三百八十五生目 雪玉
「ダカシー!」
「グルアアアッ!!」
全くもって意味がないと思っていた呼びかけに意味が出始めた。
私が名前を言えば返すことだけはするようになっている。
狂気に満ちて血走った目がたまに理性がちらつく。
理性は私の剣ゼロエネミーがダカシを傷つけ敵愾心を減らすたびに見える回数が増えてきていた。
まだ深いところまで狂気があるがブレだしている。
「バアアアッ!! ……アグッ!?」
「うん? そこだ!」
なぜか急に頭を抱えてうめいたので剣ゼロエネミーを鞭状にして振るう。
空魔法"フィクゼイション"で空間ごとゼロエネミーを持って念力のように扱っている。
金属刃の部分が鞭状にしなりながら斬り裂く!
さらに返してもう1撃!
顔にバッテンをえがき弾き飛ばした。
ズザァと滑りながら受け身を取りこちらを向き直す。
『今だ!』
『応ッ!!』
"以心伝心"で潜んでいたダンとゴウに念話を送る。
ダカシがこちらに戻ってきそうだったが火魔法で牽制する。
[ウォールフレイム 炎の壁を作り出して対象を追い込む]
ダカシの目の前に発生させて無理矢理下がらせる。
この壁は見た目以上に厄介で結界としての力もあり物理的に侵入を阻むし作り出した当人ならば入ったり出たりが自由。
ダカシもそれを察してか氷魔法の準備に入ったらしい。
しかしまだこちらは終わっていない。
「崩れろ!!」
「ここ!」
ダンがダカシの裏の氷の山陰から飛び出して氷の床に拳を組んで叩きつける。
同時に氷の山の上にいたゴウが矢を炎の壁付近に打ち込む。
両方共光と共に爆発が起こった!
「バウッ!? う、ウラミ……!! フクシュウ!!」
わけのわからないことを口走りながらダカシは崩れる足場のせいで激しい振動とともに転ぶ。
周囲一帯が連鎖的に爆発していた。
もちろん爆薬を仕込んであったわけだ。
シカウサギたちから聞いていたこの付近ではあまり少ない薄い氷の足場。
それが今ダカシが立っていた場所だった。
下は深い谷。つまりはクレバス!
広い範囲割られたダカシはなすすべなく落ちる。
また大きくなろうにも落ちる一瞬では間に合わない。
なんとかクレバスの壁に爪をつきたて停止するが頭上からたくさんの後から割れ落ちた氷の破片が落ちてきてダカシの復帰をさまたげる。
"鷹目"で見ているがやはりというかなんというかその絶望的状況でもクレバスに爪を立てて無理矢理……
な!? 背中が盛り上がってゆき変化する!?
まさかまだ形態が変わるのか!?
そういえばこの姿になっているのも"観察"によると異質な力を取り入れたのが原因……
そして暴走しているとされていた。
つまり肉体自体が不安定なのか?
つまりまだダカシは完全な変化を遂げていないのか。
「ウオオオオオッ!!」
ダカシに龍脈の力が集まっていく。
地下にやることでむしろ龍脈のエネルギーを得やすくなってしまったか。
光を纏い背中の盛り上がりが裂けて腕のようなものが伸びる。
片側の先に手の代わりについているものはショートソード。
もう片側は太い赤黒い刀……復讐刀。
どちらも知っている。
ダカシの本来持っていた武器だ。
もしや身体の内にもともと持っていた武器すら取り込んでいたのか。
生物としてどうなんだそれは。
生まれたての腕はその刃が先にあるせいでまるでカマキリの腕にも見えた。
氷の壁に突き刺す。
あー! こういう時にここが大地だったらなあ!
私の魔法の土と地は地面があるという前提のものが多くて無い場合弱体化する。
"Eランス"も地面から土槍を生やす魔法であって氷は未対応!
いじっても私の限界で氷から生やすことはできない。
それに加えて土の加護だ。
大地がないと土の加護は効力を失う。
元以上に力を発揮出来るのはその種族特性のおかげだったから今じわじわとしんどさを味わっている。
……来るか。
ガンガンと音を立てながら不気味にダカシが登ってくる。
だけど! まだ手はある!
「よろしくー!!」
「ぬおおお!! 我らの力……!!」
せり上がり転がる音が氷山の上から響く。
多数のシカウサギたちが集って光を輝かせながら押し込んでいるものは雪玉。
それもちょっとやそっとではなく今のダカシよりはるかに大きな雪玉。
それにシカウサギたちの力が限界まで注がれていく。
あとはシカウサギたちがひと押しすれば……
落ちるように転がる。
「今ここに……集う!! 全力……前進!!」
「「おおおおおおー!!」」
シカウサギたちの叫びと共に雪玉が押される!
シカウサギたち渾身のエネルギーがこもった雪玉は恐ろしく加速しながら氷山を下る。
あれはああいうスキルだ。
ただの遊びの雪玉ではなくれっきとした攻撃。
その衝撃は何トンになるのか計り知れない。
計算されつくした軌道をとりジャンプ台かのようにせりだした氷の上を滑る。
大きくジャンプしてそのまま吸い込まれるようにダカシのいる穴へ。
「グッ!? グガアアアアアーー……!!」
巨大雪玉の落下に巻き込まれながらダカシは落下していった。