三百七十ニ生目 水車
カムラさんとの感覚リンクを切る。
いやあとんでもないものを見させてもらった……
あの宣教師の心境を少し変えてしまうとは。
娘を育てるアンデッドというのは宣教師ゼストにとって自身とかぶって見えていただろう。
宣教師ゼストは自国に娘を残しているらしいからなあ。
それに何日も旅して互いのひととなりはそこそこ理解している。
良い関係ではあったからこその秘密共有……のように宣教師ゼストに思わせたわけか。
カムラさんものすごいあくどいことしている気がする。
必要と考えたならば実行に移すあたりはさすがだし味方ならば頼りになるのだが。
とりあえず今日は眠ろう……
おはよーございます。
まるで昨日のことは何もなかったかのようにカムラさんと宣教師ゼストはほどほどに仲良く宿から出てきた。
……カムラさん自体はあまり宣教師に良いイメージはなかったはず。
昨日の『光教への偏見を変えたい』という言葉はただのハッタリではなかったのかもしれない。
どこかで歩み寄りそして譲り合えるのならそうしたかったのかもしれない。
その期待がのしかかる宣教師ゼストは骸骨たちを見た時に露骨にイヤな顔をしたり身構えたりはしなくなった。
その代わりよく良く見て何かを書き留めるようになった。
衝突をしないでこうやって互いに知ろうとすることは良いことだ。
分かり合えるのならばその方が良い。
朝食も終えてまだ行っていないところに出発時刻まで見に行くことに。
「おっすローズ!」
「おっと、イタ吉? おはよっ」
私はホリハリーにまた"進化"しているがイタ吉は知っているから普通に声をかけてきた。
少しびっくりしたが。
「分かっているよね、今は……」
「ああ、わかってるって、演技だろ演技」
分かっているのなら良いが……
宣教師ゼストが私と話しているイタ吉に気づいたらしい。
尾の先に大きな刃物を持つイタチの魔物で見た目は少しこわいが良い子ではあるのよ?
「これはこれはおはようございます、ローズさんと仲がよろしい魔物の方ですかな? ゼストと申します」
「あ、アー、うお、俺ハイタ吉デス、仲ハ良イデス、タブン」
おもいっきりずっこけるかと思った。
棒読みにもほどがあるわ!
難しい場面じゃないだろ! 嘘も無いんだし!
「おや、少し緊張なされていますかな。大丈夫ですよ、私もここにきて、魔物に対して見方が変わりましたから、攻撃はしませんよ」
「あ、あー、アリガトウゴザイマス」
もはや意味がわからないイタ吉はピンと背筋立てて言ってて笑ってしまいそうになる。
そんな言葉が通じているのか通じていないのかなやり取りを繰り返しつつ移動。
下手は踏むなよ……!
たどり着いたのはサイクロプスたちの鍛冶場だ。
ひとつめ巨人型の象でその鼻で器用にとれたてのキャベツなんかを口に運んでバリバリと食べていた。
……そう。大きいけれど象だから草食なんだよね。
「おお……! 何もかもスケールが違いすぎて、なんだか悩みが消えてしまいそうですな!」
「うーん? 見学のニンゲンか。気をつけないと頭から火や熱湯が降るからな! 下手に近づくなよ!」
「わかりましたー!」
サイクロプスたちは小さくても5mはある。
大きいリーダーなんかは10mあるのかなあ……大きすぎてよくわからない。
そんなサイズのやつらなので当然鍛冶場もデカイ。
机や鍛冶施設から何が降ってくるかわからないから小さくて弱い魔物やニンゲンは侵入が禁止されていた。
今回は私達が守っているので特別。
抜剣して変型させ盾にして天井にする。
早速机からごろりと岩塊が転がってくる。
「うおっ!?」
「大丈夫でーす」
盾に受け止めさせてそのまま地面に転がした。
いわゆるクズ鉄だ。
こちらを潰せるほどでサイズ感がおかしいが。
「おや、すまんなローズさんよ」
「ううん、大丈夫」
「大丈夫ダヨ大丈夫ダヨ」
イタ吉は役にたちそうにないな……
「ありがとうございます。ローズさんは魔物のみなさんと仲が良いのですね」
「え? そうですかね?」
私もこういう時相手の目を見れないんだけどね。
さっきのサイクロプスはバツが悪そうにクズ鉄を拾い去っていった。
そしてここ1番の目玉が見えてきた。
と言うかすごく大きいからやっと近づけたと言ったところだが。
「おお! 本当に立派な水車動力で! いや、これは……?」
「龍脈水車なんです、これ」
サイクロプスサイズで作られた一見は水車小屋のもの。
しかし地面が掘られているだけで水は通っていない。
魔法技術で龍脈エネルギーを受けて力強く回っていた。
「これは……! 最新技術と風の噂で聞いたことがあるものがこの魔物たちの街に?」
「そうなんですか?」
それは知らなかった。
九尾博士に聞いたら出来るって言われたからちょっと手を加えて作ってもらっただけだったから。