三百四十四生目 猪人
"無敵"と"ヒーリング"でダイヤウルこと狼たちを起こす。
起きたらすっかりおとなしくなっていた。
敵愾心がごっそりなくなったおかげだろう。
シュンとうなだれている3匹はこうしているとキュート。
それはそれとして交渉だ。
「えー、実は私は今、魔物たちの集まりを作っています」
「あ、あの恐ろしい魔物使いとかいう……?」
「恐ろしい魔物を力で従えるニンゲン……!?」
「ああ違う違う、私はこう見えて魔物なんだよ」
身を寄せ合って子犬のように震えているところ悪いがそうではない
そう言って"進化"を解くと目をまんまるにして驚いた。
「これは、奇妙な……」
「まあそれで、みんなで仲良くやろうって場所を今作っているから、ちょっと見てみない? ってこと。ぜひ力を貸してもらいたいけれど、まだそっちの事情もあるからね」
「力を……」
"光速"の何かに触れたらしくて尾が揺れる。
なんとかなりそうだ。
「とりあえず体験だけでもということで」
「う、うん、我らの身体を倒せる相手だなんて初めてだから、キミにも興味がある。行くよ」
「俺も!」
「おなかすいたからね!」
話がまとまり空魔法"ファストトラベル"で送り届けた。
あとはアヅキあたりがうまくやってくれる。
私は再び大工を待とう。
ガラガラという音が聞こえて来た。
馬車ならぬカルクックのひくカル車が遠くに見える。
ホリハリー状態だからドッキリはバレないだろう。
「こんにちはー!」
腕を振ると向こうも気づいて腕を振ってくる。
「オーッス!!」
威勢の良い掛け声が飛んできた。
うん聞き覚えのある声だ。
少し待てば大型の馬車がいくつも私の前に到着した。
目の前に歩み寄ってきた歯を剥き出しにした全力の笑顔を見せる猪のような雰囲気がある彼女。
ニンゲンのトランスがひとつオークである彼女こそが……
「あんたが依頼主だな! オレがガラハ! よろしくな!」
「はい。話は伺っています」
店で『まだ子どもながら危なそうなくらい粗野な女がいたら、そいつが社長』と聞いた時は噴き出しそうになった。
ガラハのことは知っていたが改めて他人からの外見評価を聞くと笑ってしまう。
良い子なんだよ!
ガラハは私が小さい時に野盗まがいだったのをとっちめて改心してもらった子たちだ。
ある程度自分たちで食べていけるようになってから別れたのだが……
どうやらうまくやっている様子。
とは言ってもそのころは私はケンハリマから"進化"はできなかったからホリハリー状態で合うのは初めて。
なので相手は気づくことは出来ない。
「それで依頼の場所なんだが、詳細は現地でと聞いているぜ」
「ええ、それではさっそく移動しましょう」
私は背後を向いてこっそり笑う。
こういうドッキリも良いものだ。
「それでは行きましょう、こちらです」
私が笑顔で手を差し伸べた先の景色が歪む。
空間に大きな穴が開き暗闇が広がる。
馬車ごと通れるようにぽっかりと開いた穴。
それを眺めるガラハたち大工は顎をあんぐり開けて驚いていた。
まあそりゃそうなるよね。
「なんじゃあ……こりゃ……」
「さあ、行きましょう」
「行きましょって、ええ!?」
私は笑いをこらえながら空魔法"ゲートポータル"で作られた空間の穴へと向かう。
その様子を見て慌ててガラハたちも近づいてきた。
ざわつきが大きくなる。
「でっけぇ……でっけぇ穴だ」
「急にこんなのが……」
「大丈夫なのか……これは……」
少し仕様をいじってサイズの巨大化と向こうが見えなくするのを行った。
おかげでまるで暗黒界につながっているかのようす。
もちろん先は安全。
「どうしました? 大丈夫ですよ」
私が穴に近づいて身体を半分沈める。
あちらに顔を出したあとに再びこちらへ戻る。
笑顔笑顔。
「ほうら、平気ですよ!」
「いやあ、でもなあ……ううん」
「社長、どうします!」
「社長!」
部下たちがガラハに決断を迫る。
腕を組み少しの間目を閉じて思考。
気合いと共に目を開いた。
「よし! まずはオレが行く! そのあとお前らがついてこい!」
「「わかりました!」」
ガラハが荷物からスコップを取り出す。
アレは私が作って渡したやつだ。
まだ使っていてくれたのね。
慎重に手を伸ばして……
穴に触れる瞬間に反射的に腕を引っ込めた。
「ううっ!?」
もちろん痛みではなく恐怖からの動きだ。
どうなるかわからない恐ろしさを少しずつならして指先から沈めていく。
手が入り腕も沈んで……
「お、おお、おおお……!」
荒い息遣いのまま肩そして頭が入った。
その先に見た光景とは……