三百七十五生目 流氷
わいわいと騒ぎながらもアノニマルースで1泊。
改めて詳細情報を整理することとなった。
「各地を凍結させまくっている黒い獣が見つかったんですよね」
「ええ。迷宮だけではなく外界も一部凍えさせながら移動していたので足取りがつかめました。ただ通り過ぎるのを見た人たちの話によると、あまりに速すぎるのと、規格外に大きいせいで詳細はわからなかったそうですが……
向かう場所は流氷の迷宮と呼ばれるところで、この国の最北端付近にあります。自身の走る道を凍らせながら入っていったのを遠くから見た証言が複数ありました」
「そう、そこなんだよな、よくわからんの!」
ゴウが資料を見ながら言ったことにダンが腕を組んで言う。
今何か変な事あっただろうか?
「何か気になることが?」
「ああ。だってよ、クソバカデカェって話なのに、なんでその穴より小さい迷宮に入れるんだ?」
「あぁ……それなのですが、入る直前身体が小さくなった、とのことです」
「伸縮自在かよ! そりゃあまいったな。後もうひとつ。なぜあちこちの迷宮に入って荒らす?」
言われればそれもそうか。
今までの迷宮への出入り口は壊されている形跡はなかったからなあ。
それと動機も確かにわからない。
「資料には……特には載っていないですね。不明、ということです」
「それを調べるのも、私達の仕事になるということですか」
「そうだな!! よし、気合入れて挑むか!!」
他にももろもろ打ち合わせや実際の戦闘時の動きなども話し合いその後に眠る。
翌日には元気いっぱいでまた外界へ戻ってカルクックたちで走った。
それらを何日も繰り返して……
どこの街すらよらずに直線的に来たため予定の半分ちょっとで流氷の迷宮付近までこれた。
北だからかすでに雪が降っている。
これより北は海そして国境らしい。
近くに小さいながら町もある。
ものみやぐらから黒い獣が走り抜けて入っていった様子も聞けた。
「ああ〜、あんりゃびっくりしたぁー。いきなり騒音と共に黒い獣と周りを凍らせながら走ってたでなぁ」
「流氷の迷宮の方へですか?」
「ああ、間違いない。氷はさすがにちょっとは溶けているんが、まだ残ってるで、調べりゃすぐ分かんじゃなーかな」
「ありがとうございます」
流氷の迷宮の位置も聞いて近くへ向かうと確かにあちらこちらに溶けかけている氷が見当たる。
針葉樹林の上に雪が積もるのは普通だが足場や木の根の方に氷がはっているのは普通ではない。
カルクックたちの足が滑ったり凍えて凍傷にならないように魔法付加されている靴を履かす。
言われた通りに何段かある地形を道通りに登っていく。
教わった通りにいかないと森の中という視界不良もあるが登ろうにも崖に突き当たってカルクックでは登れない。
坂になっているのは一部の場所のみだ。
そして1番上につき奥へいけばそこには確かに崖に坂道が。
当然崖に寄らないと見えないからかなりわかりづらい。
意図的に隠しているのだろう。
偶然迷い込む危険性もさることながら不法者どもが荒らすのも恐れているのだ。
しかも流氷の迷宮入り口はこの長く崖に沿って作られた坂道を降りた先。
崖の中腹にあいている。
そこに行くこと自体の困難さも隠す必要以上にこのような不便な作りになっている原因だ。
隠していると感じるのはただ便利に道のりにするだけなら下から道を作ればいいものね。
「ここからは歩きで行きましょう」
「中は氷だらけで、カルクックで歩かせるにゃ向いてないらしいな」
「じゃあアノニマルースに届けますね」
アノニマルースのメンバーに連絡してから空魔法"ファストトラベル"でワープさせた。
私たちは引き続き徒歩で坂道を下った。
「よいしょっと。やっぱり"進化"は疲れるなあ」
カルクックから降りたことで"進化"してホリハリーになっておく必要が無くなった。
解除して元のケンハリマに戻る。
やはり4足歩行がしっくりくるね。
「ガハハ!! 一瞬でワープさせる魔法よりもそっちのが大変なのか!!」
「私たちはどちらも出来ないから、推測しか出来ませんが、一般的には姿変えよりワープの方が大変……とは聞きますね」
「まあ、時間が長いとね」
それに多分姿変えと"進化"は厳密には違うだろうしね。
坂道の終わりに全面が凍てつき中から冷気が漏れ出している洞穴が顔を出した。
ここの中にある階段を下っていった。
世界を越え小さな異世界に移動。
「ついた……!」
「うおお!! 寒いな!!」
広いひろい海は凍てつくほどに冷たく。
轟音を立てて流れていく氷は山のようで。
大きなスケールが全て冷たさで統一されていて絵になる美しさ。
入ってくる侵入者を凍らして。
ここで生きる者たちを守ってくれる。
ここが流氷の迷宮か!
「……ところで、これどうやって進めば?」
問題は次の1歩を踏み出すところが触るのも危険な冷たい海しか無いというところかな。