四百四生目 秘境
「それなら……近いところは知っているかもしれません」
アヅキの説明を聞いたユキモザメこと氷上のサメはそう答えた。
なのでついていくことにしたのだが……
「この先……?」
「ええ、特別な場所ですから。だよね?」
「ダヨー」「モグルヨ」
ユキモザメの腹にくっついているユキモグラたちも同意している。
うーん流氷の浮かぶ中この寒さを海中泳ぐ必要があるのか……
流氷に押しつぶされるのも危険だしアヅキは泳げないし……そうだ。
「私たちはこの中を泳げないけれど、その場所が陸の上ならば私の魔法でなんとかなるかも。先にまず行ってみてくれないかな」
「分かりました!」
「それと……このスキルをオーケーしてみて」
"以心伝心"をユキモザメに飛ばす。
まだ絆が深まっていない相手だから簡単に拒絶されてしまうが事前告知すれば大丈夫。
すぐに受け入れてくれた。
「これで良いのですか?」
「うん。これで念話が出来るから、ついたら私に喋るように念じて」
「ハイヨー」「ヨー」
ユキモグラたちが返事をするとさっそうと海へ飛び込んだ。
サメの本来いる場所だから問題ないのだろうけれど本当に潰されたりせずに泳げるのか不安になるね。
まあ私たちは待機だ。
そこらへんの何らかに使えそうなものをアヅキと拾い集めつつ待つ。
迷宮の品はなにかと希少かつ有用なものが多く目利きさえできれば良い物たくさん。
「おっ」
この氷の欠片なんかは万年氷じゃないかな。
長年かけて氷の魔力を蓄え続けたシロモノで氷魔術媒介にできる他に平温でも凍っている点を利用してなにかと冷ますのに使うらしい。
大きさで価値が違うがこれは私の拳程度……つまりニンゲンの拳よりひとまわりは小さい。
価値そこそこ。
「アヅキは何拾った?」
「なんでしょうね? 光ってはいたのですな」
アヅキに見せてもらうと確かに光を返す謎の鱗模様を持つ球体。
"観察"……え!
「これは植物なのか! しかも寒冷地のために葉肉がこのように固まって……へええ」
「良い物なのでしょうか?」
「わかんないけど、わからないものは価値が高くつきやすいね」
「それは良かった」
アヅキが恭しく私に渡してきた。
わからないものが高くなりやすいのはどの世も同じ。
ニンゲンたちの情報にもほとんどないはずだからちゃんと記録付けて一緒に冒険者ギルドに売れば良くなるだろう。
そうこうしていくらか待ったあとに。
……あ。"以心伝心"で念話が来る。
『つきましたよー』
『おお、ありがとう。じゃあちょっと見せて』
"以心伝心"の力で視界を共有化する。
相手の目から見える情報を受け取れるわけだが……
どこかの水辺から氷上を見ている。
それにしても雪のないキレイな氷だな……
『おお? 今、私の目から見ているんですか、この感覚は……?』
『うんうん。ちょっとそのまま見る場所固定して』
アヅキの足に私の前足を置く。
驚いて何か言いたげなアヅキを制する。
「ワープするからこのままで」
「は、はい」
目を閉じてユキモザメの視界に集中。
通常より強化した"ミニワープ"!
他者の目だろうと視界内ならこれで飛べるはず……!
姿がかき消えるとほぼ同時に出現。
無事到着!
「おお!? 急に現れて驚きました」
「なんとか成功したみたいだね……おおー!」
「このような場所もあるのですね!」
冷たい風が舞う場所でありながらその空間は閉ざされあまりに特殊だった。
見上げれば輝きがあふれ外壁の氷が光を乱反射し場所全体を明るく輝き照らす。
広いがここは閉鎖空間なのか。
侵入するにはユキモザメが顔を覗かせている下側に空いた穴……つまり水中から来るしかないと。
これは見つからないわけだ。
「秘境か……!」
「秘境、ですか?」
「ああ、冒険者たちの間で使う、変わった場所を指す言葉だよ」
この風はどこから来るのだろう。
場所内全体に吹く風と違って穴は空いている様子はない。
……あれは。
"魔感"で壁の中から強い風の力を感じる。
近づいてよく見てみると風の魔力たちが生み出され排出されている様子が見えた。
人工……天然……どちらとも言いにくい。
魔物が作り出したのかもしれないし大昔何かに使っていたのかもしれない。
「どうです? ここは」
「うん、もうちょっと調べる必要はあるけれど……」
「なかなか良さげですね。良く役に立ってくれた、ユキモザメ」
私に言う時とユキモザメに言う時と声色がまったく違うな……
っておや?
水と繋がる穴から何か大きいのが来る。
「みんな、警戒」
「え?」
「む、敵ですか?」
果たしてどう出るか……
ザバァ! と水中から飛び出す大きな影。
穴の大きさはそこまで大きいわけじゃないが影の長さが違う。
あれは……東洋的な蛇みたいな姿の竜だ!