四百三生目 熟成
アノニマルースは快適ながら問題は抱えていた。
それは快適に過ごすことは出来ても食糧をためておくことは出来ないということだ。
肉は端から腐るし穀物はたくさん穫れだしたのに虫対策がなかなか出来ない。
正直かなり前からアヅキによる対策申告はあったものの根本的打開策を出せないでいた。
ここに舞い込んできたのは流氷の迷宮。
しかも平和を取り戻した今なら管理者お墨付きの利用し放題。
やはり冷却環境はかなり大事。
あるだけで違う。
だがアノニマルースとは迷宮自体が違うから管理のことを考えねばならない。
さらに外気温およそ氷点下20度以下。
違う季節ならもう少しマシらしいが気温が氷点下から上がることはない。
上がったら氷解して惨事。
しかも日によって吹き付ける風と雪により体感気温はガンガン下がっていく。
貯蔵した食糧取りに行ったら凍てつくのはマズイしそもそもこの状況では多くの食糧は冷凍でしか貯蔵が困難。
凍らせていいものは限られている。
そこで手頃な洞窟を求めているわけだ。
ここなら保管しやすいという場所を求めていた。
探すのは冷凍倉庫と冷蔵倉庫そして熟成倉庫。
「入り口塞いで土をひけばいい感じになるかな?」
「ええ、想像していたよりも暖かいですから冷蔵倉庫として使えそうです」
氷の洞窟でも結構種類があるというのが今回の調査での収穫。
さきほど調べた洞窟だなんてわけがわからないほど冷えていて氷の魔物ことヒヤフリーズもわいていた。
龍脈の動きや魔力的な差異でも環境が変わるらしく条件を探すのはなかなか骨が折れる。
もちろん地理的なものでの左右も大きいからね。
穴だらけの洞窟はちょっと雪が入り込みすぎる。
問題は熟成庫だ。
いくつか環境は魔法記述やら建築技術やらで再現できるだろうが熟成倉庫はなかなか難しい面がある。
気温は氷点下ぎりぎりいかない程度を保ちつつ風が吹きすさび湿度が高め。
そして肉食獣たちに出来る限り見つからないようにしなくては。
環境を整えることを多くやろうとすればそれだけ時間と費用もかかるし維持も大変。
その場所と周囲に環境被害もでやすい。
魔王復活秘密結社の手助けみたいなことにならないようにというわけでもないが荒らさずにすむならそっちのが良い。
「よし、ここは冷蔵倉庫にするとして、熟成倉庫になる場所を見つけよう」
「はい」
アヅキが慣れない地図を見ながら外を歩く。
まあアヅキは外で活躍しているわけじゃあなかったからね。
ただ調理関係となるとやはりアヅキの目で見定めたほうが良いだろうと言うことでこうなった。
あとアヅキが私とのお出かけでやたら喜んでいた。
やはり冷蔵保管は私が伝えた話を聞いただけでも早く欲しかったのだろうか。
雪と風が舞うが魔法効果で私達の周りだけ避けていく。
「ところで、熟成とは具体的にどうなるものなのですか?」
「そうだなあ……アヅキは肉を腐らせたことはある?」
アヅキは肯定する。
受信機の翻訳機能は種族ごとに違うジェスチャーと動きの意味までは翻訳がカバー出来ないからトラブルのもとになりがちなんだよね。
私は"観察"と"言語学者"の組み合わせて理解しているが。
「ええまあ。大量に狩れた時に残り物が変質したことは。でもまあ食べられますよ」
「さすが……」
カラスならではな気もするが単純に野生環境だから生き残ってきたのが平気なだけな気もする。
まあ言わないけれど。
ニンゲンにさすがサルって言うようなものだろうし。
「まあともかく、その腐る状態を意識して発生させるのが熟成」
「わざと腐らせるのですか?」
「ただしおいしくするように狙ってね」
アヅキが感心しているがどこまで伝わったかな。
それはともかく何かが接近してきているな……
アヅキも気づいたらしく目線をさまよわせている。
向こう側から滑ってくる影の正体は……
「あ! ユキモザメ!」
ユキモザメはお腹にユキモグラをくっつけて氷の上を滑る鮫の魔物。
ただ……敵意がない?
「こちらに向かってくるということは、敵でしょうか」
「アヅキちょっとストップ」
「はい」
さらに接近してきて私達の前で止まる。
な、なんだ?
「お久しぶりです! 前会った者です!」
「……ああ!」
倒しておとなしくしてもらってからユキモザメにも黒い獣探しを手伝ってもらっていたのをすっかり忘れていた。
ということでもうすでに解決したのを伝えると安心していた。
「良かったー、また迷宮が涼しくなったからなんとかなったのかなぁとは思っていたんです」
「お知り合いですか?」
「ちょっとね」
アヅキにも紹介しておく。
まるで違う生物が3体寄り添ったところで今の問題は解決できないがなんとなく面白い。
「ところで今も何かお探しなのですか? 何かそのような感じだったのですが」
「ああ。俺と主はとある条件に当てはまる場所を探していてな。かくかくしかじか――」