三百九十八生目 智謀
「エネルギーが3割も減ってしまっているようで……」
「そのぐらい減るとどうなるの?」
「このままでは時期にあたたかくなり、流氷たちがみな氷解します!」
それはまずい。
シカウサギたちの言う予想が合っているならば流氷の迷宮が名前負けしてしまう。
いやまあニンゲンたちの勝手に付けた呼び名なんだけれどね。
それでも環境の激変は多くの死を招く。
良いことではないだろう。
なのでなんとか治さねば。
私がシカウサギの王に呼ばれたのも主にこのためだ。
シカウサギたちだけではどうこうしようもないんだとか。
この部屋は隠された通路の奥の小部屋でシカウサギ自体そう何匹も入れない程度に狭め。
全面が氷のまるで天然にできた空洞だがシカウサギが中に入りひと声かけることで全面に変化が起きる。
私では良くわからない多量のデータが氷がズレて模様として浮き出たのだ。
書いてあることは文字というよりもアイコンやイメージっぽい。
それで今シカウサギが作業していることを背後から見ているわけだ。
「それで、どうすれば良さそうか目処みたいなのは……」
「へぇさっぱりで。某は先祖代々受け継いできたものの、こういうおおごとは先代も先々代も体験していなかったもので」
私はいちおう1から迷宮を作成したことがある。
だからその分少しだけシカウサギたちよりはマシだろう。
頑張って守ってはこれたようだが逆に言えば何もいじらずに長年済んでいたのだろうか。
「うーん……どれがどのデータかとかわかる?」
「へい! これが世界の見た目、こちらがあたたかさを示していて――」
わからない表記を片っ端から聞いていく。
そして聞けば聞くほどに多い情報と微妙にずれる事柄を私の知っている物事とすり合わせる。
あたたかさというのは気温計か。
それとこちらは同じあたたかさでも水温計で……
こちらが全体的な氷温度計なのか。
そのようなことをひとつひとつ理解して頭の中で埋めていく。
……のも限度を感じたので空魔法"ストレージ"で亜空間から紙とペンそしてインクを取り出し書き連ねる。
"変装"で変化させた身体に不思議そうにシカウサギが眺めるが説明を急かした。
うーん。難解だ。
なんというかもっとスッキリさせて色んな補助をオート化させたほうが良いんじゃないか。
それと、
「ここはちょっと触らないようにと先代から!」
「こっちは先々代から出来る限り触れるようにと」
「ここは……某程度では把握できぬ先祖の失われし智謀の詰まりしモノで……」
とこのようにふれないさわれないむしろ分からないものが重要部分につれて増える。
代々管理してきたというのは聴こえは良いものの見ても理解できないがなぜか動く部分を後代が下手に触れずに放置されてきたわけだ。
こういうのはかなりマズイ気がする。
周りのものから推測しつつ……うーん。
そもそもエネルギー不足をどうにかするには新しくエネルギーを増やすしかないが龍脈のエネルギーはそう簡単に足せるような量じゃない。
だから効率化しなくちゃならないな……
よし! ここは思い切って!
"進化"! ホリハリー!
2足歩行で魔法特化だ。
「うわっ! 姿が!?」
「やりやすいようにね」
"森の魔女"が発動してより深く魔法の事を探る。
魔法技術は迷宮の仕組みでも比較的よく使われている。
そこから理解する作戦だ。
わからない部分をシカウサギへ通して認証させて裏側の動作している魔法をオープンさせる。
やはりというかなんというか魔法記述たちはブラックボックス化していた。
まるで更新されている形跡がない。
おそらく何かやろうとしたり直そうとしてひどくこんがらがった状態のまま無理矢理詰め込まれている。
昔はそれで良かったがエネルギー不足で奇跡的なバランスが崩れて不具合を起こしている。
ひとつひとつバラして外科的処置のように私が新たな魔法記述を刺し込んでいく。
「ああ! それは触ると危険と!」
「大丈夫! というより不具合出ているからやるしかない! こっちもね!」
「ひゃあ! 先祖代々受け継がれし智謀が!」
シカウサギが悲鳴を上げているがやるしかないのだ。
脳裏と紙で最適な魔法記述を必死に練り上げて次々かきこんでいきこの迷宮管理システム全体のアップデートをしていく。
やはり当時は過剰なエネルギーを力技でぶん回してどうにか回していたのだろうと理解出来る部分がかなりある。
この部屋いっぱいに氷で出来た多数の表示があるのもそのせいだ。
これ大半は普段表示する意味も薄くて無駄で……そもそもどれが大事だかわからないじゃないか。
これらの表示にもどうやらエネルギーを浪費しているので笑えない。
とりあえず気温がマイナス30度目指したいのにこのままだと0度越えてしまう事はわかった。
かなり忙しくなるぞ。