三百四十二生目 掘具
資金の余裕が出来てきたことで真面目にもっとニンゲン側の力を雇い入れるのも視野に入ってきた。
とはいえ魔物のところにきてもらうのだから色々と秘密を守れないと困る。
なので私が直接出歩いて探ることにしていた。
時間が有る時にちょっとずつうろついて数件いっては話を聞いて"見透す眼"で秘密を守れるかを見てみたがイマイチ。
そもそも街の外に来てくれるような大工などの職人は少なめだった。
何日かにわけて探索するついでに町並みをよく見てアノニマルースでの再開発するさいの住宅街や施設配置を考える。
前世の記憶ももちろん参考にするが実際にこっちの世界の配置を見てみると改めて発見がある。
同じような背丈のニンゲンたちがいるだけの前世ですらバリアフリー化には苦労していたがこっちはもっと大変。
まさに多種多様だからね……
アノニマルースでは魔物たちのために4足歩行でも使えたり鳥でも入れたりなんなら住み分けも必要になってくる。
想像を膨らますにはやはり現物を見て回るのが1番だ。
そんなこんなで今も大工さんのところに来ているわけだが奇妙な勧めをもらった。
「うーん、外か……そういうところならうちじゃあなくて、最近有名なところがオススメですな」
「最近有名なところ、ですか?」
「ああ。なんでも迷宮内ですら仕事をやる、冒険者としての実力も兼ね備えたところらしいですな」
大工さんは腕を組んでしかめっ面をした。
いやもともとこういう顔なのかもしれないが。
「どういうところなんですか?」
「なんでも、やつらの仕事道具が特徴的らしくてですな。なんだったかな……ほら、掘る……スコップ!」
「ああ、ショベルですか!」
「スコ……まあどちらでも良いんですがな」
ショベルを使って迷宮内でも働く大工……
なんとなく知っているような。
「それでその、ショベル大工さんたちはどこに?」
「ふだんは迷宮や街をうろうろしていから、スコップ大工たちには直接は会えないんだが、受付はたしか……」
街での受付を教えてもらい早速向かうことにした。
チップを渡したらお菓子をもらう。
子どもっぽく見えるかなぁ。
街の1角に佇むその建物。
ここは繁華街からは外れていて土地代がたしか安い。
周囲に古くてボロくなっている建物が多い中でひときわ目立つリフォームしたての店があった。
正面に大きいショベルとトンカチのレプリカがクロスした目立つ物が掲げられている。
聞いた通りではあるが実物を見ても何屋かまったくわからないな……
まあ文字でちゃんと看板に[ガラハ大工 建築・家具作成仕事 危険な場所でも]と書かれているがわかる。
もはや疑う余地もなく彼らである。
扉を開くと奥で座っているニンゲンのおじさんの姿が見えた。
「おう! いらっしゃい!」
「こんにちはー」
話に聞いていた通りここには彼らはいないらしい。
現場で働いているのだろう。
「仕事の依頼をしたいのですが、良いですか?」
「はいよ!」
「詳しいことは直接会って話しますが、かくかくしかじか……」
はてさてこれで彼らの成長を久々に見られるとしたら嬉しい限りだ。
荒野の迷宮。
その入り口は山の頂上付近からさらに崖を降りた所にある。
なので山道はじまり付近で待ち合わせることとなっていた。
別にこっちから向かっても良かったのだが。
向こうの調整で今どこにいるかまたは仕事がどこまで終わっているかの情報がリアルタイム更新は出来ないためにこうなった。
まあ携帯電話なんてあるわけがないからね。
向こうが連絡ついた後待ち合わせ場所にここを指定されたために待機中。
なおホリハリーの姿で。
向こうはケンハリマのいつもの姿しか知らないから気づかれることはないだろう。
ちょっとしたいたずら心を抱えながら待つこといくばくか。
今のうちに剣の調子でも見ておこうかな。
よんでないお客さんが来たようだしね。
鞘におさまった剣に手をかけて周囲の気配を探れば3体ほどの魔物の気配。
普段私は強そうな気配は撒いていないからたまによってくるヤツはいる。
アノニマルースにスカウト出来るか見極めて気配解放して追い払ったり沈静化してから誘ったりしていた。
今回は……中々当たりのようす。
私の前にいる2体は配下で背後のがその親玉といったところか。
"観察"!
[ダイヤウルLv.18 異常化攻撃:認識外し]
[ダイヤウル 全身から高硬度の鉱物が生えた非常に珍しい狼系トランス先の魔物。傷ひとつつけるのにも苦労するのにすぐに逃げるうえ、いたという気配を一切断ってしまう]
なんと激レア魔物!
私の方から探しに行っても絶対に会えないタイプの魔物がやってきてくれた。
たまにはひとりでゆっくり待つものだ。
[観察スキルレベルアップ 7→8]
お。やったやった。
新しい機能だ。
さあ何が出るかな?