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三十七生目 爆音

 私が身構えると親玉は嘲笑を堪えきれない様子で私を見ている。


「こりゃー、傑作だ。どう考えても子どもの魔物じゃねぇか! これがお前らの頼みの綱か!? アン?」


 相手は観察は持っていないらしい。

 こちらの強さをはかるスキルや勘もないのかもしれない。

 というより私が明らかに仔どもだから舐められてるのか。

 そりゃそうだな。

 めっちゃラッキーな容姿だ。


「さあて、おこちゃんは一撃でおねんねしな!」


 長剣がまっすぐ振り下ろされる。

 先程の切り結びを見ていたら明らかにバカにされているのがわかる。

 というかこっち魔物だしね。

 小手先の変化より、より早くより強く振るのが最適というのはわからないでもない。

 けれど私の目には早ければ早いほどゆったりくっきり見える。

 この程度なら私自身の身体も楽に動く。


「オラァ! 避けたか? なら! はっ! やぁ!」


 何発か空振りさせてやった。

 明らかにおかしいのに気づいたはずだ。

 別に私はナメプしているわけじゃあない。

 今必死に術を使おうとしているだけだ。

 ただ一回使うだけでも、まだ難易度が高い。


「テメェ、ちょこまかと! 動くんじゃ! ねえ!」


 流石に軌道がブレだした。

 フェイントを混ぜてきているわけだ。

 でも、何とか完成したと思う。

 指向性はギリギリ直線のみ、洞穴へは避けて空へ。

 多少漏れはあるがそこは仕方ない。

 その漏れでヤラれないように限界まで押し込むのに苦労する。

 使うのはただ一発。

 既に味方が耳を塞いでくれているのは確認済み。


「いい加減、死ね!!」


 剣を突き刺そうとした今!

 私は前方直線状に向かって"音"を出した。

 サウンドウェーブ!

 ドカン!! という音が周囲には響いたはずだ。


 砲台から弾が発射されたような音。

 ぶっちゃけ私自身はかなり考慮したのにあまりの音の大きさに耳がキーンとなってフラフラしそうだ。

 まだまだ改善しなくては自爆技だ。


 対して目の前の親分はというと。

 血走った目のまま剣を突き出して固まっている。

 そして1秒。

 彼の両耳から鮮血が飛び出した。


 攻撃に使うサウンドウェーブは空気の動きのみに重点を置いて、うるさく風のように吹き飛ばす勢いの技にしていた。

 今回はある意味その逆。

 ドデカイスピーカーのように激しく音を響かせた。

 但し指向性を持たせ直線状、空に向かって。

 こんなもの洞穴内で響かせたらみんなぶっ倒れる。


 耳から血が出た彼はそのまま白目を向いてひっくり返る。

 泡を吹いて気絶したようだ。

 耳を抑えるように頼んでおいた味方たちは全員無事だ。

 めっちゃ耳がキンキンする事以外、良かったよかった。


「今の音は!? えっ、あれ、倒れている!?」

「すごい! よくわからないけれど!」

「助かりました、ってご主人さんの方に」


 レッサーエルフ、プチオーガ、ブラスヒューマンが口々にお礼を言ってくれた。

 よかった良かった、出血の方は何とかなったようだ。

 恐ろしい奴らだった。

 たまたま私がいたから何とかなったものの、全部炭が奪われていたり惨劇の現場になっていたかも。

 その対策が必要だ。

 やりたいことはあるが、どうしよう。


「こいつらは責任持って街の衛兵に連れていきます」


 うむ、プラスヒューマンの意見も良い案だけれど、一時的に不安が取り除けるだけで根本的にこういう輩が来ることへの対策にはならないよね……

 ならば、やっぱりやるか。


『少し待ってくれ、試したいことがある』


 そう私が……私を操る魔獣使いの声のフリをして言うと3人は口々に了承してくれた。

 さてそれじゃあやろう。

 私が気絶している親玉の頭に前足を乗せる。

 何となく頭なら効きやすいかなって。

 そして、無敵。

 ヒーリングを重ねるのを忘れない。

 気絶しているから治してもしばらくは平気だ。


『そうだ、武装はとりあえずはずし、縛っておいてくれ。抵抗はされるかもしれない』


 頼んでくれたとおりに転がっている子分たちの武装をとっていってくれている。

 私も作業に集中しよう。

 ……うん、手応えがあった。

 恐らく、良いはずだ。


 そして子分たちも縛ったやつからやっていく。

 全員親分が倒されたのを見て既に戦意はない。

 痛みに苦しんでいるままなのも大きい。

 恐らく剣を振る気力はどこにもないだろう。

 そんな相手たちに無敵とヒーリング重ねがけ。

 身体は楽になるはずだ。


 無敵が効く前に抵抗されたら嫌なのでヒーリングは手抜きだ。

 そして、彼らの目の中にあった怯えがスッと変化した段階で次。

 それを4人とも繰り返して完了。


 みんな混乱しているようだ。

 これまでの心情と今の心情の変化が謎だからだろう。

 これが無敵の怖い所。

 別に私は人が混乱するのを見て喜ぶ性格はないのでこっそり無敵だけ使って補助をしてやる。

 まあ、無敵は一定段階以上はあまり効果がないのだけれどね……


[無敵 +レベル]

 そう思っていたら、レベルが上がった。

 そうなると少し話が変わるかも。

 何々?

[無敵Lv.4 短時間対象に触れる度に効果実行までの時間が蓄積される。自分より大きく劣る知能の相手でも効果があり、自身への攻撃意思をかなり無くす程度に変化させる]


 なるほど、これはかなり強そう。

 今までは戦闘終了後に使うのがメインだったけれど、これなら戦闘中にでも使えるのじゃないかな?

 ……アレ? むしろやっとマトモに戦闘スキルになった?

 う、うん……


 無敵をガンガン子分や親分に重ねがけ。

 なんか、催眠術使っているみたいだね。

 その催眠術の心境変化は余所から見てれば面白い、みたいな……

 すっかりみんな身体は治したのに反撃狙いのギラギラした目つきとかないものね。

 もはやリラックスしているほどだ。

 親分は目覚めないことを良いことにめちゃくちゃ重ねがけした。

 あんまり意味ないけどね。


 気絶から目覚める間にニンゲン側の事情の話を聞いた。

 魔物保護法にそれを守らずレベル上げのために狩り殺す無法者。

 それらを守り正式な依頼としてこなす冒険者。

 冒険者たちに仕事を斡旋する冒険者ギルド。

 ついでに2つ名魔物の話も聞けた。

 環境保護が結果的に人を守る事になるのは形を変えてこの世界でも同じなわけだ。

 もっと殺し殺される関係かと思っていたからありがたい。

 やはりうまくいくかもしれない。

 彼らに相談すると驚いていたが、まずは確認することはしないと。




 そして数十分たってやっと親分さんが目を覚ました。


「あれ……? 俺様は確かさっき……負けたのか」


 あの血走った目が澄んだ目になっててちょっと笑うかと思った。

 あの時何が起こってミニオークの親分が倒れたのかわからなかったはずだ。

 ミニオークもつかまっている状況で察したのだろう。

 鼓膜と三半規管の方はさっきのヒーリングで治っているようで良かった。


「そうだ。私達にお前たちは負けた。だから素直に質問に答えてもらうぞ」


 プチオーガが語調を強めに問い詰める。


「まだ戦う気はあるか」

「いや、ねぇよ。さっきまではぶっ殺してやるという気持ちでいっぱいだったが、今は嘘のようにスッキリしている」

「そうか」


 凄いな……という小声の呟きが聴こえた。

 無敵がちゃんと効いてる事に驚いたんだろう。


「それじゃあ、次だ。お前たちは殺人や強盗はどのくらいしている?」

「いやいや殺人なんて! たいていの奴はちょっとばかし脅かせば直ぐに金置いて逃げていくからよ! 普段やるのもそんくらいだぜ、なあみんな!?」

「本当か?」


 そうですそうです、と子分たちが肯定する。

 アマネは恐いほどにそれらの目を見つめていた。

 殺気というやつをビリビリ感じるなぁ。


 その間に私も心肺運動や発する臭いを確かめる。

 確かに全員正常とは言い難いがそれは恐怖によるものだ。

 騙そうとしたり嘘をついている時の気配はない。

 それはプチオーガも同じ結論に達したらしい。


「コイツラの目は嘘をついている様子は無いね。チンピラだったみたいだよ」

『こちらも、同意見だな』


 なるほど道理で練度不足なわけだ。

 ブラッドアッシュと呼んでいた剣も観察してみたところ普通の剣だった。

 とにかく虚勢をはれそうな見た目危険な剣を選んでいたわけだ。

 確かに親分のミニオークはレベルに任せた力押しは得意だったが、それだけ。


「それでだな、お前らの処遇なんだが……」


 ここでプチオーガは声を区切る。

 生唾を飲む音が聴こえた。

 役者だ。

 まあ、一番傷つけられたのは彼女だから役だけではないと思うけれど。


「"衛兵"に突き出そうかと」


 衛兵を強調してきている。

 めっちゃ強調している。


「思ったが、今なら寛大な対処を考えてやる。これから心を入れかえとある仕事をこなして奪った金品の値段と慰謝料分返すのなら、赦してやる」


 うわぁ、意趣返しだ。

 そこまでやれとは言っていない。

 プチオーガが悪人の顔になっている。


「そりゃあ、俺様たちより強い姐さんたちの命令なら、是非にもというやつですぜ。でも何をすれば良いんで?」


 無敵が効いているのもあるだろうけれど、完全に生きている世界が強い者に従うルールなのか……

 弱肉強食だなぁ。

 もちろん断れば衛兵行きというのもあるだろう。

 魔物保護法違反してるだろうコイツラは長い間ムショから出してもらえないかもしれないしね。


「それはこの方から説明してもらう」

『私は、そこのホエハリを通して話をしている者だ。お前たちにやってもらいたい事は……』


 私は仕事の説明をしながら彼らの様子を観察する。

 にしてもやはりこうやってしているとなんだか……


 女の子だなぁって。


 筋力強化の魔法とかを使っていたのか骨格は変わらないが膨れ上がった筋肉は萎んでいる。

 垂れ下がったトサカもそいやー前世のバッドガールがこんな感じだったなあってなる。

 背丈は大きいものの筋肉かさ増しが無ければまとも。

 改めて冷静に見ると年も15か16かな。

 味方3人は20いかないくらいだけれど彼女に至っては中学生程度か。

 学校なんかもお金が無くていけなかったタイプなんだろう。


 子分たちも中学生男子グループといった年齢なのに全体的にしょぼい。

 防寒具は継ぎ接ぎと有り合わせ。

 成長期のはずの身体はやせ細っている。

 背丈は伸びていない。

 親は……期待出来ないんだろうなぁ。

 それでつるんでその日の食事代稼ぎに荒事をするようになったと。

 不良グループの出来上がりだ。


 まあファンタジー世界って10歳とかで勇者になったりするからあんまり見た目は参考にならなかったりするけれどね。

 ホエハリで10歳だと死に際のお年寄りだろうからニンゲンって長生きだ。


 モラルとかハラスメントとか語学はちゃんと教育されてこそ身につく。

 そうでなきゃヒャッハーに走ってでも何とかして今日を生き抜くのが限界か。

 ホエハリ族は群れが小規模でしっかりしているから管理出来ている。

 その恩恵に預かりまくっている事を再確認した。

 ありがたや〜。

TIPS

 押し切る剣:

 刃を予め潰す事で欠けにくく押し潰す事に特化させた剣だよ。

 力任せに斬るタイプが使うんだ。

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