三百八十六生目 犯人
ダカシはクレバスの下へと落ちた。
当然アレで死ぬわけではないだろう。
だが大ダメージは負ったはずだ。
「この下に行く安全なルートはありますか?」
「いやー、さすがにアレだけやれば死んだんじゃあ……ってかローズ、だいぶゴツくなったな」
「また知らない姿になっていますね……」
ダンやゴウが笑ったり呆れ顔だったり。
死ぬのは困る。
殺したいわけではない。
「まあこれは、さっきなれるようになったんだよ」
「軽く言いますね……」
「ええと、下への道ですか!? まあ、道のりはあるやもしれませぬ!」
まだ少し遠くにいるシカウサギたちが返事してくれた。
というか大半は疲れて倒れこみシカウサギの王だけがなんとかと言った調子だが。
1番ツノが立派だった者だ。
「ただ正直、道のりが長いと言いますか……それに今の衝撃で道がどうなってしまったか」
「あー、なら大丈夫。直接降りて行きます」
シカウサギの話のとおりならばダメだ。
今ここで追撃が出来なければより悪化する。
その直感がある。
というわけで飛び降り!
「あ、おい!?」
「ええ!? この高さを!?」
「大丈夫ー! 魔法あるからー!」
ダンやシカウサギの困惑に答えつつ唱える。
光魔法"フォールイース"!
着地時に衝撃を防いでくれる魔法だ。
コツがわからないと1度程度しか防いでくれないが今の私なら5回はなんとかなる。
実はふっ飛ばされての着地にも効果があるから優秀だ。
さすがに落下は速くダカシのもとへつく。
光の届かない奥底。
今は大穴開けたから私ぐらいの目でも光を拾えてしっかり見えるから問題はない。
多分一般的なニンゲンだと何も見えないだろう。
ホイ着地!
ドンともガンとも言わずスッと降りた。
そのかわり周りに光がふんわり広がる。
思ったより広めの広場のような空間になっていた。
天井の一部にクレバスの大穴が見える。
はたしてダカシは……いた。
雪玉の上側で身体のほとんどが雪玉の中に埋まってしまいうなりながら身じろいでいる。
いや……それだけじゃないか。
ところどころに血があるし足の見える位置がちょっとおかしい。
……深く考えるのはよそう。
身体の再生中でうまく動けないなら敵愾心を削るチャンスだ。
見える部分だけならば元気だから問題はないだろう。
まずは聖魔法で精神的な異常を少しずつ抑え……
なっ!? ダカシじゃない誰かの魔法の気配!
思わず下がると目の前に転移系の魔法でワープしてきた何者かが現れた。
このタイミングでここに現れるってだけでも問題なのにわざわざ暗い色で全身を覆う特殊なコートを着込む存在。
「魔王復活の、秘密結社!」
「おお……ワタシたちの事を……これだけで導き出すとは、良い逸材よ……!」
しわがれた声で1言ひとこと噛みしめるように話すのは目の前の老人。
何か魔法的な仕組みがある装置に乗って中に浮いている。
すごい電動立ち乗り2輪車みたいだ。
奇妙な左右の目の大きさが違う仮面をかぶっているがにおいや気配で老人とわかる。
あのコートを着ているということは直接の"観察"は通らないから空魔法"ストレージ"からおみとおしメガネを取り出して……
「おお!? ……その魔力反応! 上手いね……! む? 防がれたか」
"影の瞼"が発動した!
自動で相手からの精神攻撃とか"観察"みたいなことを防ぐスキルが発動したということは。
相手も"観察"のような事が出来ると考えたほうが良いか。
代わりにこっちが"観察"!
「おや、その眼鏡のようなもの……少し変わって……おお!? いきなり覗き見とは……ひどいではないか! くすぐったい!」
お前がそれを言うか!
というか何らかのスキルか方法で"観察"を探知されたか。
"見通す眼"で仮面の裏も見てみたがおじいさんともおばあさんとも言い難い顔なだけでこれといって特徴はない。
[サイコヒュムLv.35 異常化攻撃:やけど 比較:かなり弱い]
[サイコヒュム 個体名:メレン
知能がとても高い人のトランス先。超能力が操れるほどに脳が発達していて頭脳の良さは竜に負けずとも劣らない]
「メレン、かな。もしかしてダカシをこんな風にしたのは、あなたかな?」
「おお! 名前まで! 恥ずかしいのう! ……そしてまあ……そこは隠す程のことでもない。名前はしらんが、そやつだな?
良い逸材だと、思ったのだがのう……これほど脆いとは……まあ良い実験結果は……得られたから、良しとしよう……」
恥ずかしげに手を顔の前で振ったと思いきや。
底冷えするような声でただ淡々と犯行を認めた。
彼の仮面にはダカシもそして私も命としてはまるで映っていなかった。
まあこんなに狂っているだけでもわかるが無理矢理とかまともな説明せずに詐欺同然とかで実験したのだろう。
モルモットをかってきて実験するにしてもモルモットに実験を語り聞かせるわけがないしね。
「じゃあ、おとなしく捕まってくれ!」
怖気がする。
コイツは出来る限り掴まえる!
身構えて……