダルと大きな箱。
全体的にサイズ大きめ。
「なんだ、それ?」
「新しい遊び道具?」
「まあ半分当たりかな」
早速イタ吉とインカが興味を持って覗き込んできた。
さらに空魔法"ストレージ"からニンゲン世界で買ってきた牛乳を取り出す。
たくさん購入済み。
たっぷりと箱の入り口から注いでから蓋をして……
これでよし。
前脚を所定の位置に置いて後ろ足でペダルを踏む。
キュルキュルと小気味よい音と共にペダルが軽快に周りだした。
箱の中でも騒音がしだす。
イタ吉とインカが同時に1歩引いて身構えたからちょっと笑った。
「な、なんなんだ!?」
「一体全体何が……」
「まあ危なくないから見てて」
警戒をとき待たせることしばらく。
音の感じが変わったら完成。
ロックされていた大蓋をあける。
「……なんだこれ?」
中にあるものは軸に取り付けられた金属筒。
これが回っていた音が箱の中からする音の正体。
仕組みを外して……っと。
金属筒自体も大きく開く。
というかそうじゃなかきゃ中身出せないからね。
パカリと開けば。
「牛乳が……!」
「固まっているー!?」
「アイスだよー」
アイスクリームはご存知古来より食べられてきたものだ。
それを作るのは簡単ながら面倒なのもご存知。
外箱に詰め込んであったのはあの拾ったりして集めた万年氷と硝石だ。
硝石は氷と合わせればかなり温度が下がる。
牛乳を入れる金属筒は銅をベースにして土の加護を足しながら製造してもらった特注品。
フルオート化できれば良かったんだけれどそこまでは難しい。
クランク式アイス製造器はこの時代ならば海外ですでに作られているかも。
近くのニンゲンの街ではなかった。
砂糖確保はなんとかした。
マネーイズパワー。
「さあ、取り分けるよ〜」
いつの間にやら集まってきた魔物たちの前に並べられるバニラアイス。
さすがに1回分ではめちゃくちゃ作れるわけではないから20匹に行き渡らせるとひとり分はそこそこになるな……
イタ吉がアイスが盛られた皿の前でにおいをかぐ。
「これ、すっげぇ冷たそうだが、大丈夫なのか……?」
「さあ? 牛乳の関係で腸が分解できずに下痢するかもしれないし、冷えて腹痛になるかも」
「なにかよくわからないけれど、良くなさそうな単語だな妹……」
インカが初めて見る白い塊によく見回してにおいをかいで忙しそうだ。
尾がなんとなくご機嫌で期待大らしい。




