三百五十三生目 停戦
「よっし、待たせたな!」
「援軍である!」
赤蛇と黒蜘蛛が小型分身にまとわりつかれながらやってきた。
その背後には大勢の蛇と蜘蛛。
小型分身体1体に対して何匹も蛇や蜘蛛が襲いかかって匹数有利が逆転だ。
これであと大型1体を倒すだけ!
「…ふむ、邪魔もの、か。どうやら、ここが、引き際のようだな」
「なっ!?」
この声はポロニア!
近くの空間が蜃気楼のように歪み実像が現れる。
霊体になっていたポロニアが現れたのだ。
「……また、来よう。次は、互いが尽きるまで」
「うおおおお!! 逃がすかあ!!」
「そこだっ」
赤蛇が絡みつこうと飛びかかり黒蜘蛛が糸を吐く。
黒蜘蛛を目視してゆったりとだが無駄なく回避しそのままの勢いで赤蛇を軽く払う。
「ぐあっ!?」
「くっ」
赤蛇があしらわれなんとか体勢を立て直し受け身をとって着地。
黒蜘蛛は糸がだめだと判断して切った。
小型たちがいつのまにか引いてゆき大型も離れていく。
そしてポロニア本体は何か魔力をためている!?
魔法として具現化し4つの軸から稲妻がほとばしる。
中心に集まって行き膨大でなおかつあちらこちらへ電撃が飛ぶ。
「うわっ!」
「ぎゃあー!」
「よっと。こりゃやばいな」
あちこちに電撃の飛び火して味方の魔物たちに当たっているのも危険。
だが本体の密集されている雷撃はその比じゃない。
飛び火の雷撃が地を走り壁を焼いてドライがなんとか避ける。
「……置き土産だ。撤退は、させてもらおう」
「危ない!」
黒蜘蛛と赤蛇に密集した雷撃が放たれる。
あれはダントツに危険だと"魔感"でも感じる。
直前にドライがイバラから剣をぶん投げ……
激しい空気を切り裂き壊す音と共に雷撃がほとばしるエネルギーを放った。
周囲に閃光が走り何も見えなくなる。
少しして目を開けると……
「ポロニアがいない! っと、どうなった?」
ドライが目線を彷徨わせるがすでにポロニアは撤退していた。
そして雷撃を受けた赤蛇と黒蜘蛛は……
はたして平然と立っていた。
というよりも驚愕して立ちすくんでいた。
彼らの前にあるのは1つの剣。
雷撃を多量に帯びていたが徐々に引きずり込むように剣に飲まれる。
やがて軽いポンという音と共にさっき放たれたはずの雷撃のほとんどを飲み込んでしまった。
それから地上に落ちて刺さる。
「す、すごい……」
「大丈夫か? 大丈夫そうだな」
ドライが駆け寄って剣を回収しにいく。
ふたりは驚きはしたが大丈夫そうだ。
「あ、ああ。助かった」
「すまない、逆に助けられたな」
剣を口にくわえる。
うん!? なんだ!?
剣から力が流れ込んでくる……!!
私が酩酊しそうな力をドライは軽く瞳を閉じるだけで乗り切った。
強く剣を払って汚れをざっくり落とし空魔法"ストレージ"にある亜空間にある鞘にしまう。
(今の……何か新しく力を手に入れたらしいな)
[電気魔法 電気属性の魔法が使えるようになる]
[ショック 前方に雷撃を放つ]
[チャージボルト 自身に電気をためる]
新スキルだって!?
しかも魔法!
聞いていた所有者の力にするってこんな形だとは!
剣がなんとなく誇らしげ……むしろドヤと言いたげな雰囲気を感じる。
うんこれはさすがに誇っていいわ。
「よくやった、ゼロエネミー! ありがとな」
ドライがそう言うと鞘からあたたかな喜びが伝わってきた。
剣を"ストレージ"の亜空間にしまいこむ。
赤蛇が疑問符を頭に浮かべる。
「なあローズさんよ、誰と話しているんだ?」
「ん? ああ、剣だよ剣。意思があるからな」
「ほーん?」
よく分かっていなさそうだったが自分で咀嚼して飲み込んだらしい。
というかドライもわざわざややこしくなること言わなくても良いのに。
まあ良いけれど。
その日は終始戦闘の治療に専念することとなった。
まず全員の疲労がすさまじい。
前にいた者から後方支援のものそして私まで疲れ切っていた。
実際の負傷とその治療や準備に追われたことの疲労もあるが。
何よりも初めての『戦場』というものにみな飲まれてしまっていた。
互いに生き残ったことを称え合い傷を癒やす。
翌日からは戦後処理というもの。
とは言っても相手の遺体はないが。
それでもやることはある。
写真(九尾風に言うならば写し絵)におさめておく必要もあるしどこが楽に持ち堪えてどこが苦戦したか検証。
そこからの反省会。
反省会の情報を元にした罠の再設置や軍隊の見直しなどなど……
何日も膨大な時間をとられたがポロニアはまたやってくる。
絶対に大事だと自分に言い聞かせて作業に没頭した。
「……ゲフッ、ガバッ、ゴホッ、ゴホゴホ……!!
……あれだけで、これか……だが、まだ、見極めるまでは、ゴホッ! ゴホゴホ……」