三百六十生目 騎士
「……まあ、そういうわけで」
スイフォードとの間に気まずい空気が流れる。
出来るかどうかはともかく戦闘脳のドラゴンらしく刺し違えてでもガチフリーズを斃すつもりだったのだろう。
まあそんなことはさせないが。
「……いや、よく考えたら、そういうわけでってなんだよ! どちらにせよお前らでは無理だろ!」
「いやー、それも、ねえ?」
私に言葉を振られた5匹の部下たちはそらそうだという顔。
みな4足の魔物で役割ごとに別れた武装を持つ。
その顔ぶれはたのもしい。
「まさか、お前らが狩るつもりか……? やめておけ、小さくてとても強そうには見えないお前ら程度では、凍結対策ができてもだな!」
「いやあ、私らもさすがに近くまで足場がないと戦えないんで」
「近づくのはヨロシク!」
「なぁ!? 足場になれってか!?」
スイフォードが困惑した叫びに反応したのかガチフリーズが大きく大気を吸い込んで雪と共に凍てつく風を直接はいてきた!
空気中の水分が僅かな時間でこおりキラキラきらめくがきれいなんて言っている場合ではない。
スイフォードは『空中を蹴って』息吹を回避する。
「ちっ、来やがったぞ!」
「なるべく接近して!」
「無茶言うな!」
飛ぶだけではなく『空中を走り回って』凍結の息吹を避け回避に専念している。
たしかにこれでは接近は無理だ。
だが。
「パラディン!」
「あいよー。ある程度防げば良いんだろう?」
「うん。私は見ているから、ガンガン活躍しちゃって」
パラディンと呼ばれた部下のひとりが前脚についていた盾を構えると光が輝きスイフォードごと私達を包む。
「これはなんだ!?」
「つっこんでもまあまあ平気にしてみたー」
「ちっ、よくわからんが掴まっていろ!」
スイフォードが大きく避けつつもタイミングを見計らい『空中を蹴って』ガチフリーズに近づく。
当然ガチフリーズも反応して息吹を当ててきた。
氷結の息吹が翼に引っかかる。
「ぐっ!? ……うん? 思ったよりも緩い?」
「今私が緩めているんだよー。万能じゃないけど、コレなら少し安心でしょ!」
「よし! いける!」
スイフォードが『空中を駆けて』息吹をカスらせながら近づく。
むっ。
魔力反応!
「来るよ!」
「ちっ!」
今度はスイフォードを潰すほど大きな氷塊がうまれては飛来しだした。
氷の魔法か!
部下のひとりが前へとにじりよった。
「スラッシャー! 行ける?」
「その魔力……断ち切る!」
スラッシャーと呼んだ部下が咥えるのは1本の幅が大きな剣。
迫りくる氷塊と避けようとするスイフォード。
1つめと2つめは避けたが3つめがその動きの慣性のスキを突かれた。
「ちっ!」
「そこだっ!」
その時にスラッシュが急加速!
スイフォードが足場に跳ぶ。
剣がきらめいた。
そして一瞬だけ爆発的にスラッシャーからの圧力が増す。
目が覚めるような力の気配にスイフォードも驚き息をのんだ。
ジャギンという音と共に剣が振り切られスイフォードにふたたび着地した。
もう圧力は嘘のように立ち消えている。
そして強く剣を振ってから納刀。
美しく流れるような動きと共にスイフォードに迫っていた氷塊が勢いを無くし落下していく。
「なっ、今のは!?」
スイフォードが困惑するなか。
魔力と魔法としての力を失った氷塊は存在を維持出来ずに崩れていく。
魔法として顕現していたのだからその建前が崩れたことで成立しなくなったのだ。
「おい、何をした!?」
「次、来てるよ!」
「多いなっ!」
スイフォードが身をよじって氷塊を避けてついにはガチフリーズに迫る。
ただまあスイフォードの疑問はもっともである。
部下のスラッシャーが疑問に答える。
「あれは、氷そのものじゃなくて魔力を両断した。どんな魔法も魔力が尽きれば、不発だ」
「そんなこと、出来るのか?」
「やったのだから、出来る」
なんとも納得のいかない様子のスイフォードだが今は戦闘に集中してもらわねば。
次々来る氷魔法と凍結の息を避けたり部下たちが防ぐ。
ついには上空を取れた。
「よし、いい絵がとれた」
「絵……?」
「いやいやなんでもない。それじゃあ行ってらっしゃい!」
この世界のカメラはまだまだ一瞬では撮れない。
格好の位置で撮って報告するのが大変だ。
それはそれとしてこの位置からならば部下たちも戦いやすい。
「はーい、先陣します」
「同じく」
「後に続きます」
パラディンとスラッシャーが先に飛び降りのこり3匹の部下も飛び降りる。
1番驚いているのはガチフリーズではなくスイフォードだった。
「な!? 馬鹿死ぬぞ!?」
「大丈夫、ただ着陸は難しいから下行こうか」
「はあ!?」