三百六十三生目 強盗
「とにかく、また新たな情報があったら、そちらにも流します。引き続きよろしくおねがいします」
「ええ。黒い獣の話も気になるので、そちらでもお願いします」
ゴウと対談を終えようとふたりとも立ち上がり会話をしめる。
黒い獣がなんなのか未だに全くつかめないが……
少なくとも荒野の迷宮には来ないで欲しい。
「恐ろしいほどの大きさの黒い魔獣……本当にいたら真っ先に情報が来るはずですね」
「それか、出会った瞬間に凍結されているか……頂上の迷宮に行った冒険者たちは、帰ってきましたか?」
「いえ、ですが現場が溶けたのなら道具なり魔法なりで逃げ出したと思います。数日後にはわかるかと」
会釈して別れた。
その数日後……
各地の冒険者ギルド内で『黒い獣』『凍結』という単語が飛び交ったのは言うまでもなかった。
こんにちは。今日も今日とてニンゲンの街にやってきています。
ホリハリーで服も着込んで冒険者風。
普通に冒険者としての仕事もこなしているためギルドマスターのタイガから仕事をもらっていた。
路地裏に入り込み奥へおくへ。
いかにも生活路といった建物の間を進んでいく。
表通りと違って日陰が支配する領域。
そろそろかな。
もう少し奥かな。
ソロソロと移動。
その時私の進む先。
カドからヌッと出てきたのはひとりの男。
背後の気配に振り返ったらさらに1人。
どちらもおっさんでニヤついた笑みを雑に切ったヒゲに浮かべている。
服装も『一般人』というより『浮いた奴』むしろ『ごろつき』なんて言い表しが正しいかもしれない。
ふむ。ふたりか……
「やあ、お嬢ちゃん……」
「へへ、ちょーっと付き合ってくれよ」
「なんなんですか、あなた達」
ちなみに今私は帯剣していない。
相手の装備は……正面はふところに2本ナイフを隠しているな。
背後のは靴に細工があって重く硬くしているな。
「なあに、わかっているんだろう?」
「こんなところまで、一人で出歩いて、明らかにこの街の娘じゃないよなぁ」
悠々と距離を詰めてくる。
私は普段よりもさらに力を抑え込んでいるから周りからはか弱く見えるだろう。
だが彼らは入念に慣れた目つきで私の全身に目を張り巡らせる。
武器を隠し持っていないか探っているのだ。
まあ持ってないから無駄だけどね。
ひと安心したのかふたりとも目の前までやってきた。
「おとなしくしていれば、命までは取らないからさあ」
「ヒヒッ、近くで見ると良い毛並み……おいボス! こいつ武器はなさそうだぜ!」
おっさんのひとりが呼ぶと裏の方から体格があきらかに2人組と違ってゴツいニンゲンがやってきた。
もはや疑う余地もなくまさにこいつらの親玉という風格。
レベルも少し高い。
「ほほう、こいつが……」
「おい女、財布、とりあえず財布出せよ」
「くっ……」
おとなしく言うことを聞くふりをしつつ魔法を唱える。
きっちり隠蔽して唱えるのはバラさない。
持っていた小銭袋を渡す。
「どれどれ……おお! 見てみろってボス!」
「ほう! なかなか当たりだな! 金貨もあったか!」
「いいとこの嬢ちゃんかい?」
「よーし、盗るもん盗ったし……」
詠唱完了。
発動待機。
彼らは気が緩みまくり近くで密集していてくれている。
「早速こいつを(ピー)して(ピー)で(ピー)すっぞ!」
「「おおー!」」
イラッ。
今ちょっと健全とは間逆な単語が親玉から溢れ出したぞ!
あいつらが意気揚々として目線外した瞬間に発動。
空魔法"ストレージ"!
剣を亜空間から引き抜き鞘を取る。
「おーっ!! おー………お?」
何が起こったかを理解するまでに剣に魔力を注いで土魔力解放!
伸びて鞭状へ変化し……
「う、おお!?」
「逃げ――」
薙ぎ払う!
おっさん雑魚2人のお尻を思いっきりはたき土魔力爆発!
大岩を叩き込まれたような衝撃にしょせんはゴロツキが耐えられるわけもなく。
「「あんぎゃー!!」」
「ひっ! わ、罠……」
今度は長い剣状に変化させた。
倒れるゴロツキ2名を置いて逃げる親玉に向かって思いっきりお尻に刺す!
「ギエエエ!!」
当然土魔力を発動。
大岩に叩きつけられた衝撃に腰抜けしてしまったのだろう。
そのまま倒れ込んだ。
「け、ケツが……ふたつに、割れた」
ふう。
気を失った3名を縛り上げよう。
それで『悪党退治』の依頼は完了だ。
ああいうみんなの敵みたいなのをのさばらしておくわけにもいかなかったから今回の依頼は良かった。
衛兵たちに引き渡しタイガに報告する。
もちろん"峰打ち"したから生きてはいるよ。
しばらく立つのも座るのもつらそうだが。
「おつかれさん。はい、報酬のほうだ」
普段の戦いで言えばぐっと少額だが貰えるのはうれしい。
それにこういう依頼は信頼度が上がりやすいらしい。
私としてはそちらのが重要だ。