三百六十九生目 自慢
夕食と呼ばれたので宣教師ゼストやカムラさんそれに冒険者複数人と共に移動する。
もうすでに宣教師ゼストと冒険者たちは打ち解けて言葉を多く交わしていた。
うーむやはりプロだ。
「ほほう、ここの食事は実に評判が良いですね」
「ああ! 街の食堂よりうまいかもしれねえ!」
「私たちはガッツリのが好きだけど、種類はたくさんあったよ」
そんな会話を自然にこなしている。
若い冒険者たちの中にいるひとりのおじいさんと言えるだろう風格のゼスト。
凄い不思議な光景だ。
ニンゲンの食事場所までは少し歩くこととなる。
魔物たちと一緒だと恐ろしいほどの争奪戦に巻き込まれるため受け取り場所は別なのだ。
周囲の魔物たちが走って追い抜かれていく。
「急がないと並ぶよ!」
「出遅れたあ!」
「……ふうむ、やはり魔物でも、言葉がわかってしまうと不思議と分かり合える気がしますな」
宣教師ゼストの舌力ならばあっさり分かり合えそうだ……
ただ光教はいろいろ困るが。
少し歩いたら屋根テントと机に椅子だけがあるオープンな食堂についた。
雨の日は別の屋内として冬でも夏でも快適な気温を維持できるここならではの食堂だ。
そう遠くないところに魔物たちの食堂もあって食事風景が互いに見られる。
それぞれが購入し魔物たちから手渡しで受け取る。
宣教師ゼストはかなり緊張していたが無事受け渡しに成功したようだ。
「ふう……通貨概念だけでも驚くのに、魔物たちと正面から向き合って渡されるとは」
「どうでしたか?」
「まあ、良い経験でした。敵意のない魔物たちがここまで揃っていること自体も良く……さあいただきましょう」
食前に光教の祈りを捧げたあと宣教師ゼストはパンをちぎって食べる。
大きく目を見開いたあとひととおりの食事に手をつける。
そして満足したあとにゆったりと食事を嗜んでいた。
「魔物たちの作る料理、いかがでしたか?」
「いやはや……! 人の街で食べるのと差異がない、いやむしろこちらのほうが美味しいほどですよ。おそらくは、よほど腕が良いのでしょうなあ」
スッと近くにアヅキが降り立った。
宣教師ゼストに気づかれないまま近くまで歩き。
「褒めていただきありがとうございます」
「……おお!?」
そりゃいきなり背後にでかくて目つきの鋭い人型カラス立っていたら驚くわな。
アヅキとしてはあんまりそういう気はないのだろうけれど。
「き、キミが料理を?」
「ええ、俺と、俺の部下で作りました」
アヅキは私相手じゃないと『私』って使わないんだなー。
「おお、実に繊細で美味しい料理です。ありがとうございます」
「こちらこそ、主の配慮赴くままにお楽しみください」
「あるじ……? とは?」
アヅキが一瞬こちらを見たがバレていなかった。
こええ。そりゃ主呼びじゃあバレないけどさあ!
こっち見ちゃだめよ!
「もちろん、俺の、そして皆の主ですとも。今日はいらっしゃられないが、その分は我々に任されている。では」
「なるほど、やはりリーダーにあたる者が……ええ、冷める前に食べさせてもらいます」
アヅキが飛んで去っていく。
なんとかココはセーフだ。
食事を終えて満足したあと暗くなって来たが探索を再開。
あちこちでうっかり声をかけられかけたりしたがなんとかやりすごす。
宣教師ゼストが新しいところを見る度に驚いていたのが良かった。
ただかなりの予定外ももちろん起こるわけで。
それは巨像広場でゴーレムたちのダンスに一通り驚き喜んでもらったあとだった。
私の"率いる者"でスキルが借りられる。
これは……あっ!
空から青い光が細かく優しく降りてくる。
私は宣教師ゼストに気づかれぬようにそっとその場を離れた。
そして青い光は魔物たちの姿になり部下10匹がその場に集合した。
空魔法"ファストトラベル"だ。
「おお!? こ、今度は一体……!?」
「ああ、アレは遠征組の帰還ですよ。遠くまで行って魔物のスカウトや事件の解決などをしているそうですよ。今のは魔法で帰って来たのでしょう」
「な、なるほど……?」
こっそり見ているとカムラさんが宣教師ゼストに解説していたが理解がおいついていなかった。
部下たちはいつ帰ってくるが不明なため伝え忘れていたから私と会うとバラされる危険があまりにも高い。
「あー、終わった終わった!」
「今日のご飯何かなぁ」
「報告めんどうだなー」
そう言いつつ彼らは歩いて食堂へ行った。
ふう……セーフ。
「どこまで行っていたのかはわからないが……これほど膨大に行動力を使うはずの魔法10匹も……」
宣教師ゼストが何やら真剣な顔でぶつぶつ言っていること以外はセーフ。
結局夜遅くなったので宿を取ることに。
帰るのは明日だ。
私だけは別室を取る……フリをして彼らと別れホリハリー状態を解除。
4足いつものケンハリマへと戻って自室で休むことにした。
ただ今夜『ちょうど良い頃合いなので少し仕掛けてみます、ぜひご覧になられたらどうですか?』と言われている。
全身のダルさや疲れはあるが"以心伝心"で視覚や聴覚同調程度ならばまあ……
指定の時間になったら見てみよう。