三百六十四生目 噂話
そういえば今回の『悪党退治』依頼は少し違和感があった。
ギルドマスターのタイガに聞いてみるか。
「そういえば、なんで冒険者ギルドに衛兵まがいの依頼が来たのでしょうか?」
「それなんだよなぁ……どうやら少し、いや、かなりゴタゴタしているようでな。衛兵や軍隊の仕事が山積みで、捌ききれないらしい」
タイガが思い浮かべながら語ったことはなんとなく想像がつく。
魔王復活秘密結社周りの動きが大きいのかもしれない。
「なるほど……」
「それで治安を悪化させたら元も子もないというわけで、小悪党ぐらいならこっちにも回されるわけだ。まあランクLに跳ね上がったお前さんには、簡単すぎたかな?」
「いやいや、ああいう輩を退治するのは良い仕事でしたよ」
強盗からのゴーカンだなんて最低最悪のやつらだからな……
果たしてこれまで何人犠牲になった結果情報がちゃんと固まったのだろうか。
3人だと知っていたからギリギリまで待つことが出来たが即しばくところだった。
「さて、まだまだ疲れてはなさそうだし、次のもやってみるかい」
「これは?」
渡された書類に目を通す。
ふむ。護衛任務か。
冒険者はたまに迷宮のプロとして迷宮での護衛を担当するというのは聞いたことが有る。
しかも名前は受けてくれないとまだあかせないと。
そのかわりギルドには話は通しているし身分もそれ相応で安全。
ある程度の高ランク指名だからこの街では指折りにランクが高い私に仕事が振られたと。
「ま、見てもらっている通り、護衛依頼だ。場所は荒野の迷宮。こっちが受けたタイミングで動くらしいから、いつでも大丈夫だ。どうだ?」
「はい、やってみます。父も誘います」
「助かる。バローは学校だしな」
未だにカムラさんとの親子演技は続行中だ。
早速受けて待ち合わせ場所へ行くことに。
とは言っても向こうも準備が有るしカムラさんにも声をかけねば。
空魔法"ファストトラベル"でアノニマルースに到達。
カムラさんの気配を探ったらすぐに見つかった。
歩いて向かうと木造の建築物に。
扉を開けたら広いひとつの部屋が広がっていた。
机と椅子もいくつにもわかれて置かれている。
そこでニンゲンの冒険者が数名だらけていてカムラさんがお茶だししていた。
「おや、ローズ様」
「カムラさん、こんにちは。冒険者のみなさんも」
「「こんにちはー」」
冒険者はバローくんや同じギルドの5人組だけではないのは当然。
そしてここを見つけて訪れるものもだ。
その大半は冒険者でこうして休息所に招いていた。
最初の頃は色々と問題があったもののドラーグたちがおさめたし職人さんたちニンゲンも多かったのでなんとかなった。
さらに最近では問題ないようにパンフレットを作って冒険者たちに真っ先に手渡すように新規案内係まで作って教育している。
魔物もニンゲンも守ることが守れれば中に通しているわけだ。
「いやー、最初は驚いたけれど――」
「秘密にするだけでここのおいしいお茶をもらえるなんて!」
「冒険者の間ではすでに公然の秘密みたいなもんで――」
「最近よそが物騒だからここで稼げるのは良いよ――」
みな口々にあれこれいいつつカムラさんのいれたお茶に舌つづみを打っているようだ。
ここのことは一応『誰にも言わないで、あなたたちだけの秘密』としている。
だが最近明らかに冒険者が多い。
と言うかまあ口に戸を立てれるとは思っていない。
秘密といえば宣伝になるだろうというのも狙いだ。
ひっそりと市民レベルにウワサとしめ存在を認識させる手だったりする。
そしてその手を考えついたのが……
「ところで、私に何か用があったのでは?」
「あ、はい。仕事の依頼が入りまして」
このカムラさんだ。
執事風ながらその実は高度なアンデッド。
死霊術師ウロスさんの自信の子だ。
ニンゲンよりもニンゲンの心の機微に詳しいや。
「なるほど。それでは準備しましょう」
カムラさんは優しく微笑んだ。
再びニンゲンの街へ"ファストトラベル"でやってきた。
このウワサ作戦は後々計画されている本格的な交流についても踏まえているが魔王復活秘密結社に対しても意味をなすだろうと予測している。
彼らは生態系を大きく破壊して魔王を蘇らせようとしているフシがある。
だが流布しているウワサには私達が魔物の寄せ集めだのそのためめちゃくちゃ強い者が多いだのともながしていた。
誇大誇張も多くしてあり彼らが優先的に手出ししにくくしてあるわけだ。
寄せ集めだと生態系として成り立つわけじゃないから破壊の意味が薄いしそれなのに強いから相手しづらい。
その意図がちゃんと通るかどうかは……今後次第だ。
はてさて考え事している間に目的地の場所についた。
ここはこの街に比較的最近出来た教会だ。
光教のものである。