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三十三生目 交流

 ズンズン響くように頭が痛い。

 ただその代わり人の言葉を覚えれたっぽい!

 ただ今すぐ発音をサウンドウェーブで真似するのは難しいかな。


 にしても、人! 人だ!

 頭痛のせいで喜びとかが遅れたけれど初! ニンゲンとの遭遇!

 途中言っていた事は単語が拾えた程度だったなぁ。

 とりあえず私達を焼き討ちしにきた感じではなさそうだ。

 というかちょいちょい拾えた単語によると、この炭って高級なのかな?

[魔木の白炭 通常の土地では取れないほどの力を吸い上げた木を使った白い炭。燃やすと芳醇なかおりで全体が赤熱して煙を出さず燃える。]

 こんな感じで普通の木炭との違いがよくわからない。

 炭だなんてそもそも木があるところならニンゲンはどこでも作っているはず。

 さっきこの近くで人が住むわけがないみたいな話も気になる。

 気にはなるが話自体は常識的な粋を越えなかったからか先程から止まってしまっている。

 お金が無い、で終わる辺り初心者冒険者とかそこらへんなのかな。


 物々交換、とかも言っていなかった?

 もしかしたら、異文化交流のチャンスかも。


「ニンゲンたちはたまたま火に寄っただけみたいです」

「ああ、言葉は分からないが戦意は感じられないな」


 ダイヤ兄は別方向から同じような解釈をしたらしい。

 元々頭数不利だからダイヤ兄が攻めを仕掛けることはないだろうけど。

 ひとまず戦いにはならないようだ。


「今のうちにやることを済ましちゃいましょう、その後の脱出方法は策があります」

「策? まあお前さんの事だから何か良い案だろう。任せる」


 そこまで全面的に信頼されるとちょっと困るけれど……

 まあ、きっと大丈夫。




 ニンゲン3人組がすっかり熱で暖まった頃。

 いい感じにうとうとしてきた頃に私は唱える。

 ダーク!

 辺りが一瞬で暗闇に包まれる。

 その一瞬でダイヤ兄が外へ駆ける。

 これで離脱は出来た。


 ニンゲンたちが一瞬で暗闇に包まれた事で混乱している。

 なんだとか火が消えたとか非常にざわついている。

 ここまでしっかりとダークにかかってくれたのはニンゲンが初めてだからちょっと感動。

 優秀な目に頼り切りだからね。


 そして私はというと、彼らの側へとひたひた歩く。

 気配を殺したままゆっくりね。

 耳が彼らの心音を捉える。

 エリというレッサーエルフとソーヤというプラスヒューマンの心音はまさに乱れ打っている。

 心のさまをそのまま表しているかのようだ。

 そして一番ぎゃーすか騒いでいるプチオーガのアマネ、彼女はくせ者かもしれない。

 声とは裏腹に心音は落ち着いている。

 お化け屋敷とかでも一番騒いでいるくせに楽しがるだけで全然怖がらないタイプだ。

 そしてそれはこういう時に真っ先に戦闘態勢に入れる事を表す。

 既に大剣を半分くらい抜いた音がしている。

 私みたいなやつを見つけ次第たたっ斬れる体制だ。

 私はアマネのリーチ範囲に気をつけつつ接近した。


『私はその炭をつくったものだ』


 ふふふ、全員の心音が跳ねた。

 サウンドウェーブを使って洞窟内に思いっきり響くように声を出した。

 ただしまだ練習していないからまともに聞けたもんじゃない言葉だ。

 なまりがキツすぎるおじいちゃん風に聴こえたかもしれない。

 声色を先程の話に合わせて隠居爺さんみたいな低くしゃがれた感じだ。

 声がちゃんと再現出来ていないのがごまかせれていたらいいけど。


「え、だ、誰だ!? 今なんて!?」


 よし、人の声に聴こえているみたいだ!

 ここからは徐々にすり合わせる。


『ワタシ、スミ、ツクッタヤツ』


 噛み砕くようにゆっくり区切って伝える。

 ぶっつけ本番の練習で全身から変な汗が出る。


「え、ええと」

「炭……この炭を作った人って事!?」

「え、あ、使わせてもらっています! ごめんなさい!」


 しゃーおら! ほんの少し伝わったぞコラ!

 生まれていきなり練習なしでバトる程度の修羅場はくぐり抜けているんだこちとら!


『良い、よい』

「いいんだ……」

『それより……』


 私はその後もひたすらぶっつけ本番の発声練習を繰り返しながら要求を伝えた。

 1つ目はここの事は別に利用しても構わない事。

 2つ目はこの中にいる時は他の魔物がいても攻撃しないこと。攻撃するさいは反撃しなくてはならない時のみ。

 3つ目はココを壊したり汚したりしないこと。

 そして4つ目。

『物々交換、したい。炭と、ニンゲン文化の、何か』

「なるほど……確かにここじゃあ金はあってもしょうがないし、街の便利なものは手に入りにくいでしょうからね」

 ソーヤがそう答える。

 そうそう、だいぶすんなり話が通じるようになってきた。


『ああ、炭は、隣の、部屋。ゴミとは、換えるなよ?』

「そんな事したらアンタが地の果てまで追ってきそうだな……」

「まあ、私達そこまで恥知らずじゃないですからね」


 アマネとエリがそう言うが、アマネは何をそこまで恐れているんだろう。

 私にそこまでの能力はない。

 ただ、そんなことされたら炭を隠さなきゃいけなくなるなとか面倒さと悲しさが重なるうえ、私の文化交流が途絶えてしまって残念というだけの話だ。

 そんで最後だ。


『そして、これらを、ちゃんと、広めて、くれ』

「あ、はい、わかりました」

『これは、オマケ』


 話を聞いてくれたお礼にメディカルをソーヤに流し込む。

 非接触だが強化してあるから大丈夫だろう。


「あれ、身体が楽に……?」

『風邪は、気を付けなさい』

「やっぱり体調悪かったんじゃ?」

「いや、ちょっと熱っぽかっただけだって!」


 エリの言葉にソーヤが強がるが、少なくとも風邪ひきながら冒険するもんではない。

 行動力が私みたいに余裕がないのかもしれないが、治して貰った方がよかろうに。


『では、頼んだ』


 そう言ってからその場を離れてダークを消す。

 再び光が戻ってから騒ぎが洞窟内から聴こえる。

 ちょっとしたドッキリ体験だもんね。

 私は洞窟の外から中の声に耳を済ます。

 ピクピクと頭の上にあるものを動かせばちゃんと拾えるからね。


「凄かったなあ、まだ声が頭の中で響いてる気がするよ」

「少なくとも敵じゃあ無さそうで助かった……」

「あれ? アマネなんで剣を?」

「なんだ、あのヤバイ強さと獣の気配、感じ無かったの?」

「僕らはそういうスキル無いからねぇ」

「あの暗闇の中、おそらく声の主が遣わした強力な魔物が近くにいた。おそらくそいつを通して会話してたんだよ」

「ということは、魔獣使い!?」

「さあ? けれどわかったろう? 魔物を従える事が出来るような人が住んでるんだって!」

「まさか向こうから接触してくるなんてねぇ」

「私もさすがにココまでされたらいるって認めるしかないや」


 などなど、洞窟の中から聴こえてくる。

 なんだか盛大に勘違いしてくれたらしい。

 誘導したとは言え、ここまでうまく行くとは。

 プチオーガ(アマネ)は私が魔物だという点までは見抜けていたし少し危険だったかもしれない。

 けれどリターンは大きそうだ。




 ダイヤ兄と合流してからしばらくしたらまた炭の場所へと戻ってきた。

 そこには少しだけ減った炭とニンゲンたちが残したらしい雑貨。

 私がひときわ目を引いたのは、本だ。

 もしかしたらコレで言語を学べるかもしれない。

 自慢げな顔を見てダイヤ兄が何やら察したらしい。


「どうやってこれを手に入れたんだ?」


 そうダイヤ兄が聞いてきたが、群れのみんなにも聞いてもらわなきゃな。

 炭から始まる異文化交流、これから始まるよって。

TIPS

ホエハリ族の寿命:

 およそ10年ほど生きるがとても長生きな記録で12年が観察されているよ。

 ガウハリにトランスしたらおよそ20年ほどとも言われているけれど、群れを守って死んでしまうことも多いんだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] これだけの能力を持って生後半年とは凄いですね。
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