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三百九十九生目 仔兎

 シカウサギに指示を飛ばしつつ効率化と新システムのための魔法記述を描いていく。

 道具は(くう)魔法"ストレージ"の中にたくさんある。

 氷しかない空間だから自分は身体を冷やさないように火魔法"ヒートストロング"で自分を暖めないと。


 ただ迷宮は冷やさなくてはいけない。

 そのために迷宮全体のシステムを再構築しなくちゃならなくて……


「ろ、ローズ殿!? 何か異常な表示が……海流の流れがおかしく!? ローズ殿ぉ!」

「大丈夫! そこは多分そうなると思ったから今から言うところを!」


 混迷を極める現場でひたすらシカウサギに指示を飛ばす。

 シカウサギはわけもわからず従ってくれているが私もわかってやれる部分がなかなか……

 シカウサギたちがいじらずにいたブラックボックスを開いてわけのわからないのをとにかくアレコレといじりながら理解する。


 幸いなことに"森の魔女"の魔法知識と実際に習った魔法記述でなんとかなる部分がメイン。

 かなりごちゃっとしていたり明らかに独自の方式でやっていたりと困る部分はあるもののまあなんとかなる。

 なんとかしてみせる!







 数時間に及ぶ格闘の末シカウサギが根をあげたところで一旦終了となった。

 いやあこれは……


「ど、どうなんですかね……これは」


 シカウサギから色々教わったことで表面的な見方はわかった。

 だから最終目標地もわかってはきた。

 それを考えると……


「そうだねえ……だいたい今ので2割程度どうにかなった」

「え、へったエネルギーが2割戻ったんですか!?」

「ううん、全体の作業工程が2割終わっただけ」


 シカウサギが地面にのびた。

 気持ちはわかるが真面目に今なんとかしたのは地の部分だけなのだ。

 この基礎どうにかしないと他に手を回せないから仕方ない。


 基礎の部分が腐っていたところ多かったから参考にしつつとっかえまくったって感じなんだけどね!

 龍脈エネルギーは最大値の3割減ったままだし気温や水温は上がり続けている。 けれど龍脈エネルギーは本当に長い時間かけて復活させるしかないから仕方ない。


 この状態でもまともに流氷の迷宮を冷やしてちゃんと万全に動くのが目標。

 とりあえず迷宮自体が大きく狂った状態にならずに基礎リフォーム出来ているのは誰かに褒めてほしい。


「さあ、明日も早くからやるよ!」

「や、やるんですか!」

「そりゃあ、まだ何も解決してないですから……」


 それから1週間程度シカウサギの悲鳴が氷の中からこだましたのは言うまでもない……





 というわけで。


「あー、終わった!」

「お、終わりなんですか、これで……」

「うん、最後の承認してくれたら迷宮が順調に冷えだすと思う」


 シカウサギが恐る恐る最後の承認をする。

 承認はシカウサギの特殊な鳴き声だ。

 シカウサギの歴代の王にしかできない。


 歌うように鳴くと氷の壁面が一斉に動き出した。

 私が解析を行いなんとか新しく導入出来たシステムへ切り替わる。

 基本的にはシカウサギたちの感覚で理解できるようにアイコンやイメージを使って文字を使用しないのはそのまま。


 たくさんあった表示は内容がかぶっていたり明らかに普段は使わないものが多数だったので消したり隠したりしてスッキリ。

 さらに"ストレージ"の亜空間から1体の仔シカウサギ像を取り出して置く。


「おお……! (それがし)らの努力がついに! っと、この置物? はなんでござろう?」


 努力というより努力しなくてもなんとかなっていたけれど一気にツケを急に払うことになっただけだとは思う……

 それは声に出さないけれど。

 代わりに仔シカウサギ像がカタカタと動き出す。


(ソレガシ)ガさぽぉとヲ務メサセテモライマス、チビウサゴーレムデス!」

「わ! お、おお置物が喋った!?」

「弟に作っておいてもらったんだ」


 基礎的にはハックの作ったゴーレムの1体だが私含む複数でかなりの改造をほどこした。

 その機能を存分に発揮するために仔シカウサギ像を氷の壁際まだ表示が出ている部分に近づける。

 像と壁が淡く輝きシンクロしだす。


(ソレガシ)ト管理しすてむヲ接続シテさぽぉとヲ開始シマスカ?」

「え? え?」

「これは私がいなくても迷宮を維持出来るように助けてくれるゴーレムで、キミの許可さえあればキミを助けてくれるってさ」


 小難しいことはともかくこのゴーレムが正常作動すれば……

 かなり怪しみつつもシカウサギは承認をしてくれた。

 2つの光が瞬いて消える。


「接続シマシタ! 現在迷宮ハ省エネモードデ稼働シテイマス。何ナリトオ申シ付ケクダサイ」

「お、おお、これで良いのでござろうか……?」

「うん、ちゃんと動くみたい」


 その後シカウサギが像に何度か話しかけて細かい情報を聞きそれに対してちゃんと返したり変更を受け付けたりして感動していた。

 これは水洞の迷宮で管理部屋でサポートしていたクラゲを真似させてもらったのだ。

 参考にさせてもらうために訪ねたから快諾してくれたのでありがたい。


 仲良くなったのかシカウサギが頭の上に仔シカウサギ像を乗っけて喜んでいる。

 気に入ってもらって良かった。


「実にありがたい! 末代まで大事にさせてもらいます!」

「末代マデサポートシマス!」


 シカウサギだけでは今後の管理が不安だったからとは言えない。

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