三百五十一生目 茨鞭
『ジャグナー、一部の大型分身を倒したから飛行部隊を!』
『わかった! ようし、盛り返してやるぜ!』
ジャグナーと"以心伝心"で念話をして指示を出す。
少しすると空から味方の飛行部隊が飛んできた。
これで私がいないところも安心だ。
小型たちは私が危ないことに気づいて先に攻撃の届かない場所に移動するせいで思ったより数は狩れていない。
だが飛行部隊はほぼ一方的に小型を攻められる。
そこに地上部隊が加われば安心だ。
あとは……
『こちらヤマガフガ、あとちょいでつくぜ!』
『ウドジョだ。もう少しだけ持ち堪えてくれ』
『わかった!』
赤蛇と黒蜘蛛から連絡が来た。
もうじきこの戦場につくらしい。
なんとかなりそうだ。
私がこの剣ゼロエネミーの力と組み合わせて思ったよりも数をものともせず暴れまわれたのは良かった。
小型は本当に数が多くやっと3、4割は減らせたかなというところ。
人間の軍隊なら大損害だが彼らはポロニアの分身だから命じられれば最後の1体までも戦い続けるだろう。
罠による撃破と地上と飛行部隊の合わさったあたりが大きい戦果を出している。
大型分身のこり3体を叩く!
残りはどこに……
「んっ!? 固まっているな……」
ジャグナーが見た方向に大型分身体が3体まとまっていた。
今までの攻防の中で1番手薄と思われた箇所に集中していた。
あっちはまだ外壁も低くてこれから工事というところだ。
近寄ってみると地上部隊がかなり押されていた。
負傷者も多く防衛ラインを外壁まで下げざるをえなくなっている。
小型たちも数えるのも面倒なほどに群がり押し込んでいた。
急いで剣のオーラを全開にしてぶつける!
外壁やアノニマルースの魔物たちに魔法や攻撃を仕掛けていた小型分身たちの動きが止まる。
大型分身も思わず怯み私の方へと向き直した。
小型分身たちをドライによる操作でイバラによってなぎ倒し傷ついた味方に近づいた。
「こちらローズオーラ、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫……と言いたいところだけれど、任せても良いですか」
「ああ!」
小型分身体に集われていた負傷兵たちを後ろに下げ比較的元気な兵と私が前に出る。
元気と言っても誰も彼も土と傷で汚れ明らかに疲弊が見える。
ドライが恐ろしく頼もしいのはこういう時か。
「やあっと身体があったまって来たところだ、簡単に終わってくれるなよ!」
ドライが掛け声と共に普段はあまり表さない自身の強さの気配を全力でとき放つ。
"鷹目"で見てみるとその目はギラついていた。
笑い声と共に歩みだす。
ドライは本来どんどんと劣悪になる環境で落ちていく気力がむしろ高まる傾向にある。
辺りに血と毛皮が散らばっているような環境でこそ輝く性質。
そのおぞましさと力を感じ取って小型分身たちが後退していく。
ドライが剣をイバラで掴んだ。
それ使うの?
(ああ、代わりに攻撃魔法を頼んだ)
なるほど了解。
ドライが剣を振るえばイバラの長さと蛇腹剣の長さが組み合わさり予想外な程の射程。
逃げようとする小型分身体を斬り裂いた!
「行くぞぉ!!」
「「オオー!!」」
それをきっかけに大型分身体とドライが同時に駆ける。
そのあとに味方魔物軍が続く。
まだわらわらといる小型分身体は剣のオーラにより敵愾心が削がれてまるでかかしのよう。
私の身体をドライが操り大型分身体たちと衝突!
味方魔物たちはかかしになっていた小型分身体へ襲いかかった!
ようし、私もやろう。
ドライ! 少し時間を稼いで!
(あいよ! 倒しちまうぞ!)
フラグっぽいからやめて!
ドライがイバラに光を乗せて連打していく。
"連重撃"で2重にダメージが入るので比較的押しやすい。
相手が3体いるがそもそもイバラは10本でも伸ばせるのだ。
そこに"連重撃"で倍の攻撃量ではいくら相手が踊るかのように避けて爪や牙の光放ってきてもその攻撃をはたき落として避けた先に叩きつけてもおまけがくる。
おまけにレベルがやはり低い。
ポロニア全体で動き方や知識を共有しているようだがレベルは別。
基礎的な能力差が大きく開いている。
そうなると相手がこちらへとってくる対策は決まってくる。
大型分身1体が前に出てきて急速接近。
その裏に2体が隠れて人魂のような青白い火がいくつも現れる。
あれは霊属性あたりの魔法だ。
接近してくる分身体はダメージ覚悟だから迫り来るイバラを自身も傷つきながら切り払い食い破る。
フォーメーションで攻めてきた。
だが。土魔法"E・スピア"!!
目の前まで来ていた大型分身が唐突に生えた地面からの太く魔力光を帯びて輝く槍にブレーキかけるまもなくぶつかる!
そして無残にも頭を貫き光となって消え去った。