三百六十五生目 螺旋
教会のなかに入ろうとすると中から声が。
しかも大声で怒鳴っていると言っていいほどに聴こえる。
なんだなんだ。
「――だから! それだけは、螺旋軍の派兵だけはまだ早い!」
「ですがね、やはり我々フォウス教による威光を示すには、必要なものもあるのですよ」
うーむ今。軍の派兵かなんか聞こえたんだけれど。
え。何?
なんでそんな物騒な話が?
「ふむ……?」
「なんなんでしょうね」
カムラさんと一緒にそうっと覗いて見る。
「威光はあくまでも我々宣教師の力でじっくりと説くべきです!」
「ふむ、しかし本部は1日も早く世界に光を届けることを願っていたが?」
「ぐっ……それでもだ、螺旋軍は最終手段だ!」
片方の派兵反対派はこの前ウロスさんに追い払われていた宣教師。
そしてもう片方の派兵賛成派はユウレンと揉めてユウレンを村から追い出した宣教師だ。
どちらも私の事は知らないだろうがこっちからしたらそこそこ知っている相手だ。
カムラさんと合図してわざと音を立てながら歩く。
さすがに気づいたようでヒートアップした議論も止まった。
「……とにかく、考慮はお願いしますよ。失礼」
「ええ、考慮は常にするとも」
反対派の方が歩いて教会を出て行く。
私達の方をちらりと見たが特に何も思うことはなく去っていった。
かわりばんこに私は教会の中に取り残された賛成派の元へ。
「こんにちは。もしかして冒険者ギルドへの依頼をされた方ですか?」
「ええ……ああ、あと先ほどの話、聞こえていたのならもうしわけない。気にしなくても、大丈夫ですよ」
気にするなって方が難しいなぁ……
そうは思いつつも顔には出さない。
カムラさんが相互チェックするための書類を広げる。
「こちらで間違いないですか?」
「ええ。こちらも……」
向こうも紙を広げカムラさんの紙と机の上で合わせる。
紙の端と端にある印が一致した。
これは昔からよくあるやつだよね。
「ええ確かに、ではよろしくお願いします」
「ええ。それで、依頼の詳細はこちらでと伺ったのですが」
書類をしまいカムラさんがたずねると宣教師は頷く。
「それではまず名前から。私はゼスト・マエアスト・ポローラ・サンク。長いのでゼストとお呼びください」
「私はカムラと申します。目はこのとおりですが、別の方法で見ているのでご安心を」
カムラさんはアンデッドでニンゲンの街では目隠ししてその死んで濁った目を隠している。
ただ普通に見えるらしい。
「そして私はローズオーラです」
「私と親子でやらさせてもらっています」
「おお、なるほどなるほど」
もちろん嘘なのだがこの街ではこういう設定で通している。
すんなり信じてくれた。
「それでは依頼のほうを。信頼できる者たちと聞いていま、ぜひ他言無用でお願いしたいのですが」
「ええ、わかりました」
「では……荒野の迷宮にあるという、一部でウワサになっている魔物の街というものを、確認しておきたいのです」
驚いて噴き出すところだった!
冷静。冷静になれ……
なんでわざわざアノニマルースなんだよ!!
「おや? それはまたどうしてですか?」
「まあ、眉唾だとは思いますが……もしあるのなら、見ておきたいのです。我々フォウス教と相容れるかどうかも」
そこから詳細を決めて馬車での移動に。
荒野の迷宮につくまではゆっくりと移動することになったが……
私は急いで"以心伝心"の念話で連絡を取り合っていた。
『まったく、まさか商人ではなくせんきょーしとやらが釣れるとは』
『まあアヅキ、ニンゲン用は味付け変わるから気をつけてね』
『ええ、そこらへんは部下たちにも教育済みです』
人型カラスのアヅキにも指示を出す。
調理係だからもし食事を出すかもしれないときの指示。
熊のジャグナーにはトラップに引っ掛けないように指示し……
『おーけーおーけー、引っ込んどけばいいじゃん?』
『はい、見つかると揉めると思うので』
ウロスさんは隠れてもらうことにした。
前対立していたからね。
ユウレンはトランス時の面をかぶっておとなしくしていてもらうことに。
フォウス教は死霊術師とアンデッドに厳しいからな……
でも働いているアンデッドたちを止めて隠すのは難しい。
ニンゲンの街でもいるのだからなんとか見逃してもらえると良いが。
そして1番大事なのが。
『良い? ちゃんと通達してねイタ吉!』
『ああわかったよ、お前やカムラを他の冒険者のように扱えば良いんだよな。ただ演技下手もいるからな……』
『そこをなんとか!』
そう。
宣教師に私やカムラさんが魔物だとバレるのはヒジョーにまずい!
全力でごまかしてなんとか穏便に帰ってもらう作戦スタートだ!