三十六生目 悪党
血の描写があるので苦手な方は深呼吸してからお願いします
その声は明らかに不機嫌だった。
そしてふてぶてしく洞穴の中に入ると看板を読もうとしているようだ。
「大量に金目の物があるって聞いたんだが、何だぁ? カンバン? 報告には無かったなぁ」
デカイ独り言のように看板に向かって話している。
不穏な気配に3人も私を弄るのを止め武装を整える。
そいつは頭は半分だけ刈り上げもう片方をトサカのように仕上げている黒い髪型。
何かの獣の革を服にしたもので身を包んでいるがどこから見ても格好が荒々しい。
「そう、禁止行為だからよく目を通しておくんだ。文字が読めなくても、絵ならだいたいわかるだろ?」
「やはり先に誰かいたか……物々交換、盗むの禁止、ねぇ……だが関係ねぇ! 全部俺様がいただく!」
そうわかりやすい言葉を吐いて看板を蹴り倒した。
ああ! せっかく作ってもらったやつが!
これにはさすがに3人が臨戦モードに入る。
「ちょっと! どういうつもりだ!」
「俺様に命令するヤツは気に喰わないってだけだよ! 俺様が欲しいと思った物は全て俺様の物! 俺様がルールだ!」
明らかに盗賊系統の発言しているぞありゃ。
何度か看板を踏みつけたところで明らかに怒っている様子のプチオーガが駆け出した。
ありゃ確かに言葉で言っても聴かないタイプだろうなぁ。
[ミニオークLv.16 状態:通常 異常化攻撃:スリップダメージ]
[ミニオーク 固体名:ガラハ
ヒューマンからのトランス。オークへの道を一歩踏み出した者。力への成長補正がある]
エルフの親戚であるオークか。
ちょっとレベルが高いから危ないかな。
「コラ! 無法者め! そういうことをするなって言ってるんだ!」
アマネが間近で食って掛かるようにして声を荒げている。
他の2人も歩いてアマネの後ろへと近づく。
……む、これはマズイかも。
「へぇ、それは俺様に関係あるのか?」
『アマネ、後ろへ跳んで!』
私のサウンドウェーブでの声でアマネが咄嗟に後ろへ跳ぶ。
するとその場に矢が飛んできた。
レーダーが捉えていたとはいえ死角からの攻撃だ!
追加数は4。
最初から強盗する気だったか!
「今のは!?」
エリが驚いた様子で慌てている。
アマネは抜刀しソーヤは内心怖がっているようで心音が荒れている。
ゲスじみた笑い声を出しながら背後からニンゲンたちがゾロゾロと4人現れた。
観察してみた所レベルは10ないぐらいと言った感じでいかにも子分だ。
「今のは俺様からの優しい忠告だ。全ての金目の物を差し出せ。今なら寛大な対処を考えてもやらん」
「な!? ふざけるな!?」
背後からそうだそうだとかガラハ様に無礼だぞとかガヤがとんでくる。
コイツら明らかにヒャッハー系だ。
奪って殺して暮らしているタイプの輩だ。
手に持った獲物は弓が2人、剣が2人か。
全員思いおもいの寒冷地服だが共通しているのはみな赤とか黒を後からペイントしてあって荒々しい。
親分に比べるとみんな小柄だが、そもそもその親分がここの誰より大柄で筋肉の塊に見える。
そして一番強いガラハは。
「だがもし、誠意を見せないというのであれば、この俺様のブラッドアッシュの餌食になってもらおうか。俺様のレベルの犠牲になるがいい」
「最近この辺りの魔物をギルド通さず違法に殺しまわっているのは、お前たちだったのか!」
ブラッドアッシュと言う名らしい剣が抜かれる。
寒々しい青色をした刀身は広く曲線を描いている。
海賊とか山賊なんかが持つ曲がった長剣だったっけ。
その存在感にミニオークの巨躯が負けていないあたり様になっている。
ギルドを通さずに殺すとかのあたりはよくわからないが、何かニンゲンの中でも法律とかの決まりがあるのかな。
そしてここ最近はその違法者の情報が出ていたと。
それがコイツらだったとしたら、身ぐるみ置いていった所ではいそうですかと見逃してもらえるとは思えないな……
しかしここまで劣勢だと未だレベルが14にしか上がってない彼らは不利だ。
それにもかわらず彼らは身構える。
切り抜けなければ死ぬかもしれないからだ。
「観察たけれど、背後のはそんなに強くない」
「親玉ぽい奴は後で、まずは背後の奴を片付けよう」
そう小声でレッサーエルフとプラスヒューマンが相談しているのが聴こえた。
3人には聴こえるが相手には聴こえない程度の音量だと思う。
その証拠に彼らのニヤニヤした態度はそのままだ。
そしてプチオーガが前へ出て大剣を構えた。
「誰がお前らなんかに殺されるか!!」
その声にビキィと音がなりそうなほど彼らの表情が歪む。
「構わねえ! やっちまえお前ら!」
オォー! という咆哮と共に戦いが始まる。
うわ、私どうすれば良いんだろう。
間違いなくあの場にいっても連携が取れていない私が足を引っ張る。
私が躊躇している間にも激しい戦闘音が鳴り響く。
獣同士と違って道具と道具のぶつかり合いは音が激しい。
弓を避けてレッサーエルフとプラスヒューマンの2人が背後の子分たちに向かう。
手には拳銃とナイフ。
拳銃!? リボルバー!?
そんなものがある世界なのか!
それにあのナイフ!
私が作ったやつじゃないか!
プチオーガは両手剣をミニオークの長剣に三度ぶつけ切り結ぶ。
激しいぶつかり合いはミニオーク優勢に見えるがプチオーガは防御のみに意思を傾けているみたいだ。
そのおかげでレベル差を意識させずたちむかっている。
弓の2人の間に剣2人が割り込むがプラスヒューマンが腰から何かを取り出し地面に叩きつける。
煙がブワッと上がった。
煙幕だ。
「ゲボッ! ちょこまかと!」
子分の誰かがそう叫んでいる間に2人は弓の2人に接近して射撃と斬撃。
人に射撃して死なないかと思ったが肩当てに当たると弾けた。
魔力が弾の形をした魔法のようなものだったらしい。
私の魔感がそう捉えた。
そして反動で子分は弓を落とす。
ナイフは弓を斬りつけたたっ斬った。
脆かったのかな?
接近戦に持ち込まれた時点で弓は役に立たない。
素直に2人とも捨てて代わりに腰の小剣を持ち出した。
そして激しい戦闘が繰り広げられる。
あっというまに乱戦模様だ。
子分たちは練度不足か乱戦で数の理が活かせていない。
プチオーガは親分を抑えているしプラスヒューマンの切り込みが光りレッサーエルフのスキを見つけた一撃が一人ひとりの胸に跳んでゆく。
貫通力はないが衝撃はあるらしくて喰らった子分たちは胸当てを抑えて苦しんでいる。
ナイフも奇妙な武技で部下たちの剣を絡めて防ぐ。
スキがあれば弾丸が跳んでくるため数分のうちに部下たちは痛みに沈んでいった。
「ほう! 俺様の剣をまだ喰らっても立つか!」
「この程度、なんてことはない!」
プチオーガはなんとか親分の攻撃を抑えているがしんどそうだ。
レベル差もあるがこのミニオーク、純粋に戦い慣れている。
プチオーガが守りを固める武技などを使っているらしくたびたび光を纏ったりしていた。
そしてそのたびにミニオークの剣が光を帯びてプチオーガの光ごとたたっ斬っている。
光が砕けるたびにプチオーガは苦しげにうめく。
見た感じ、相手の防御系を無理矢理ぶち壊す武技っぽい。
重い金属音が鳴り響く洞窟内。
確実に劣勢なプチオーガが徐々に後退していることを表していた。
「だったらコイツはどうだ!?」
親分の剣が先程とは違って赤く輝く。
ジワジワと傷つけられていたプチオーガに更に一閃。
勢いをこらしつつ後退するプチオーガ。
「なんの! ……なに!?」
プチオーガの鎧の下から血がしたたった。
[プチオーガ 状態:スリップダメージ 異常化攻撃:なし]
あれはマズそうだ。
親玉の背後から銃弾が二発。
なんの事もないかのようにそれらを剣で防いで見せた。
ただのチンピラっぽいのに強い!
「アマネ! こっちは終わった!」
「なんだとテメェら! 負けるんじゃねえ!」
「アマネ下がって、ここからは僕たちが!」
「ぐっ、すまない、血が……」
確かにあのスリップダメージという異常は厄介そうだ。
比較的他の部位の傷はこの世界の動物らしく血は直ぐに滲む程度に止まっている。
けれど先ほどの攻撃からは明らかに血がドンドンと出ていた。
出血を促す武技なのだろう。
プチオーガの生命力ゲージも1/3を切ってなお減り続けている。
『いや、3人とも下がれ。アマネを今すぐ治療しなくては命に関わるぞ』
「っ! わかりました、アマネこっちへ!」
レッサーエルフがヒーリングをしつつ肩を担いで運んでいる。
プラスヒューマンのナイフが長剣をさばきつつ時間を稼いでいるがリーチが違う。
かなりヒヤヒヤするやりとりだ。
なので、私が前にでる。
フレイムボールが真っ直ぐ親分の頭へ飛んで行くが後退して避けられた。
そこに私が割り込む。
予定通りだ。
「なんだぁ? 魔物、しかも小さいヤツじゃあねぇか。さっきから別の奴の声が聴こえていたが魔獣使いか? 誰だっていいぜ、俺様を楽しませてくれるならな!」
親玉がセリフをはいている間にプラスヒューマンにも下がってもらった。
そしてとあることも伝える。
さて、味方は下がったし相手はこの親分だけ。
あとは地面で伸びている。
だから、私の思い通りに動きやすいはず。
アレが効けば一撃だ!
TIPS
認字率:
この国では文字は中の中の経済余裕がある家庭から学ばせれると言われているよ。
逆に言えば、半分程度の人は文字が読めないんだ。
文字を読める事で教養が身についているとして選別につかう所もあるらしいよ。