三百八十八生目 主砲
本体中央に剥き出された黒い眼球にダカシが魂すらも飲み込まれすり潰されようとしている
その目が目覚めた悪魔の因子。
そう直感する程度には異質かつ邪悪と言えるオーラを放っていた。
さっき魔王復活秘密結社のメレンはすでに戻せないとは言っていた。
しかしここまで大規模な肉体変化が起こせるのならもし自己意識さえ戻って身体の支配権をとりもどしてやれば……
そう考えればあとは早い。
「ダカシ! 迷惑料きっちり払ってもらうよ!」
まあお金もあるっちゃああるがもろもろね。
返答の代わりに目が肉塊の裏に潜み触手が天井から様々な刃をつけて振ってきた!
牙に爪に剣に刀が光を不気味に輝かせ私を抉ろうと飛んでくる。
鎧が直撃さえよければ防いでくれて大した痛みはないが力は見た目以上はあるらしい。
鎧が不快な金属音を立てながら削れて行く。
もちろん反撃はして地面に刺さった触手をトゲで刺し固定していく。
"防御"でシールドをはって猛攻を防ぎつつ垣間見て肉柱に近づき爪を振るう。
グザリと穿ち鎧爪が刻んでいく。
そこまではよかった。
「早い!」
深く傷を与えた瞬間。
それこそ切った直後から肉が盛り上がりつなぎ合う。
再生が一瞬で攻撃が意味をなさない!
もはや向こうは避ける必要すらないということか。
生命力もまるで減っていない。
エネルギーが過剰に豊富でそのほんの上澄みで勝手に癒えているようにも見える。
『もしもし、ローズです!』
『どうしました!? そちらで爆発的に邪悪な魔力が増えましたが!』
『さっきなんとか撃退した相手、実はかくかくしかじか……』
"以心伝心"の念話を使ってゴウに状況を伝える。
その間も多量の刃は飛んでくるわ魔法で大木すらなぎ倒しそうな風。
さらに魔力のこもったそこら中凍てつかせながら滑ってくる笑い顔の氷が襲ってくる。
そもそも全体が氷なのにさらに凍てつかせるとは。
私が刃の多くはなんとか弾けても光のこもった風や氷は危険すぎる。
ふっ飛ばされるほどの勢いで殴られるのと変わらない風と鎧を地面と凍らせて身動きのとれなくなる氷。
どちらかが当たればもうどちらかが容赦なく襲い掛かってくる!
『……という感じです! これどうしたらおとなしくさせられますかね!?』
『まさか人だったとは……出来る限り保護したいとは想いますが、悪魔、ですか? もしかして黒い瞳が身体のどこかに現れていませんか?』
『ああ、あります!』
今は隠れているがすごく大きいのが確かにあった!
全方位から触手の刃が迫り"防御"で防ぎ続ける。
逃げ場がないほどに打ち込まれるからグラハリーじゃなければ避けれず防ぎきれず死んでしまうな……
『その黒い瞳が顕現している……つまりこの世に物理的に存在している悪魔のエネルギーの塊です。
記録では大きいほど災厄をもたらすそうですが……昔戦った普通の目程度のサイズの悪魔憑き魔物でも常識外に手強く、応援を呼んで数と罠で封殺しました。
どれほどの大きさかはわかりませんが、兎たちに先導してもらって急いで向かっています! なんとか耐えてください』
『え!? あ……は、はい』
聞いてはいけないことを聞いた。
さっき見た悪魔の目はシカウサギたちが作った大雪玉ぐらいあったんだけれど……
私(ウルトラアーマー状態)より大きいじゃないか。
まあ龍脈の力をガンガン取り込んでいたから納得のエネルギー量かもしれない。
『黒い瞳は悪魔の力の源ですから、なんとか破壊できれば倒せますが
凶悪な力を秘めています。攻撃に気をつけてください!』
『やってみます!』
あの悪魔の目さえ壊せればもしかしたらダカシに正気が戻るかもしれない。
前会った時も復讐という狂気にとりつかれてはいたが正気ではあったし話は出来た。
今とは比較にもならない。
「ダカシ! 目を覚ませ!」
刃と魔法のラッシュをしのぎつつ"ヒーリング"でなんとか生命力を高く維持する。
おや。反応があったのかどうかはわからないが天井の肉塊が開いて黒い瞳が顕になった。
今がチャンス――
瞳が煌めいた。
力強くこちらを見た悪魔の目はその目全体からまさしく光の速度で光線を放つ。
ギュイン! という空気を焼き発射される音と同時に私の全身に痛みが走った。
「ギャアウアッ!」
氷を裂き私を吹き飛ばし壁に穴を開けその奥へ叩きつけられやっと止まる。
うぐぐ……発射そのものは1瞬でたどり着くのも1瞬。
そしてこのありあまる威力……
周囲が氷の上なのに黒い不気味な炎がおどっている。
私も燃えているのでもみ消す。
生命力が1撃で1/3も減った。
普段ならありうるがウルトラアーマー状態のグラハリーでこのダメージはありえないほどの大ダメージ。
全身がめちゃくちゃ痛い。
しかもこの感じ魂にも痛みを与えてきたな?
あってよかった"魂の守り"。
今の私は重量戦車よりも頑丈という自負があるのに一部へしゃげている。
"ヒーリング"で癒やして次に備えた。
気をつけて。とはこのことだったか。