三百九十一生目 家族
輝く前足の鎧でぶん殴る!
ブヨリとした感触と共に悪魔の目の黒に聖魔法の纏った力により白が浸食。
肉塊や悪魔の目が震えて悲鳴のような音を上げる。
そして斬って打つたびに聖の力がまるで肉塊たちを麻痺させるかのように染み込んだ白の力で縛っていく。
縛り麻痺させた先からその力を解こうと抵抗されるのでとても厄介。
それを越える速度で打つべし打つべし!
身体の中の酸素を使い切りすぐに息を吐きまた反射的に吸う。
普通ここまで乱れたら離れるものだがさっきの2連射見るにもはや次に私が対応できないほどの猛攻が来る可能性もある。
やれるならばここで落とす!
黒が白に侵されてまたダカシの魂が浮かび見える。
剣を呼んで形を直し鞭状に変化させて悪魔の目を縛り上げた。
ここからだ。
[セパレーション 混沌たる邪を拒絶して聖邪を分ける]
聖魔法のこいつを唱えて……唱えられた!
光が放たれると私が攻撃を加え続ける悪魔の目の黒部分から何かが抽出されダカシの魂へと集っていく。
悪魔の目がかなり苦しげでかなり響いているらしい。
「ダカシー! いい加減! 起きろ!!」
4つの足に強靭なトゲを生やしサマーソルト!
ついに黒い目玉がグルグルと大きく回転しまさに目を回した。
……眼球がちゃんとくっついているならありえない縦に360度回転でちょっと引いたが。
グロロロロロ……!!
文字にするとそんな感じの鈍い悲鳴のような悪魔の目の振動音と共に極端に白い部分が増えた。
黒点はわずかでダカシの魂は順調に抽出されて大きく増えている。
肉体で言うならだいたい7割程度あるか。
もう一度ここで!
「ダカシ! 今だ! 悪魔に打ち勝てー!」
まったく。敵の敵を倒すためになぜこんな敵を応援するようなことをしているのか。
でも今それが良いのならそうするだけ!
黒点を尾でぶっ叩いた!
恐ろしいのはやっと生命力が減りだした点か。
今までは悪魔の目の精神力……そして支配力を削っていただけだ。
怯んで大きく支配力が落ちている今がチャンス。
傷もしょせん致命的ではないし周囲ほどではないが自動治癒もされていく。
だが暴れていく聖魔力は別だ。
本来の持ち主であるダカシと悪魔の因子を分けようと頑張っている。
「ダカシ! 起きろ!!」
これは寝ているというより意識が奪われているのが問題だから……
聖魔法"ピースマインド"!
精神汚染を取り除く。
本来は味方に使う癒やしの魔法だがダカシにぶつけることで不和干渉が起きてバチバチとエネルギーのロスが弾けた。
唱え続けて空中の目玉部分に無理矢理前脚を食い込ませ背中は肉塊に針を伸ばして挿し込み止まる。
食い込ませた前脚から絶え間なく"ピースマインド"を唱える!
前脚から放たれる魔法の光が強く押し返される感触。
魂は徐々に集っているが魂だけでは意味はない。
ダカシの精神……心を取り戻さなくては。
復讐や殺意のみに心を潰されて悪魔に飲まれているから正気が成立していない。
正気を成り立たせるために復讐や殺意を使っていたはずが今や逆に正気の上に乗られている。
前脚を白い目部分に少しずつ沈めながらそこらへんを意識して魔法を唱える。
「ダカシ!! 身体を乗っ取られるなーッ!」
大変なんだからこっち!
彼の過去だなんてぶっちゃけわからん。
彼は敵だったから恨みはあれどよかった記憶とかない。
本当はこういう時そういうのでドラマチックに救うんだろうけれど……力ずくで行かせてもらう!
「自分の手で、復讐するんじゃないのかーッ!! ダカシ!!」
復讐刀。
アレは国の発行する特別な殺人許可。
復讐罪に定められた被告を殺すために身内などが持つ刀だと詳しく調べ直してよく知った。
あれを持つものは。
自らの手で犯人を殺すと国を納得させた者のみが持てると。
だからこれだけは間違いないのだ。
"ピースマインド"の光が広がっていく。
悪魔の目が白い輝きに飲まれて私ごと光に飲み込まれ……
ふと誰なのかもわからない3人とダカシが仲良く笑い合う姿が垣間見えた。
「うわっ!?」
弾き飛ばされ地面に落下。
落下衝撃は落下時の衝撃がない"フォールイース"のお陰でなんともなかった。
そうか。今のはダカシの想いが私にも干渉してきたのかな?
ということは見えた3人はダカシが殺されたという家族……
おっと。光が収まった天井の様子を見よう。
悪魔の目がグルグルと苦しげに回りながら文字通り黒白させている。
見た目だけでもなんとなくわかる。
戦っているのだ。
私があそこまでやってやっとなんとか勝負になったとも言えるが。
私は悪魔に憑かれていないから後はダカシがなんとか勝ってもらうしかない。
もう息も絶え絶えで戦いをしたくないのだが。
ろくすっぽこの悪魔の目含む広場中ある肉塊を全て一瞬で無くせる火力だなんて無いしね。