三百四十七生目 咆哮
神獣ポロニアが自らの分身を引き連れ軍として襲い掛かってきた。
一方面だけ集中してくくればいいがそうはならないだろう。
小型分身や大型分身が側面へ回り込むのが見える。
『ジャグナー!』
『ああ見ている! こっちも体制が整っているぞ!』
熊のジャグナーは戦場でこそ生き生きするとする性格なせいで"以心伝心"で聞こえてくる声が弾んでいる。
どれどれジャグナーの5感を借りて横からみてみよう。
『今こそ! 俺らの時間がやってくる!』
『『おおー!!』』
ジャグナーを通して震えるほどの絶叫が伝わってくる。
整列した魔物たちの怒声にも似た吠え声だ。
彼らは軍で鍛えたり狩りをしたり農業に勤しんだり冒険者として活躍している魔物たち。
魔物はその性質上戦えるものは多い。
ただ生きるために狩りだけしてきた魔物と彼らはかなり違う。
日々鍛え経験を積み私の"指導者"の影響で経験が分配されている。
さらにジャグナーとの訓練で種族を越えた集団攻防を学んでいる。
『俺らがやってきたことが無駄ではないと、敵に見せてくてやれ! ここを死守するぞ!!』
『『おおー!!!』』
ジャグナーも含め魔物の多くは武装している。
私の他にサイクロプスたちや魔物大好きな鍛冶師カンタがせっせとこしらえてくれたものだ。
土の加護がついているため軽いし意思を持っていて並の武具と比べてずっと優れている。
この武装が扱えるのも彼らの利点。
飛行部隊のようにあまり重くできなくとも十分な頑強性を確保させ爪や牙が得意な魔物たちも爪や牙の鎧をまとわせる。
この個の強さはアドバンテージだがこちらの戦闘員はどうあがいても200ほど。
雑兵としてウロスさんとユウレンが骸骨たちを召喚しているが数がいても神獣ポロニアそのものには歯もたたないだろつ。
向こうはざっと数えて小型が1000はいる。
守りに徹しても限度が有る。
『こちらヤマガフカ! 急行している、持ちこたえてくれ!』
『ウドジョ同じく! 急いでも先行隊も20分以上はかかる』
赤蛇と黒蜘蛛から連絡が入った。
彼らの総員は2000ほど。
ポロニア以外は彼らが到着すれば逆に殲滅できる。
それにしてもこのような軍団が出来るのなら今までどうして……
いやむしろ向こうも地道に分身体を増やしていたのか?
大型分身体が少ないのも作るのが大変で時間がかかるとかあるのかもしれない。
罠による攻防で第一防衛ラインでぶつかっているが罠が尽きるまでが限度だ。
数が少ない分前準備で出来るだけ罠は仕込んでいたためあちこちでひっかかっているのが見える。
落下串刺しに爆発それに跳ね返しに単純な馬止め柵。
緩急のついたところで鉄塊棒転がしなんかもわりと決まっている。
骸骨たちが自爆覚悟で罠に誘導しているのがわりと効いていた。
私も早くポロニアの元へ行こう。
空から接近するのは簡単だった。
というよりは見逃されている様子。
大型分身たちがこちらを警戒はしたが優先的に手を出してこなかった。
ポロニアに呼ばれているのだろう。
アインスに頼んでポロニアの目の前まで飛翔する。
相変わらず白い巨大な毛玉が歩いているかのようだ。
「ポロニアさん! なぜ攻撃をしかけてくるんですか!」
「……決まっている」
重々しく響く声。
しわがれていてなお心を震わすような力強さ。
だからこそ1言が重い。
「……貴様らが和を乱す者たちだからだ。」
「和を乱す……?」
「女子どもとて容赦はせん。特に、貴様は、他とは異質すぎる。
この短期間にどれほどの、力を……放っては、おけまい」
「……あなたが荒野の迷宮の、管理者だからですか?」
ただの推論だ。
だが今までそれらしいヒントはあった。
ポロニアが「ほう」とつぶやく。
「……よく当てたな」
「長命の魔物含めて、ある程度伝説的にも英傑として語られる点と、迷宮の主についての情報を照らし合わせました」
ポロニアが神出鬼没で見ていたかのように危険から助けにまわっていた英傑伝説。
普段は管理部屋にいて事前に迷宮全体の管理。
さらに危機を事前察知して自身が向かったり分身体を向かわせたのだろう。
広い迷宮内全体を把握するのは困難だ。
その方法も限られている。
それと……他にも気になっていることがあるがそこは良いだろう。
「……だが、あえて言おう。ここに私がいるのは、もはや個人の妄念だ」
「えっ!?」
「……貴様の正しさを、証明してみせよ」
どういうことだ!?
正しさって何を……そんな今大事な事か!?
そんな疑問を持つのもつかの間。
「おおおおおおおぉ!!」
大気を震わすポロニアの咆哮!
"影の瞼"で恐怖に抵抗し成功。
状態異常は入らなかったがみんなが心配だ。
『ジャグナーたち大丈夫!?』
『ああ、だいたいの奴らがローズから能力を借りて防げた』
私から"率いる者"を使って"影の瞼"を借りれたようだ。
訓練どおり。
だがここからだ。