三百八十七生目 悪魔
「なあに……ワタシは戦うとは、言っておらん! 戦いはこの通り苦手でな……剣もろくすっぽ握れんよ」
「なら! おとなしく捕まって!」
イヤイヤと手でやっているがふざけている場合ではない。
ダカシをいじくった相手ならば治すこともできるかもしれない。
それにダカシだけじゃなくて多くの誰彼を無差別にこうしてしまったら……世はパニックになる。
コイツはそんな事を眉1つ動かさず出来ると直感した。
ノコノコ現れてきたのが運のつきだ!
駆け出して飛びかかる!
「捕まるのも……困るの」
ガアゥン!!
そんな音が響いて空中で何かと衝突する!
なんとか着地したが弾かれた!?
おかしい。"観察"した時の戦力差では相手が圧倒的に弱かった。
戦闘がど素人というのは身動きからもわかる。
へんな空飛ぶ魔動立ち乗り2輪車で空を飛んでいるぐらいで私の動きにも反応できなかった……まさか!
「ククク……どうやら気づいたようで……やはり良い逸材よ。そう……今のはこのワタシの発明品……スーパーハイパーウルトラダイナミックフライハイマシーンだい!!」
「……なんて?」
「スーパーハイパーウルトラ――」
「あ、大丈夫です」
開発者というのは名前付にクセがあるなあ……
ともかくあの空飛ぶ立ち乗り2輪車が乗っている本人より遥かに強いのはわかった。
「なんだ、ノリが悪いの。まあいいわい。この実験体にはまだ用がある。もう戻せぬし、最後まで暴れて……お前さんと競って……データを集めさせてくれ」
再び突撃するがやはり空中に見えない結界で防がれる。
厄介な!
その間にもダカシの元へ飛んで行き何やらダカシにしている。
火魔法! グッ。防がれた!
「戻せないだって! 更に何をする気だ! やめろ!」
「まあ最初から戻すためには……作ってないしの。簡単に戻せたら……ほれ、つまらぬではないか。ほーれ、ほれほれ」
「グアッ!? フクシュウ……ツヨク……ガアアアアアアアアアッ!!」
ダカシが苦しみだした。
なんとか心だけでも正気に戻せないかと思っていたところにこの仕打ちだ。
一通り魔法をぶち込む前に魔王復活秘密結社のメレンはダカシの背後へ回り込んでゆく。
「おお、こわいこわい……まあ落ち着いて。ワタシは……生き物には設計図が組み込まれている……そう最近確信したのですよ」
「ゴアアアアッ!!」
苦しみの声色が変わっていく。
どうする!?
って一気に周囲から龍脈のエネルギーが!
あぶなっ! 今の私でもエネルギーの塊である龍脈の流れにあんまり流されるのは危険な気がする。
試す気はない。
設計図……おそらくDNAのことだろうが彼なりにその要素を見つけたということか。
あの魔法機械といい分野を限れば頭が良いのは本当か。
あまりに厄介だ。
「トランスのさいに……人間は別の因子を取り込んで……徐々になじませ大きく変わっていく……まあ詳しいことはおいといて……そこに目をつけたのですよ」
「アアアハアアアア!! コロロロロロス!!」
雪玉が崩れてゆき代わりにボコボコと気味が悪く肉が膨れていく。
講釈を私が聞いているかいないかはどうでも良いらしく返事もないのに語っていた。
どうしたら収まるかだけ教えてくれ。
「彼の負の感情のリミッターを壊しそれを……力として成長するタイプの……そう、とある悪魔の因子を……取り入れた。面白い実験結果が……得られたから、今度は……制御無しで、融合させてみた!」
もはや声すら聞こえなくなった。
頭の部分すら膨れ上がる肉に飲まれたからだ。
私も飲まれる前に離れないと!
「さあ! 面白い実験を……見せてくれ!」
それだけ言い残してメレンはワープして消えやがった!
どこかで見ているのだろうが……ダカシをどうにかしなくては!
キツイ連戦で泣き言を言いたいところだがダカシはその比じゃないだろう。
彼にはまだ謝ってもらっていない。
"見通す眼"で間違えて読心してしまったら危険な程に彼の心はどす暗く闇に染まっていることだろう。
スキルを使おうとしてその直感が働きやめた。
肉が伸びて巨大化し氷の壁や天井にぶつかってやっと増殖が止まった。
部屋を埋め尽くし天井に空いた穴も塞いで暗闇になる。
光神術"ライト"で白い光源を発生させた。
「――ひっ」
息を飲む。
それは生き物と呼ぶにはおぞましすぎた。
1言で言えば気味が悪い。
全身をぬめりけとブツブツと雑に毛が生えて上皮だけ剝いて肉が剥き出しているような。
6つある肉塊の柱が部屋の隅に埋まるように立ち天井の身体を支えている。
そしてその身体からは無数の触手から爪や牙そしてショートソードと復讐刀が生えていた。
中央の大きな膨らみがひん剥かれ中から大きな眼球が1つ出てきた。
黒い。ただ黒いだけじゃない。光とこちらの正気すらも飲み込もうとするほどに黒い眼球。
"影の瞼"が自動発動して防ぐ。
虹彩が縦に細長くなって唯一光を跳ね返す。
あれが『悪魔』か。