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三十五生目 愛撫

 雪が深まる今日このごろ。

 とは言っても連日降るわけではない。

 降る日もあるし降らずに少し溶ける日もある。

 そのおかげで森が雪の下に埋もれずには済んでいた。

 それでも積雪30cmほどあるのでここはそこそこ雪が多い土地らしい。

 確かにここで野生暮らしは厳しいね。

 私達が今炭火を焚いてスープで身体温めているのを野生暮らしとするならばの話だけれど。


 人間との文化交流を始めて2週間以上経過しつつある。

 今のところ目立った障害が無い。

 うまく行き過ぎてるくらいだ。

 炭の減少量は製造量を遥かに下回っている。

 対してニンゲンからの品は明らかにものが良くなっている。

 これは、最初からここを目当てに来る人もいるのかな? と思えるほど。


 なにせ布一巻きとかどうやったら冒険中に持ってこようとするんだ。

 明らかに商人あたりも目をつけているっぽい。

 書き置きで売買目録を置かれていた時もあった。

 冒険者が炭を大量買い付けして、その代わり多くの特定に偏った雑貨を置いていくわけないしね。

 冒険者に依頼して同行して運んだりしたんだろう。


 さてこの売買目録なんだけれど読んでみると結構面白い事が分かった。

 現地の紙幣価値とかはわからないがこの炭火1kgで明らかに高そうなよりどりみどりなフルーツたち100個と変えられている。

 在庫を押し付けられた可能性もなくはないが、わざわざ鮮度を保つ使い捨てタイプの魔法の道具つきで置いてあった。

 季節がズレても長期保存が可能な魔法良いなぁ。

 ただ、そこまでして炭火1kgと交換する商人がいるとなると、意外な価値があるのかもしれない。


 そして土器の売買。

 これが意外とウケた。

 土器は初期のものではなくて毛や針を混ぜて土の加護を与えたものを中心に売っている。

 あとはハックが量産して手放しても良いらしい作品たち。

 作るのが面白いのであって完成品にあまり執着はないらしい。

 所詮土器なので期待していなかったのだがなぜかいきなり売れた。

 最初の頃はそんなに反応は無かったんだけれどある日覗きに行ったら土器在庫が壊滅していて驚いた。

 交換された品々は雑貨品寄りではなくて、魔法の品。

 それも鑑定してもよくわからない呪いでもかけるぐらいしか使いみちないんじゃあという物まで。

 何か、専門的な相手にウケたらしい。


 ただし何も土器は専門家相手にしかウケなかったわけではない。

 武器だ。

 私がニンゲンたちを想定しつつ作ったもの。

 幸い交流で砥石も手に入っている。

 金属もいくつか手に入っているが残念ながら加工技術がない。

 なので私が土器で作れそうなニンゲン用武器をいくつか作った。

 面白そうだから作った面もあるけれどね。

 片手剣に小さい盾。

 棍棒にナイフ。

 まだ期間が短いから作成数はみんな1でなんとも言えないがみんな売れた。

 まあ、鉄の品のほうが良いはずだからかざりくらいにはなるよ。


 そして今日も私は天然洞穴へと向かう。




視点変更



「あ、来た!」


 焚き火に当たっていたレッサーエルフのエリが歓喜の声を上げる。

 その声に他の2人も洞穴の外側へ目を向けた。

 悠然と歩くホエハリの仔に3人とも慣れた様子で警戒せずに待ち受けた。


「前頼まれたもの、そこの部屋前に設置して置きましたよ」


 プラスヒューマンのソーヤがそう言うとホエハリの仔が炭を積んである部屋前を見る。


『なるほど、確認した。やはり看板がある方が、様になるな』


 洞穴内に軽く響く老年の男声はこの場にはいない者の声だ。

 ……と3人は思っている。

 その正体は目の前のホエハリの術とはしらない。

 3人はホエハリが遣わされたものとしか思っていないわけだ。

 3人にとってホエハリと視界と聴覚を共有している第三者が遠くにいると勘違いしているわけだ。

 ホエハリの仔による術での声は初期に比べてだいぶ上手くなった。

 やっとまともな会話が成立したわけだ。


 そこでたまたま最初にあった3人組と再びあった時に看板作成を依頼していた。

 ホエハリの仔が見たそれはちゃんと言われた通り言語と絵で説明されたものだ。

 絵は記号化されたかわいらしいイラストが禁止行為を表している。

 囲んで斜めに線を引けば禁止の意味だ。


「それで、今日はやらせてくれるんですか!」

『約束だからな、まあ嫌がりはせんだろう』


 ホエハリの仔は内心苦笑いする。

 まさかそんな約束を取り付けられるとは思っていなかったからだ。

 それに嫌がりはしないだろうと実際は自分で言っているわけで、おかしくて笑わずにはいられない。

 それを表に出さずにプチオーガのアマネに近づいた。


「キュイ!」

「わー、さわるよ、触っちゃうよ!」


 キャッキャッとはしゃぐアマネは周りから見たらさすがに笑わずにはいられない。

 最初に一番警戒していたのは誰だったかと思うと噴き出すのをこらえるのに必死だ。


「キュウ!」

「ひゃ〜、魔物に剣じゃなくて普通にベタベタ触れる〜、大人しい〜!」


 気持ち良さそうに頭を撫でられるホエハリの仔ととろけているアマネ。

 攻撃的じゃない魔物と戦士はこんなにも朗らかなのだろうかと思える。

 何せ冒険者たちが森の中で会う魔物はみなこちらに牙を向く。

 そしてその牙に剥き出しの闘志と大剣を掲げる戦士。

 それが普通の光景だ。


 それが今や双方が爪や牙や剣を持ちながらも剥き出しにせずに馴れ合っている。

 あまりに奇妙な光景についにエリが笑いだした。


「ちょっと! エリ何笑ってるの! 本当にふわふわなんだって!」

「いや、森の魔物相手にそんな風に慣れるんだなって思ったらおかしくしておかしくて!」

「魔獣使いはなかなかいないから、こういうのもそんなに無いしね」


 アマネが笑いに対して怒るがエリとソーヤが口々に言った言葉にアマネも納得せざるえない。

 自分自身がこんな風になれるなんて思っていなかったからだ。

 まったく冒険者で良かった、変わった事に出会える職ならではだと心からそう思えた。




視点変更 主人公


「キュイ、キュウ!」

 ニンゲンの可聴範囲を探るのに苦労するとは思わなかった。

 私がすっかりホエハリの耳に慣れていた影響でニンゲンの可聴範囲外で声をかけても意味がない。

 やはりホエハリの容姿はニンゲンにウケる。

 それは今、目の前の光景が証明してくれている。

 そこにキュートなボイスで声をかけたわけだ。

 高周波過ぎて聴こえないあたりから始まり、やっと反応してもらえた。


 撫でられるのはなかなか楽しい。

 ペロペロ舐め返してやったらプチオーガのテンションがちょっとおかしくなっている。

 他の二人も恐るおそる撫でてきたけれど、背の針は気をつけてね?


 そんな風に撫でられ会をしていたらレーダーが外からの反応を拾った。

 洞穴に向かっているがニンゲンなのだろうか。

 それなら歓迎なのだが。


「ああ!? なんだこのカンバン!?」


 洞穴入り口に来たニンゲンの第一声がそれだった。

 ……なんとも不穏な気がする。

TIPS

魔獣使い:

 人間族のなかで特に獣型の魔物を扱う事に長けた者をこう呼ぶよ。

 類似した職業に家畜調教師がいるけれど、家畜調教師と違って攻撃に使ったり盾にしたりする野生魔獣を手懐けるよ。

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