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三百七十一生目 内緒

「ほほう、話ですか?」

「まあそこまで大したものではないのですが」


 ついにカムラさんが仕掛けた!

 何をするのだろうか。


「とりあえず、邪念でしばられた……そう、聖書にある悪霊とこちらの死霊術師が扱うアンデッドとでは似て非なるものというのは分かってもらえたでしょうが、それでも敵視する理由はなぜでしょうか?」

「死者の気持ちを勝手に代弁することそのものは愚かだとは思いますが、死者が黙っているかと言って何をやってもいいと、そう定義するのもいかがなものかと、私は考えるのです」


 そりゃそうだよなあ。

 死体を平気で踏みつけていくやつとはあまり友だちになりたくないよね。


「なるほど、それはたしかにそうですね。では、答えて見せましょう」

「……というと?」


 いきなりの認識外からの切り返しに宣教師ゼストも思わずキョトンとしてしまう。

 カムラさんは目元を覆い隠していた布を外していく。

 ってちょっと!? そんなことしたらカムラさんアンデッドだってバレてしまう!


「魔物たちと出会い魔物たちに違った想いを抱いていただけたように、私達にも、また別の面を見てほしいのです」

「い、一体どういう……な、まさか!?」


 カムラさんの目隠しが解けた。

 その死者の目が見開かれる。

 宣教師ゼストがはっと息を飲んだ。 


 おそらくはカムラさんからアンデッドが自然にまとう邪気も解放したのだろう。

 ちなみに邪気と邪念はまったく違うものだ。

 邪気はいわゆる死の気配で霊気とも言える。

 邪念は魂や霊気を無理矢理縛る力そのもの。


 宣教師ゼストの手は自然と首元にあるペンダントに手を伸ばす。


「私も、(フォウス)教への偏見を変えたいと思いますから」

「あなたは……! アンデッド!?」


 カムラさん視点だからカムラさんがどのような表情をしているか詳しくはわからない。

 悲しみかそれとも……


「はい。娘には秘密ですよ」

「な」


 え。

 娘と言うのは私の役だ。

 ニンゲンたちの前では親子関係を演じていたが……


 そうか。私をこの仕掛けに巻き込み『こういう設定で演技してね』と!

 そしてその知っている知っていない差を利用して……


「まさか実子で、しかも秘密に……?」

「ええ。さるお方の力により授かった不死者としての力。しかし実の娘に、わざわざ自分が死んで、そしてアンデッドになった、とは伝えていないのです」


 な。なんという奇想天外な設定で来たんだ!

 アンデッドとフォウス教。ひいては宣教師ゼストたちとアンデッドが対立しないために。

 そしてこの街が対立しないためになんて言う攻めだ!


 これは相手の気持ちを少し読み違えるだけで不成立になってしまう。

 ぶっちゃけ私では無理だ。


「私は死んでも生きて娘を見届けなくてはいけない。妻も残している。そしてアンデッドになったこともわかりました。アンデッドにも種類がいるのだと」

「……種類、ですか?」


 カムラさんの淡々としながら絶妙に心に滑り込む抑揚や息遣いに宣教師ゼストもペンダントから手を離した。

 話を聞く態勢に持って行かせたのだ。


「ええ。人にも色々といるように、アンデッドにもいるんです。魂が怨念の力で縛られたものや、魂を受け継ぐもの。そして作られた身体に魂が宿るものもあります」

「魂が宿る……そのようなものが?」

「ええ。西洋ではゴーレムに近いでしょうか。作られたものにも魂は宿ります」


 確かに骸骨たちは魔法無機物であるゴーレムに近い。

 前もそう感じていた。


「ゴーレム……しかし、ならば余計、彼らがなぜ身を砕くまで働くのですか? 骨で作り上げた身体など、やはり邪悪な力が多いのでは……」

「それは、体感上で語ると役に立つために生まれてきたからです。役に立つということの価値を、彼らは理解している。あと疲労もないので休むことなく働けるだけです。

 骨という死の寄せ集めは本来は危険な行為です。だから死霊術師たちは願い清め祓って使います」


 カムラさんはまさに自身の体感を語ってウロスさんの知識を語っているだけだろう。

 だが身近なことに関する経験からくる言葉は確かな重みで振るわれた。


「まるで、聖職者のようなことを……?」

「ええ。たしかにあなたたちフォウス教とは違いますが、聖職者による浄化ののちに神聖なものを宿したのが、町中で働く者たちの正体です。ぜひ、今後もよくみて見極めてください」

「ふむ……あ、ああ。わかりました。うむむ、まさかそんな……」

「あ、娘にはナイショですよ?」


 宣教師ゼストのあっけにとられつつも理解しようとする顔が見て取れた。

 そして最後の言葉に苦笑いして頷く。

 ま。まさか宣教師ゼストの心境を変えてしまえたのか!


 うーむさすがカムラさんだ……


「では、今日はそろそろ寝ましょうか。また明日からも、ぜひ私達アンデッドのことを、良く見ていてください」

「あ、はい。そうしましょう。

 ……娘のためにアンデッドとして蘇る父親がいるとは……まるでおとぎ話だ……」


 ごめんなさい。その点に関しては完全な作り話です。

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