三百五十四生目 歓待
こんにちは。先日活躍してくれた剣ゼロエネミーの手入れ中です。
今回大きく戦局を変えたと言って良いこの剣。
本当におかざりを卒業してしまった。
きちんと最後に拭き取りを終えれば喜んでいる感情が伝わってくる。
こっちもうれしい。
鞘にしまって空魔法"ストレージ"にしまう。
ちなみにこの程度の作業ならば"進化"せずとも"変装"で手や腰を変化させておこなえる。
もはや慣れたものだ。
激戦を乗り越え少しの休暇をもらい十分にのびのびさせてもらった。
いやあ魔物って疲れ切っていると溶けるかのように寝られるね!
全身の筋肉がほぐれて餅のようになったよ。
すっかり秋日和な今日この頃だが休暇は終わりやることがある。
というわけでアノニマルースからニンゲンの街へ移動した。
ニンゲンの街とは言っても外れの方だ。
街壁よりも外。
ここに会いに来たのは魔物たちだ。
野生ではなく以前違法賭け事の対象として殺し合いをさせられていた魔物たち。
魔王復活秘密結社により使われていたが解放後はニンゲンの魔物使いに飼われていた。
「こんにちはー」
「おお、お待ちしていました!」
迎えてくれたのがその魔物使い。
さわやかな青年のはずだがその服は常に汚れている。
落としきれないだけかもしれないが。
「魔物たちはどうですか?」
「はい、元気ですよ!」
魔物たちは自然へ帰るための訓練を終えて今日解放される予定だ。
ただ現地までは危険なため冒険者に引き渡される。
それで事情に詳しい私がホリハリーの姿で服を着て冒険者として引き受けることになっていた。
馬車に積まれ魔物専用の容器に入れられている。
あの容器の中ならば結界を通っても弾かれないのだそうだ。
このまま輸送することとなる。
「それで、荒野の迷宮でいいんですか?」
「ええ、このあたりの迷宮だとそこが1番都合が良いですね。人間には厳しい環境ですが魔物が豊富にいて、彼らの適性としても生きのびやすいですから」
そして行き先は都合よく荒野の迷宮。
森の迷宮と迷ったらしいが湿度に弱い魔物がいたのでこうなった。
本来なら彼らが本来いた場所に返すのが良いが海外が多いらしく空輸の発達していないこの世界では非現実的。
というわけでこうなったそうな。
自然界でちゃんと生き延びれるように鍛えられたらしいので多少荒っぽい土地でもへっちゃらだ。
「それではいってきます!」
「よろしくおねがいしまーす!」
魔物使いに見送られて出発。
彼が見えなくなり結界にさしかかる。
九尾特性丸薬(改)を飲んで結界をすり抜けた。
よしココまでくれば大丈夫かな。
……そろそろ後ろで騒いでいる魔物たちの言葉を聞いても。
「ねえねえ! 無視しないでー!」
「あの時の魔物でしょ! 久しぶり!」
「おーい、こっち向いて!」
「わかったから! わかったから!」
彼らは"観察"済みなので当然言葉はわかる。
魔物使いのところでもめちゃくちゃ話しかけられてつとめて無視するのが大変だった……
数も10以上いるから大変。
誰かに見られていないかチェックしつつ道を外れて木影へ。
カル車の操作をやめて荷台に乗っている魔物たちの元に向かった。
さらにアノニマルースで使っている受信機をみんなに渡す。
「改めて。お久しぶり、みんな!」
「ほんと久しぶりー!」
「元気ー?」
「なんか長かったなー」
「おお、コレ言葉がみんなわかるのか?」
「へー」
「さっきは無視するのひどいよぅ」
私は苦笑いした。
彼らは昔会った時は恐怖とまともじゃない飼育環境でとても健康的には見えなかったが今ではすっかり元気だ。
互いが互いの声が分かるのを不思議がって面白がっているようだ。
「そりゃあさっきは、魔物使いがいたからキミたちと話すわけにはいかなかったんだよ? 彼はどうだった?」
「やさしいニンゲンだった!」
「へんなの刺したりしてこない!」
「意外にしっかり怒るときあったな」
「それはアンタが食い物盗るから〜!」
どうやら仕事をしっかりしてくれたらしい。
そこまで聞けたら安心だ。
「さて、この後なんだけれど」
「どうするの?」
「本来ならキミたちを自然へ返すんだけれど……ちょっと私の群れを見ていかない?」
「あんたの群れ?」
みんなが疑問符を浮かべている。
それにしてもさすがにこの量の相手と話すのは大変だ。
私だけ受信機ないから全部翻訳通さずに聞いているわけで理解のために脳がフルスロットル。
「そう、気に入ったらいてくれると嬉しいなって」
アノニマルースへ空魔法"ファストトラベル"で移動。
一瞬でついたこと自体にみなおどろき容器を開けるとアノニマルースへ向かっていった。