三百五十九生目 特攻
スイフォードは『空に座って』悠然と見下ろしてくる。
「話せ、か。俺になんのメリットがある?」
まあそれもそうか。
だがまあここはゴリ押ししよう。
「むしろ、解凍をした手間賃と思っていただければ」
「……良いだろう」
ものすごく嫌な顔をされた。
だが許可してくれた。
部下たちも少しほっとした。
「あれは……黒い獣だった。白の景色と共にやってきて、あたりを凍てつかせた。俺もドラゴンブレスで対抗したが、気づいたら凍っていた」
「その黒い獣はどのぐらいの大きさで?」
「俺と同じ……いや飛んでいる俺と同じ位置に攻撃が来たから……そうだな、俺よりもやや大きいか」
スイフォードが推測しながらそう語ってくれた。
ううむ。困るなそんな大きい相手は。
ポロニアだけでいいからそんなの。
極寒の魔法かなにかを操る黒い魔獣か……
解決するにはその相手を探し出して倒したりなんなりしておとなしくさせる必要がありそうだ。
「それと……おそらくお前らはここらへんには普段いないだろう?」
「うん? そうだね」
「なら仕方ないか……明らかにあの黒い獣がいた前と違って異常なものがある」
異常、か……
たしかに"魔感"で遠くから気配はするしそちら側へ歩いていたが。
まさかその気配かな。
「俺は飛んで見に行き、このクソ吹雪の原因や黒い獣がいるならどちらも壊す。お前らは、好きにしろ」
おお、コレはあれだね。
フリってやつだね。
「それじゃあ好きにさせてもらうよ!」
「ローズさん、一体どうしま……わあ!?」
「乗っちゃうの!? 乗っちゃうんで!?」
尾を足場にして跳び上がりスイフォードの背中に乗る。
まあそりゃ誘われたしね。
「みんなー、置いていくよー! それともちょっと高い?」
「あ、大丈夫、大丈夫です!」
「いきます、乗りますよもう!」
「……ちっ」
イラつきを表しながら待っていてくれる。
ツンだのデレだのという波動を感じた。
全員乗ってからスイフォードは翼を広げる。
その大きく青白い羽根の生えた翼は改めて広げたのを見ると神秘的ですらある。
羽ばたけばあっという間に空に向かって吸い込まれるように移動する。
「ひゃー! はやい!」
「き、きつい……」
「つぶれるー!」
部下たちが弱音をはいているが私が1番弱音を言いたい。
最近はよく飛んでいるしスキルもあるがアレはアインス頼りだからなあ。
トラウマとはいえ誰かの背中に乗るのはまだマシ……だ。
上昇し続けて吹雪の雲を抜ける。
さすがにここまでくれば晴れていた。
「うわあ……きれい」
「んん、なんか耳がおかしい」
「気圧かな。そういう時はね……」
背中の喧騒をつとめて無視するスイフォード。
そのまま異常な反応があるところまで向かった。
「それにしても、上のほうがまだあたたかいとは……」
「まあさすがに吹雪いているよりかは、マシですね」
さらに飛びつづけやがて景色が変わってくる。
というよりもなぜか吹雪雲の上なのにさらにふたたび雪とともに凍てつく風。
理由はさすがに目視が出来た。
「なんだ、あれは……」
「魔力のカタマリ……いや、あれは、まさか!」
寒さの中心地。
白い景色どころか白いカタマリとなっているその姿。
雲の中に白い体が大きくはまっている
こちらをゆっくりと振り向くその姿は……
とってつけたような目と口があった。
[ガチフリーズLv.31 比較:強い 異常化攻撃:冷凍]
[ガチフリーズ ヒヤフリーズがなぜかトランスしてしまった。いたずら心がめばえ、近づくものみな凍らせるぞ]
「げえ!」
「ろ、ローズさん、あれもしかして魔物ですか!?」
絶対に相容れないタイプの魔物だ。
何せほとんどちゃんとした思考はない。
しかもトランスして思考はないのに単純な心がうまれてしまっている。
つまり。
無邪気にみな破壊しに来る!
「めちゃくちゃ危険な魔物だよ! 話し合いは通じないだろうから、その覚悟で!」
「「はい!」」
「ちっ……マズイな……」
スイフォードの小声に気づき"鷹目"でスイフォードを見ると顔先や翼の先端が凍てつきはじめていた。
寒いとは思っていたがそこまで影響が……
さすがにスイフォードも余裕がなくなり歯を食いしばる。
「おい……お前ら。一旦降ろしてやる」
「え?」
「ここから先は、危険すぎる。お前らではどうしようもない。アイツは、俺が仕留める!」
さらにスイフォードの体が凍てつきだす。
ええっと。
もしかして特攻しようと……盛り上がっていらっしゃる?
「だから地上に行く――」
「ええと、決死の覚悟のところ、悪いけれど、それ」
火魔法"ヒートストロング"強めバージョン。
寒い場所でもホカホカ。
スイフォードの氷が溶けてゆく。
聖魔法"クリアウェザー"も。
吹雪という天候がスイフォードを避けていく。
光の膜が防いでいるからだ。
「……あー……」




