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三百七十生目 合法

 みんなが寝静まった夜。

 今夜はカムラさんが宣教師ゼストに何か仕掛けるらしい。

 時間になったからさっそく"以心伝心"で五感リンクしてみよう!


『おじゃましまーす』

『いらっしゃいませ。では早速やっていきましょう』


 正直穏便に帰ってもらうには攻める必要はない気がするがカムラさんが必要と判断したのなら仕方ない。

 カムラさんはニンゲンの機微に(さと)いから大丈夫だろう。

 それに宣教師ゼストも数日ともに旅をしてわかったことがある。


 彼は強い使命感を持ちそれを達成するためにやり方から結果にまでこだわりを持つ。

 暴力を嫌い自らの目で確かめひとつひとつ自らを犠牲にしてまで世界にあまねく光を届けようとしている。

 もちろん光とは(フォウス)教のことだ。


 しかし彼がこだわるのは結果として豊かで倫理的で平和になること。

 宣教師ゼストは『形だけ広げても意味がない。それが根付かなければ』と旅の最中によく聞かせてくれた。

 寝る前にいわゆる説教もしてくれてなかなか面白かった。


 だけれども私たちはまだフォウス教の宗教本……つまり聖書はもらっていない。

 宣教師ゼストによると『あなたたちが本当に欲しいと思った時に、これを渡しましょう』とのこと。

 やり手のオタクみたいな広め方だ……


 五感がリンクして視覚と聴覚情報に絞る。

 こうすることで脳内での混乱を避けやすい。

 映った景色では小さな机を挟んで宣教師ゼストと向かい合って座っているようだ。


「……うん、実に良い味ですな。心が落ち着きます」

「ありがとうございます」


 カムラさんが淹れたであろう紅茶をふたりで飲んでいたようだ。

 確かあれは眠る前に飲むお茶だ。

 いわゆるカフェインレス。


「いやぁ、それにしてもやはり、娘という存在は良いですなあ」

「ええ。いるだけで生きる気概がわきますとも」


 談笑をしている最中だったらしい。

 カムラさんが思い浮かべるのはユウレンさんかもしれないなあ。


「実は先日、娘が冒険者依頼で率先して若い女子を狙う輩を捕まえたんですよ。許せないとのことで真っ先に依頼を持っていきましてね」

「おお、悪魔に囁かれた者たちを捉えたのですか。それは平和のために必要ですね。ただそれらは本来衛兵の仕事なのでは?」

「どうやら仕事が大量にあるらしく、溢れた仕事として回ってきたのですよ。やはり、今の法では女子の被害は……」


 お茶をふたりとも飲む。

 少しの間沈黙が流れた。


「……ええ。まだ倫理の面で法的なカバーがあまりにも弱い。私としては宣教師の仕事というのはそういう面も担っていると考えているのです」

「なるほど。物を盗んだ方が悪く、盗まれた方が悪いわけではない、みたいなことですね」

「ええ。たとえそれが施錠忘れであっても、落とし物であっても、悪いのは悪魔に囁かれた側です。ただそれを、我が国でも中々理解ができるものがおらず……おっと、グチはやめておきましょう」


 このふたり普段からこんなに気の休まらない会話しているのかな……

 わりと旅している間もふたりで話していることは知っているが。

 普段私とイタ吉あたりとで話す会話がボケボケ会話に聞こえる程度には差がある。


「アンデッドの方もそのお考えで?」

「ええ。もちろん聖書に記されていることではありますが……死者に安らかに眠ってもらい、というのはそこまでおかしいでしょうか?」

「いいえ」


 優しくカムラさんが返すとふと宣教師ゼストが微笑んだ。

 ……そこに視線が向かうのはカムラさんだ。

 私は感覚共有だから操れないしね。


「だから我々としては、死者を働かせるなど言語道断なのですが……先日とある少女から指摘を受けましてね。帰ってから少し資料を漁ったのです。我々の国にはない死霊術師について」

「そちらの国にはないのですね。資料もですか?」

「ええ。調べる事自体禁じられていますし……むしろ、昔戦地だった場所からわく、悪霊たちに頭を悩ましているほどでして。それらの退治を担う軍も、本国にはいるほどです」


 それが前言っていた螺旋軍かな……ってちょっと待って。

 今さらって言ったけれど!


「ほほ、自国では禁止な行為でも、やってしまいますか」

「こちらの国では合法なので。確かにただしさを説くにも、相手の事を知らなければ押し付けになってしまう。絶対悪として知りながら過ごした私達の常識も、少し変わるだけで意味合いが変わる可能性はあると」


 カップの中のお茶が飲み干される。

 ううむ勉強熱心だ。


「その結果の方はどうでした?」

「いやあ、まだまだ学習中ですとも。何せ1から学ばなくてはなりませんから、資料集めにも苦労しております。

 ただ……確かに邪念で縛り上げるものではないらしい、ということまでは。我が国にある死霊たちは、まさに邪念と怨念の塊でしかないですから、意外でしたよ」


 カムラさんの目は機能しておらずアンデッドのスキルで見ている。

 相手に視線を悟らせずあらゆる相手の身体の動きを見定める。

 なるほどこれはニンゲン相手だと強いわけだ。


「実は、その件で少しお話がありまして」

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