四生目 始動 群れのために
更に二週間経過した。
私が意識を自覚してから三週間だ。
良く言えば順調で悪く言えば何もない期間。
と言うより最初の時があまりにも激動だっただけだ。
魚に絡まれる事も無く親に守られながらぬくぬくと育っております。
ただし魚はいつか絶対狩ってやるからな!
今はちょっと私が水辺を見ると急に身体が固まったりして近づけないだけだ!
レベルとやらの方は順調に上がっていて私は9になった。
サウンドウェーブは大小比較的自由に撃ち分けるようになったしライトは同時に2つの維持が比較的楽に出来るようになった。
そのおかげか光神術はレベル2。
レベル2になったさいに新しく術を習得できた。
[ウォーターリップル 水波を起こすができる 事前に水が必要]
[ダーク 光源があっても暗闇に包み込める]
どちらも文字通りと言った所。
ウォーターリップルは何故か気が向かないので試していないがダークは試してみたら昼間なのに辺りが真っ暗に。
ただ出力調整がわからなかったせいで辺り一面暗くしてしまい鼻や耳が良く利く同族たちによって犯人が見つかりめちゃくちゃ怒られた。
全く酷いことをするやつがいたものだ。
ついでにライトはダークに負ける事が検証の結果分かった。
レベルが上の魔法ならではと言った所か。
弱く出力したダークに強いライトを投げ入れても簡単に飲まれてしまう。
逆に言えば不自然な暗がりにライトを投げつければそれが天然か誰かの罠かが確認出来るという事だ。
レベルが上がったさいに得たスキルポイントで無敵から派生したスキルを手に入れた。
"峰打ち"である。
[峰打ち どのような強力な攻撃でも相手は必ず無事に生き残る。また使用時に威力が減衰する]
私がただ単に一匹で孤高に生きていくのなら一切必要の無いスキルだ。
ただ私はどう考えても群れに所属している。
当然群れというのはより生存率を上げるために個が寄り添っている。
ならば個全体が強力な群れはそれだけ強くなれる。
遊びより命を賭した戦いのほうがより効率よく鍛えるのは前言った通り。
つまり峰打ちを使って兄弟たちもシゴいてやろうと言う事だ。
確かに峰打ちは命は賭さないものの殆ど実践的に行える。
他のスキルと組み合わせても行えるため本気で戦えるわけだ。
威力はレベル1のためかかなーり減るが兄弟相手にはそのくらいの方が良い。
体感的には1/10くらいかな。
最近見つけた群れの大人たちは大きすぎて入れない壁の亀裂奥にそこそこ広い空間があったのを見つけたためそこでくたびれるまで"遊んで"いる。
と言っても峰打ちで戦ったら互いにボロボロにはなってしまうのでは? そう思うのは当然な疑問だ。
そこで峰打ちから派生した"光魔法"が活躍した。
神術やらではなく正真正銘魔法だ。
[光魔法 光が司る魔法を扱える。 レベルが上がることで使える魔法が増える]
こちらはイメージしやすい回復をメインとしたものを覚える。
[ヒーリング 対象の治癒能力を一時的に活性化させる]
[メディカル 対象の免疫能力を一時的に活性化させる]
ヒーリングは身体を治しメディカルは毒や病を治す。
もちろんどちらも本格的な外傷や劇毒には無意味だろうけれど……
それでも待望の力だ。
あの母がやってみせた舐めて怪我を治したのは今思えばヒーリングを行使していたのかもしれない。
なにせヒーリングは対象への直接接触が最も効率が良い。
簡単に言えば電気を直接流し込むのと間に空気を挟むのどちらが効率が良いかと言った所か。
ともかく私はこれで理想的な訓練環境を整えた。
後のはこんな感じである。
[光耐性 光系統のダメージを軽減しまた光系統の被回復能力等が向上する]
[幸楽 戦闘行動を起こしていない間徐々に行動力が回復する]
光耐性は光魔法から派生した。
自身が治りやすくなるのはありがたい。
幸楽は観察から派生。
今までスタミナが切れただの、からっけつになっただの言っていたがこの世界ではそれらを行動力と言うらしい。
魔術、スキル限らず防御や攻撃も行動力頼りになるらしいのは検証結果からわかった。
スタミナと違うのは走り続けて疲れるのは走るのをやめれば回復していくが行動力はスキルの行使をやめても回復しない。
回復体位をとったりそれこそ何かを食べて眠らなければ回復しない力だ。
攻撃や防御程度なら大した消費はしないが使い切ってしまうと逃げることしか出来なくなり非常に危険だ。
逆に言えば逃げる事ぐらいなら出来る。
この感覚を何度も攻防練習することで身体に今自身がどの程度行動力があるかを覚えさせる。
それがおそらく戦う上で最も大事な事……だが。
この幸楽は戦闘以外ならば行動力が徐々に回復する。
そう、逃げ隠れしていても行動力が治っていくのだ。
行動力が治り次第ヒーリングして体力が治り次第逆襲なんて手も取れる。
これはかなり使える自動型のスキルだ。
兄弟たちも"遊んで"いるうちに峰打ちを習得した。
スキル習得派生の関係上イも無敵を手に入れその後峰打ちを取ったのだろう。
ハは防御から派生した"回避"を取ったようだ。
説明文は私のスキルツリーで確認済みだ。
[回避 攻撃を的確に避ける]
確かに便利そうだけど良くわからない。
そもそも私の攻撃はポコジャカとハに当たるし。
あ、でも回避を取ってからイの直線的な動きを見切りだした感じはする。
その後向きを切り返したイにポコジャカ殴られてる気がするけど。
恐らく避けた後にどう動くかまだハの中で固まってない部分があるんだろう。
一方イはその部分は強い。
戦闘センスって言うの? 思考より脊髄で身体を動かしているって感じがする。
咄嗟の判断がとんでもなく速い。
その代わり咄嗟の判断がワンパターン化してめちゃくちゃハメやすい。
良し悪しと言った所だけれど動けないよりは良いだろう。
日常的な部分はいくつか進展があった。
何とイは兄でハは弟だということが母の言語を理解することで判明した。
まあ生まれた日すら同じなはずだからあまり気にする事はない。
ただイロハが順番通りだったのは何となく当たったって感じが嬉しい。
そしてその言語に関してなんだが、マスターした。
まるで教科書も先生も無しにさっさとマスターする天才! みたいに聴こえるかもしれない。
違うんだ、言語マスター速度はむしろハの方が早かった。
イもほぼ同時期。
そう、ロクに強い意思もまだないであろう乳児にもあっさりマスター出来るほど"言語"というのは簡単だった。
強く人との違いを実感させられる。
書き文字はないし言語のやり取りは凄くシンプルだ。
例えば。
「めし、なに? はは」
これが大人たちでも通用するホエハリ族の高度な言語だ。
ここに私が前世での言語能力による脳内補正や状況から察した様々な事を付け加えるとこうなる。
「お母さん、今日の晩御飯は何かな?」
言ってる事はまるで同じなんだが随分と文章になった。
この脳内補正をガンガンかけていかなければとても文化的な会話なんてムリだ。
いや、私一人納得するだけの脳内補正なので結局は文化的会話とやらはムリなのだ。
うーん、これは……
私の計画の一つ『サウンドウェーブで喋っちゃおう』を本腰入れる必要があるかもしれない。
少なくとも今のうちなら兄弟たちに私の言葉を学習させたり出来るかもしれない。
ちなみに人間たちがこの私の言葉と同じ言語なのかなんて分からないのであくまで身内用だ。
そしてスキル"観察"がついにレベル2に!
自力で鍛えようとしたら割りと時間がかかった。
地面にはえたコケから順に観察していったかいがやっと芽生えた。
ちなみにレベル2だが……
[ホエハリ レベル9]
そう、これは私である。
対象のおおよその目安であるレベルが測れるようになったのだ!
ちなみに母は……
[ホエハリ レベル32]
つ、つよい!
私が霞んで吹き飛び消える程度に強い!
必死に鍛えている私もこれには驚いた!
改めて私の強さの目標は母親越えとする!
はっきりとした大目標があるとやはりやる気が湧くしね。
そしてその日の晩。
寝ようとしていた私たちを珍しく母が起きるように言った。
「ほら、母さんが起きてって言ってるからちゃんと起きてって」
「んああ〜、眠いよ〜」
私の脳内補正はちゃんと効かせた状態です。
ハが眠たがってぼやーっとしているがイは珍しさに何となく緊張している。
私はまあその半々と言った所でハを叩き起こしている。
「さて、3兄弟よ。とても大事な話です。心して聞きなさい」
ふむ、やはり大事な話らしい。
ぶっちゃけ今日も"遊び"疲れて眠いから明日の朝にしてほしいものだけれど3週間たってわざわざこんな風に言ってくるのは初めてだ。
「大事な、話とは……?」
イがそわそわして話の先を促す。
せっかちさは多分イは生まれつきというやつだろう。
「あなた達は今日から乳離れをし私の元を離れるのです」
ええっ!?
「ふぁっ?」
ハがまぬけな声を出した。
半分寝てるが何か重要な事を言ったというのは理解したらしい。
「離れる……母さんの元を? でも私たちはどこへ行けば……?」
「ハートと呼ばれるペアの元に送ります。私の元からはジャックと呼ばれるペアがあなた達を引率し、ジャックはダイヤというペアにあなたたちを引き渡します」
うえっ!?いきなり専門用語がゾロゾロと出てきた!?
というか経由多いな!?
どこまで運ばれるんだ私達!?
左右を見るとイもハもポカーンとしている。
ハは眠たくて理解していないしイはいきなりの専門用語攻めで理解していない。
よかった、別に私は生きるの二周目のくせに乳児に負けてるわけではなかった。
その様子を見て母は小さく笑う。
「ふふっ、今はあまり理解出来なくとも仕方ありません。兎にも角にもダイヤのペアはあなた達をハートの元に送り届けます」
「え……!かあさまと離ればなれになっちゃうの!?いやだよ!?」
おお、ハの理解が追いついた。
それを聞いてイもハッとする。
「おれかあさんの側がいい!」
少し母が困ったような顔をした気がした。
けれどそれも一瞬で、そうなんだがとても慣れているかのように……
「何時でも戻ってきて良いから寝て起きる場所は向こうにしなさい」
そうキッチリ言い渡した。
一方私は結構混乱していた。
確かに群れっぽかったからいつかは親元を離れなきゃいけない気がしたけれど想定よりだいぶ早すぎるよ!?
人間なんて3年くらいはつきっきりでないといけない気がするのに……
とは思いつつも私は最近感じていた。
明らかに私達ぐんぐん成長しているなって。
レベル的な意味ではなく身体の大きさだ。
最初のころ無個性だった私達三兄弟はこの三週間で結構しっかり別々の存在になってきた。
見た目も、性格も。
人間でいう三年程度ならもはやたったも同然なのか。
ならば今から送られるハートのペアという所はいわゆる幼稚園?
うーむ、そう考えるとなんだか納得してきてしまった。
「あらあら、相変わらずお姉ちゃんはひとりで考えてひとりで納得まで出来てしまうのね」
ニコニコとそう言う母の声でハッとした。
確かに私は余所から見たら独断専行とか自己完結とかつまるところ協調性が無いように見えていたかもしれない。
もう少し周りとちゃんと話さないとな……
「いえ、言いたい事はふたりが言ってくれたので!」
「貴女は聡い子だけどもっと周りに相談してくれても良いのよ?ハートの所では、特にわからないことが増えるだろうから、ぜひ周りに頼ると良いのよ」
うーむ、世界が開けるのはありがたいけれどぶっちゃけまだまだ世界の外は怖い。
ハートのペアの所で優しくしてもらえると良いんだけどなぁ。
少なくともまだホエハリ族以外に出会ったら恐怖のあまり観察を発動しその情報にさらにパニクって意味のわからない言動をしながら逃げ回る自信がある。
「良いですか、3兄弟よ。ハートのペアの所で多くの事を学びなさい。あなた達の世界を広げ、将来は群れの役にたつのです」
将来、かあ。
私はその言葉に遠く想いを馳せた。
まだ想像すらおぼつかないけれど将来がやってくるには生き延びるしか無い。
そして恐らく生き延びるには群れの役に立つと証明し群れに置いてもらわなくてはならない。
孤独に外に出て狩られるか狩るかの危機に常に身を置くのはとてもではないが耐えられそうに無い。
その後もそれぞれの口からちょっとした話をしたが大した内容は無かった。
特に二匹は渋々母の言う事ならばという面もあったに違いない。
……そう考えると私ももっと駄々っ子アピールしておくべきだったかな。
何かあまりにもまっとうすぎる事言った気がする。
私という命をつくり育み救い目標にすらなりうる命の恩人と呼ぶにも言い表せない存在。
英雄。
そう彼女は私の英雄だ。
憧れであり見本でありそして辿りつけない相手だ。
前世での親はもはや覚えていない。
立派だったのかそれとも……
しかし私はこちらの親を覚えた。
私に出来ない事をやり遂げ多くの事を学ばせてもらった。
記憶もなくいきなり転生していてしかも獣で。
そんな私の不安を安心で包んでくれたのは紛れもなく彼女だ。
母は私のようなオブラートに包んで気味の悪い仔を平等に愛してくれた。
全力で敬意を払い敬う相手であって眠さ紛れに考えた事を言う相手ではなかった。
そんな失敗をしたと思った私と共にジャックと呼ばれる二匹に連れられ私達は母の元から離れた。
私はこの時はまだ無邪気にジャックの二匹を観察したりしていた(かあさんに似ていたが二匹ともレベル28もあった)
この後私に待ち受けている運命と戦う事になるのを一切知らないで。