三百六十八生目 冊子
なんとかハックをやりすごし次へ。
そこまで歩くことまなく町並みが見えてきた。
「おお、本当に家がしっかりと! それと、この道も随分と歩きやすくしてあるようで……確かアナタと話せるのも、特別な装置のお陰でしたな?」
「ええ! この輪っかです!」
妖精が腕の飾りみたいにキラキラさせてある受信機を指す。
本来は無機質でシンプルな輪っか型の魔法機械なんだが随分デコレーションされていた。
おしゃれだ。
「不思議ですなあ……」
「不思議ですよね! でも、使えるから大丈夫です!」
そうこう話しているうちについに町の中へと足を踏み入れた。
以前はテント群だった町並み。
今ではテントの位置は移動されたり撤去されたりして多くの石づくりや木造が立ち並ぶ。
職人たちがコンクリートの元を今の技術でもたくさん抽出できるような道具を持っていた。
それらをサイクロプスたちが巨大化させガンガンとって使いだしたら建築技術が飛躍的に増した。
さらに各々の魔物が棲みやすいように改造してまずニンゲンの町並みでは見ないような風景になっている。
扉が低かったり屋根の一部が扉になっていたりやたら草が生えていたり1種の混沌だ。
「ここが……魔物たちの町なんですね」
「ええ! 改めてようこそアノニマルースへ! こちらにどうぞ」
妖精に促されるまま歩くとあちらこちらに魔物のみんながいる。
ここで暮らしている。
そのことを宣教師ゼストは実感したらしく声がこわばり身構えも緊張を持ち直した。
宣教師ゼストにとって周りはいつ襲いに来るかわからない猛獣の巣に迷い込んだのと同等だ。
こうなるのは仕方ないだろう。
周りの魔物たちはもうニンゲンがふらりと来るのは慣れている。
それにたいていのニンゲンの見分けはついていないから気にしてもないが。
少し歩けば他とは違って木造のよく見るようなニンゲン的な建築家屋にたどり着く。
休息所だ。
「ここが一旦休むところとなっています! もし宿泊ご希望のさいは宿をご利用ください!」
「ええ、わかりました」
扉をあけて中に入ると冒険者たちがすでに何名か座っていた。
私たちは別テーブルにつく。
「お帰りのさいはパンフレットを回収しますので、壊したり、なくさないようにお願いします!」
「はい、わかりました」
「では!」
くるりと空中回転してから妖精はでていった。
ふう。ここまでくれば事故はそう起こらないだろう。
「あ、カムラさん! またお茶くださいよ!」
「私も!」
……!?
冒険者たちがカムラさんに対して注文を!?
やばい、か!?
「ええ、ええ。炊事場を『お借りして』作ってきましょうか。ゼストさんは好みはありますか?」
「ああ、いえ、私は比較的なんでもいける口なので」
「わかりました、では」
セ! セーフ!!
いきなり綱渡りになるの本当に勘弁してほしい。
その後カムラさんがしばらくしてお茶を淹れてきてみんなで楽しんだ。
「おぉ……これは疲れに、効きますな!」
「ここの水は特別で、茶葉も良いものがありましたよ」
私もいただく。
あ。これ恵みの泉水で淹れているや。
コップも恵みの泉水の肉体と活力を癒やす効果を維持する特別製のか。
お茶が心もほぐし宣教師ゼストはすっかりと緊張をといていた。
いやまあ周りがニンゲンだらけだからというのもあるかもしれない。
背もたれに身を任せゆったりとした時をすごす。
「いやいや……本当に驚かされましたよ。ここには。しかも思っていたようなくささもなく清潔で……」
「そりゃあこの街は特別だからな! そいやじいさん、冒険者じゃないよな?」
「その格好、結構良いところの人かな……?」
冒険者たちが新入りに興味深そうに視線を投げる。
宣教師ゼストはさすがに宣教師の格好はしていない。
しかし冒険者としての鎧はなくあくまで活発性を重視した良い服だ。
しかも着こなし方にも風格が出ていて黙っていても尊厳な風格が出ている。
つまり冒険者ぽくない。
首から下げているネックレスの先に宗教シンボルの螺旋をかたどったものがあるのもどうしても冒険者からは遠い。
DNAの2重螺旋の片側だけ残したようなシンボルを平たくした銀で出来たそれがきらりと輝く。
「ええ、私は護衛されてここまで連れてきてもらった、しがない者ですよ。カムラさんと、ロ――」
「はい! 私です! みなさんどうもよろしく!」
「「よろしく!」」
すぐそこに致命傷が転がって来るのやめて!!
冒険者たちはさすがに話は通せてないんだよ!
うっかりから疑われるわ!!
宣教師ゼストはニコニコとしているだけで疑われている様子はない。
良かった……
「うんうん、私にも娘がいるが、やはり元気な娘は良いね」
「そうなんですか?」
「ええ。とはいえ国に残してきたので、しばらくは会えないのですが……」
宣教師ゼストは私を見ながらどこかさらに遠くを見ている目をしていた。
ふとかなしいような懐かしむような色が瞳に浮かんでは消えていった。