四百六生目 咀嚼
激しく氷の地面にぶつかったせいであたりに氷の煙が舞う。
赤龍が覆い隠されるほどに激しい衝突。
「……やったか」
「やってない!」
私が即座にアヅキに指摘すると同時に煙の中から光が放たれる!
アヅキが扇を振るうが微動だにせず光線のなぎ払いを喰らう。
ブレスの種類が変わった!
「ワタシの手をここまで煩わせるとはコバエめ、死して悔いるが良い!!」
赤龍の言葉がわかるようになった!
わあ。まったく友好的になれそうもない!
怒り狂っている。
赤熱光線があたりに何度も吐き散らかされまさに怒りを表すためだけの乱撃。
なんとかアヅキは最初のだけしか喰らわなかったようで黒煙を引きながら上空から脱出していた。
「待って! なんで最初からそんな怒っているの!」
赤龍の言葉を使って問いかける。
アヅキは自己再生スキルがあるから多少こげても強化済みの今なら時間さえ稼げれば……
うわっ。新しいゴミを見かけたみたいな顔をされた。
「愚者が、ワタシの言葉を使うとは、赦さんぞ!!」
「ムチャクチャ……!」
私に向かって火炎放射が放たれる。
剣ゼロエネミーを大盾にして防ぐ。
大盾が受けて炎が周囲に拡散していく……あっつ!!
当たり前だけど炎が近く通っていくというのはものすごく熱いな!
しかも周囲が寒かったから余計に感じる。
さらに連撃として本体が突っ込んできた!
「うおおっ!?」
「死ねぇ!!」
口を跳んで回避して大盾モードから剣に戻し回転して爪避ける。
そのまま身体の叩きつけを必死に転がって避ける!
この身体あんまり運動得意じゃないんだぞ!
というか避けきったつもりだったがじわじわ当たっていた。
痛いっちゃあ痛い。
まだ平気。
空魔法"フィクゼイション"でいつも通り空間ごと剣を掴んで念力のように振るう!
ムチ型変化! 反撃!
「もう、おとなしくせいやあっ!」
「ガアアアアアッ!!」
くっ。竜の咆哮で弾かれるとは。
諦めずにもう一撃!
おっ今度は当たった!
ただとっさの返しだからあまり効いてないか。
きっちり"防御"かなにかで防がれたみたいだし。
アヅキが赤龍の背後から跳んで接近する。
「主に何をするッ!!」
風の扇で再び長い身体を叩きつける。
縦に横に振り回して力いっぱい叩きつけている。
そのたびに赤龍が身体をひねらせつつ怒り吠えて致命打を避けつつ肉体のしなりで殴打する。
「うらああああぁ!!」
「クソが、終わりだ!!」
泥仕合になるかと思いかけたその時に赤龍の身体が光る。
いや正確には……燃え上がった!
火魔法か!
「グアアッ!?」
「逝ねぃ!!」
当然近くで殴っていたアヅキは巻き込まれる。
火というものは単にダメージを喰らうだけではなく肺が焼けて息が苦しくなることも含まれる。
気管支と肺があぶられるのは僅かでもかなり苦痛。
「アヅキ! 下がって癒やして!」
「ゲホッ……っわかりました」
まだ戦いたげだが距離を取らせる。
当然赤龍は追撃してきて赤熱光線を連射。
アヅキは今度は扇を使わずに"防御"と回避運動しつつ立体的になんとか避けた。
やはりあれだけ炎で暴れまわれると危険だ。
普通戦いの時はもうちょっと残行動値を念頭に置きつつ的確に当てに行ったり防ぎにいく。
ただ『憤怒』と言われるだけあってこの赤龍はさっきから攻撃連射に暴れまわり殴られているのに向かっていったりまあ1歩も引かない。
今も吠えながらこっちに来ている。
「殺す殺す殺す!」
鼻からも炎が漏れて息が荒々しい。
水中通ってきたあたりからも酸素供給手段が色々あるのかそれとも酸素以外を必要としているのか。
全身燃え上がりながらも息切れせず突撃してくる!
「そこまでだっ!」
ちゃっかりレベル上がっていた地魔法をここでぶち込む!
[アースイーター 大地で挟み喰らう]
アヅキが粘っていてくれたお陰でためにためた魔力を爆発させられた。
あまり使い慣れていない魔法だったが今きちんと発動する。
「何をしようとっ――」
私の目の前まで迫ってまるごと食われそうになったその時に赤龍の姿が下に落ちた。
赤龍の身体の上に氷塊がのしかかり地面の氷に叩きつけていた。
しかも牙のようなトゲが多数ありいかにもいたそうだ。
これは地面と同質のものを上空に発生させた上に牙のようなトゲがたくさん生えるという魔法だ。
本来は地面にしか適用できないが……今回試しに地面の定義を広めさせたらなんとかいけたので使った。
そこに時間がかかったが地魔力は応用幅が偉大だなあ。
「グ……ガガ、この程度……!」
赤龍がさらに暴れ血を各地で流しながら炎の力で氷を蒸発させていく。
私はそれを魔力で補い牙を再生させて……
「それっ!」
「グアアッ!?」
氷塊が光を纏い動き出し何度も何度もまるで噛み直すかのように動く。
牙のようなトゲが刺さる度に長い身体がどんどんと押し込まれる。
そして大口を開けて最後抜けようと伸ばした顔を。
噛んだ。