三十四生目 焼肉
私は群れへの説明を終えると、早速本の解読に取り掛かった。
やり方はわかったものの、言語学習はめちゃくちゃ脳を使う。
スキルの高速思考がなければキツかったろうなぁ。
高速思考と言語解読のレベルが3に上がる程度には大変だったよ。
さて、本への解読を使おう。
スキル観察を起動すれば常時発動型の言語理解と組み合わさり、自動学習が始まる。
そのさいは脳が物凄く使われるから疲労とかダメージが凄い。
前よりスキルレベルが増えているから少しはマシだと思いたい。
さて、この文字に対してもちゃんと使えるよね?
[未解析の本 読めない言葉で書かれた本。全219頁。]
[言語解読と観察のスキルにより言語学習が開始されます]
ひえっ。
あああぁッ、頭が割れそう!
異常な欲が湧いて本のページをガンガンめくる。
痛い、めくる、つらい、めくる。
めくってめくって。
読めるはずないのに目から送られる画像を言語分野が解析しまくって。
いてええええッ!
本当に酷いぞ!
ニンゲンだったら痛みで涙が止まらない!
幸いホエハリは痛くてもそんな事にはならない。
あああ、なんか無理矢理私の身体が使われている感じだあああ!
いちいち痛いけど、前は意識飛びそうだったからマシだ!
そんな風に延々苦労していてやっと最後のページにたどり着く。
[対象の言語を学習 +経験]
[言語解読 +レベル]
[高速思考 +レベル]
ひええ、またこれだけでスキルレベルが上がる辺りからこれがどんだけエグいかがわかる。
ヒーリング、ヒーリングと。
ふぅ〜……。
これ毎回やるのかなと思うとかなり気持ちが沈む。
効果そのものは絶大なんだけれど頭が狂って死にそうになる。
一度死んだ私が言うのだから間違いない。
1歩間違えるかどうかの細い線を渡り歩く戦いだ。
いや、歩くのは私だけど無理矢理ワイヤーに括られて引っ張られ崖から崖まで引きずられダッシュしている状態か。
死ぬわ!
一応リターンはデカい。
一つの読みや書きの言語を手に入れる。
人と交流したかった私としては渡りに船だ。
さて、読み取ってみよう。
[深獄探索記の本 あらすじ:実話を元にした小説。主人公は信頼できる4人の仲間と共に深獄という二つ名の迷宮に挑む。鼻歌交じりに強敵を打ち破る主人公たちと、それでも1人また1人と手負い町へ帰る迷宮の厳しさが書かれている。主人公1人になっても奥へと進み最悪の敵すらもギリギリ破り、多く財を手に入れるまでの内容となっている]
なるほど、いわゆる俺つえー系という奴かな。
……実話じゃなきゃね。
この世界では迷宮だの魔物だのが実際にあるから困ったもんだね。
いや迷宮は私も初めて聞いたけど。
大切に読ませてもらおう。
群れはニンゲンたちの品々が手に入り、また少しずつ変化が起こっていった。
幸い炭なら消化しきれないほどあるし、神経質になってガンガン次を生産しているので売るほどある。
保存が利くものではあるけれど、さすがに限度があるからね。
実際に物々交換で売ってしまえば良いわけだ。
スペード隊が狩ってきたウサギを解体する。
ウサギは狩った時にすでに血抜きが終わっている。
血抜きは私が教えた。
喉笛だけでは全部抜けないので頸動脈あたりを切る。
スペード隊に頸動脈を切って血抜きをすると肉をおいしく保てるというのを教えるのが大変だった。
そもそも相手は一応年上なのだ。
こどもの戯言をまともに聞いてくれる段階までいくのが大変だった。
彼らだってプロとしてちゃんとやってるからね。
それに身体の医学知識とかない。
ケイドウミャクなるものがなんなのか、私のホエハリ語とサウンドウェーブでのニホン語を合わせたもので何回かに分けて教えた。
そもそも私も知識をサルベージしただけでどこまでこの世界に適用するかわかったもんじゃない。
私の知識が間違っている点もある。
それでも最終的になんとか話が通って今がある。
あの鹿肉あたりも旨さが溢れた時は感動したものだ。
もちろんそれは群れの仲間も同じ。
いや、群れの仲間の場合今までも美味しい扱いだったから劇的だったと思う。
どんな魔法を使ったのかとスペード隊が周りから問われていたのを見ていた。
プロの秘密だ、とか返していた気がする。
実際においしい料理を作る魔法とかあるんだろうか。
あったら便利過ぎる魔法だから是非ほしい。
さてその血抜きウサギはそれぞれが食べる部位にわけられ毛皮もとられた後。
炭を並べた所にダイヤ隊が人工物の器に入った不思議な水をかけてゆく。
するとあら不思議、どんどん炭たちが熱を持って燃えだした。
火の魔力が込められたもので簡単にものを燃やせるんだとか。
ちなみに家庭用らしくて観察によると熱くなるまで少しラグがあり、間違ってかかってしまっても直ぐにふき落とせるようになっているとか。
また熱くなった後直ぐに力が無くなるため炭みたいな別燃料への着火がメインだそうだ。
よく温まった炭の上に手慣れたものですぐに足場と土器を用意。
最近は火力があがったせいか土の加護のおかげか土器のレベルが増している。
セラミックとは言わないが縄文土器から弥生ぐらいまではいけたと思う。
ドンと置かれた今回の土器は長い鉄板のようなもの。
そこに獣油をたっぷり。
そして各々担当の部位を順番に投げ込む。
ここで登場しますのが黒胡椒。
そう、胡椒だ!
これも置いていってくれたものできちんと轢かれた上質なあらびき。
私達ホエハリはそれがニンゲンレベルで使うとにおいが強すぎて死ぬので、僅かに使う。
それでも劇的に肉の旨味が増える。
ホエハリに取ってにおいは命なのだ。
誰かがごくりとツバを飲む音が聴こえる。
少し我慢。
ダイヤ隊が慣れたもので口に咥えた棒で肉をひっくり返しよく焼く。
前世ではライオンなんかは焼いた肉は嫌がっていた実験があった気がする。
実際ここまでの変化は私の立ち回りが大きい気もする。
それ以上にホエハリに受けいれられる柔軟さがあったのだろう。
そして最も上質な部位を真っ先にキングとクイーンに渡す。
専用の土器は作者の1匹でもある私が言うのもなんだがめちゃくちゃ豪華だ。
群れのみんなでアレコレ工夫をこらして立派なサイズにハック主導のデザイン。
土の加護がある血を惜しみなく使い、炭も窯も一番調子が良いやつを使った。
試行錯誤を繰り返して出来が一番良いやつをふたりに贈ったのだ。
残りのは王用に作ったものを配下が使うわけにもいかず売る予定。
もちろんふたりが触れば熱すぎる肉はすぐに冷まされる。
この機能は便利だよね。
そしてかぶりついてから次の面々が食事だ。
ちなみにドングリ系やキノコ系もじゃんじゃん焼く。
人が持ってきたよくわからないハーブやおいしそうな保存食もじゃんじゃん混ぜる。
炭火焼きパーティだ。
食事1つとってもこれだけちょっとした変化があるわけで。
群れがどんどんと人間の道具の使い方を覚えていくさまは頼もしさすらある。
全部私が観察して使い方を地道に教えてるぶんもあるけどね。
どうやれば安全でまたは危険なのかというのがわかればなんとかなるものだ。
少しずつ上がる生活レベルに一番嬉しそうなのは私だっただろうか?
なんとなくだがみんなも喜んでくれているようだ。
けれど一番は母な気がする。
母はいつもニコニコしているが冬に対してはそこそこ深刻な気持ちを抱いていたらしい。
それがつきものが落ちたように最近は満面の笑みだ。
少しでも助けになっているのなら良いな!
後書き
傷を癒やす薬草
年がら年中採取可能な薬草でちょっとした傷なら直接貼り付けたりすると良く効くよ。
冬は少ししか取れないけどちゃんと取れて、食べてもみずみずしく薬味として使える。