三百六十ニ生目 採掘
ドラゴンのスイフォードの背中に乗って飛ぶ空。
それもそろそろ見納めだ。
「あ! 見てください!」
「雲が!」
「晴れていく……!」
吹雪を巻いていた雲がまさに文字通り霧散してゆく。
サアと景色が晴れ渡ってゆき山頂の迷宮に光が取り戻される。
スイフォードも感心しゆっくりと下降した。
「……良い景色だ。また見られるとはな」
山頂の迷宮より下の雲海はいまだに厚いままだ。
ただあれはもともとらしいからね。
冷え切っていた空気もなんとかまともと言える程度に戻った。
ゆったり観覧したあとに地上へ降り立つ。
もともとがガチフリーズがいる前提で作られていた天候だったのか異常な速度で雪が消えている。
また凍りついていた魔物たちはそれぞれが溶けて動き出した。
氷があちこちに残っているのだけがその痕跡を物語っている。
そういえばふと思い返すとだ。
「例の、黒い獣らしきものはいなかったね」
「だな……どこにいるのだ?」
スイフォードから降りて話す。
ガチフリーズを倒して晴れたからすっかり解決ムードだったがそういえば違う。
凍結の攻撃を放ったらしいのは黒い獣だ。
だがそんなビッグなサイズの黒い魔物は見当たらなかった。
もしやこの迷宮から出たのか……?
「ここの迷宮にはもういないのかも知れませんね」
「そうだねぇ」
「めい……きゅう?」
部下の言葉を肯定したらスイフォードが反応してきた。
どうやらスイフォードはこの迷宮から出たことはないらしい。
うーんどうしようか。
スイフォード自体は凶暴性がある。
だが私たちに対してはこなれてきた。
"無敵"と"ヒーリング"組み合わせによる本来の性質を貫通する友好許可力のおかげだ。
だからまあ大丈夫かな。
「ちょっと来てみる?」
「来るって、どこへ?」
外界。
はるか天空をスイフォードは飛んでいた。
私たちはそれを地面から見上げていた。
「はは! なんなんだここは! 雲が広がっていない!?」
「どうー? 気に入ったー?」
「さあなー!」
その声は実にごきげんそうだった。
その後彼をアノニマルースのある荒野の迷宮へ招待したら大喜びしてくれたがそれはまた別の話。
ニンゲンたちの間でしばらくの間昼間に目撃された空飛ぶドラゴンと恐ろしい吠え声のウワサでしばらくもちきりだったというのもまた別……
報告書をまとめ冒険者ギルドへと来ていた。
国管理の方だ。
扉を開けるとそこには……
「あれ? ゴウさん?」
「おや……?」
人狼で衛兵……風の格好をしているゴウだ。
この街で平穏を守るための働きもしているがその実は冒険者。
魔王復活秘密結社と対立している。
「ゴウさん、ちょうど良かった」
「はい、どうしました?」
「少し場所を移しましょう」
冒険者ギルドから移動し近くの軽食所へ。
おしゃれな雰囲気のところで各々が他人を気にすることなくおしゃべりに夢中。
つまり大声で騒がなければ話し合いにはむいていた。
「なるほど……報告書、確かに」
「一応どうにかしましたけれど、自然にここまでの規模で、ヒヤフリーズのトランス体が育つだなんて、あるんですかね」
現像した写真を見せる。
白黒でもガチフリーズははっきりと見えていた。
我ながらよく撮れている。
「いや……データを照らし合わせてみないといけませんが……しかし、やはり天候全体に影響する力を持つエレメンタル体魔物が、発生することは非常にまれかと」
「ですよね……こんなのがしょっちゅう現れていたら、迷宮に誰も棲めないですからね」
「我々冒険者としても、探索があまりに困難になりますから」
ゴウが悩むようにうなりながら写真を見る。
ゴウから見てもかなり異常事態だというのは当たっているらしい。
写真は丁寧に書類入れにしまった。
話の流れから察するにエレメンタル体というのはガチフリーズやヒヤフリーズのようにあの取ってつけたような顔をした魔物たちだろう。
スライムもそれに含まれのかな?
あれは肉体自体はそこそこあるから違う気もする。
「やはり湖の迷宮にもコイツが?」
「いや、まだそこまでは見れていません。あちらは肝心の水中が凍りついていて、少し探索に手間取っているんです」
「ああ……確かに報告にもありました。やはりまともな捜索は難しいようですね」
「ああいえ! 別にそうではないんですよ。砕いて進んでいるんで」
ゴウが耳と尾を立て驚いた顔をする。
というよりも信じられないものをみるような。
「え……!? し、しかし報告では内部まで完全に凍てついていると」
「ええ、それはそうなんですが、うちには掘るのが得意なやつもいるので」
「ああ……なるほど」
遠い言い回しだがようは掘るのが得意な魔物がいるのだ。
それを理解したゴウは納得するような半ばあきれたような顔していた。
結晶狼の結晶をもらって恐ろしく硬いものだが必死に加工したのをつけ爪で使い掘るのが得意な魔物たちでばりばり掘っている。
結果はじきに出るだろう。