四百生目 魔界
こんばんは。資料を読み漁ってやっとひと息ついたところです。
何の資料かと言うと悪魔。
この世界にある悪魔の事。
「わかっているのが多いというのも、大変だなあ……」
私の前世では悪魔とは神話の中に存在するだけのものだった。
ただこの世界ではかなり事情が違う。
魔物の悪魔族として立派に存在する。
多くの研究とその結果の資料が存在し私の権限で引き出せる内容は国が管理するものでも多少読むのを許可された。
まあようするにわりとゴウに無理言ったんだけどネ。
この世界の本はかなり高度な暗号化魔法が進んでいて専用のルーペがないと内容が全て解読不可になるというものも。
ただ読めなくしてあるものは国の大事な情報だからということ以外にも理由がある。
読むと発狂。理解すれば絶望。読み解けば邪悪に染まるといった禁断の書物のたぐいもあるからだ。
それらは表に別の紙でしかも平文でどう危険かとデカデカ書かれている。
本に呪われないための手順も正しくやらなきゃいけないからひとつ読むのにも苦労する。
悪魔を知るということはこの世界ではそれだけ危険を伴うそうだ。
悪魔が発するそれぞれの力がただ知識として記されるだけでも力を持つのだから。
悪魔はこの世界と重なり合って存在する別次元の肉体を必要とせず魂と精神だけで形作る生命体の総称だ。
こちらの世界から悪魔界に関われないように悪魔たちもあまりこちらの世界には関わらない。
ただしこっちにもあっちにも例外はある。
だから互いに存在を認知して互いの世界に影響を及ぼしているようだ。
生体憑依と顕現はその代表例。
肉体の無い悪魔が魔物や人に取り憑きやがて支配すると悪魔の目が出て顕現する。
本で出ている例は大半は小さな目玉を多くの魔物狩り……つまり冒険者たちでなんとか倒せた類いだがたまに違うのがある。
強大な悪魔を呼び寄せて味方にしようとしたら逆手に取られて国がひとつ滅んだ例もあるとか。
また細かな悪魔たちのデータも判明しているのがだいたい載っていて呪われないように気をつけながら読み進めた。
それと契約だ。
悪魔に対価を渡してその結果労働してもらう。
まあ大抵ロクなことにならないそうだが……
そして私ですら閲覧が禁じられている凡位種に下位種そして上位種よりも上の存在たち。
いるのは示唆されているが本当に危険だからそもそも持ち出しが完全に封じられているとか。
気にはなるが危ないのならわざわざ読むつもりはない。
これは返却するから空魔法"ストレージ"の亜空間に入れておこう。
ついでに黒い獣騒動解決の報酬ももらう予定。
こんにちは。ホクホクな私です。
ニンゲンの街にホリハリーの姿で行って悪魔本を返し報酬を受け取ったが今回は今までのなかで最大だった。
ランクもLから大幅に増えてNプラスになった。
ゴウとダンが旅の間に仲良くなり信頼を得られたようなのも大きい。
今までのコソコソとした感じのやり方からむしろおえらいさんを招いて大々的に表彰されたりもした。
何か大層な賞ももらえて今回のはかなり大きな前進だ。
何せ国のおえらいさんたちはこちらの正体は知っている。
それを考慮しても味方に引き込んだ方が良いと判断したのだから。
こっちも好き好んで敵対したくないから良かった。
ただ……慣れてないから恥ずかしい。
だから冒険者ギルドともかなり仲良くなれた。
こちらの権限もかなり高まってきて少しワガママでも聞いてくれるらしい。
ならば冒険者ギルドの裏方さんたちを前にして言うことは1つ。
「私の街の冒険者ギルドとつながってくれませんか?」
寒空の中荒野の迷宮内にあるイタ吉の冒険者ギルドと国の冒険者ギルドがこうして手を組んだ。
イタ吉のものが公式な冒険者ギルドとなったのだ。
亜種的なものでイタ吉がアレコレ作って幅広くやるし魔物も登録できるがついにニンゲンも利用可能となったわけだ。
「さあ! 今日が新たなオープン1日目!! やるぞー!!」
「「おー!!」」
イタ吉が号令して拳を突き上げる。
魔物の職員たちも後に続いた。
新築され立派な新冒険者ギルドだ。
かなり広くなり2階建て。
荒野の迷宮土の森の迷宮樹で出来ていて非常に頑丈。
あとイタ吉の趣味で派手。
着色は私の光神術"ミラクルカラー"で行ったらしい。
建築のさいによく借りられるスキルでそのためアノニマルース内は結構カラフルな街だ。
「ここが、魔物たちの冒険者ギルド……」
「派手、ですが活気がありますね」
外観が赤を基調にしているからまあ目立つよね。
感想を口から漏らしているのはニンゲンの冒険者ギルドから派遣された事務員だ。
この後イタ吉と詳しく話を詰めるそうだ。
カムラさん同伴。
「無理を聞いてもらってありがとうございます」
「いえ! 我々にとっても活動の幅を広げるチャンスですから!」
私はよく知らなかったが実は彼らは事務員でもエキスパートだったらしい。
のちにカムラさんから聞かされた。
ただこの時は目の奥に光る欲望の炎を見て、
「魔物たちが活発なのを見て引かないでくれて助かりました……」
「言葉が通じる相手ならば、恐ろしいとか言ってられないですから!」
と思わず口にした言葉に心強い返答が聞けて良かったと思うばかりだった。